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第75章「新武器〜ファンクサスブレード」

 恭子のの翌日。

 「JOAR」一行はいつものようにプレイヤーパーティハウスに集まっていた。

「なぁ、ちょっといいかな?」

 ダラダラしている三人にそう言って声をかけるのは、昨日は重明と有子によく分からず付き合わされた仁のプレイヤーキャラクター、ジンだ。

「お、おい、ジン、何を言うつもりだ!」

「そうよ、ジン。直接尋ねるのは辞めといたほうがいいわよ」

 慌てたように二人が制止に入る。

「直接尋ねる? ……何を言ってるんだ?」

 アリの言葉にジンが首を傾げる。

「なんだ……違うのか……」

 ほっと、オルキヌスが息を吐く。

「二人して何の話だよ」

「いや、俺はてっきり昨日の話かと……」

「昨日? そういえば、三人でどこかに行ってたんだよね? どこ行ってたの? 楽しかった?」

 オルキヌスの言葉を聞いて、リベレントが顔を上げる。

 ちなみにリベレントは今日は《オーギュメントグラス》でダイブしてきており、パススルー機能で視界の下側に現実世界の視界を出現させている。

 そこで、昨日優希から借りた本を読んでいるのだ。

「ちょっと繁華街に行ってきたけど、寒かったし、目当ての店もいっぱいだったから、すぐ帰ったわ」

 リベレントの問いにオルキヌスとジンが固まっている間に、アリがすらすらと嘘を並べる。恐らく、事前に準備していたのだろう。

「そうなんだー。じゃあ、今度は四人で行こうよー」

「お、おう。まさにそんな話をしてたんだよ。だから、ジンはてっきりその話をするのかと思ってよ」

 リベレントの言葉にオルキヌスが応じる。

「? じゃあなんで止めてたの?」

 そこにリベレントが当然の疑問を口にする。そこまで考えていなかったオルキヌスが思わず口を閉じる。

「あ、えーっと、いつなら空いてるかとか調べてからの方がいいかなと思ってね」

 そこへ、アリが思考を巡らせて言い訳を重ねる。

「そっかー。じゃあ任せるよー」

 なんとか誤魔化せたらしい、と三人はほっと息を吐く。

 その様子にリベレントはまた首を傾げる。

「で、本当の話題はなんなの?」

 発端を忘れ、個々人がまた別々の行動に戻りそうな気配を感じたので、リベレントが尋ねる。

「あぁ、そうだった」

 忘れるところだった、とジンが手に取りかけた疑似タブレットを再び机の上に戻しながら応じる。

「一昨日の戦いで、俺の《ファンクサスブレード》が突然、見た目を変えただろ? あれをもう少し調べたくてさ」

 そう言って、もう一度、ジンが疑似タブレットを手にとって全員に見えるように示す。

「火属性のボスと戦いたいんだ」

「へぇ、F.N.M.『ヒノカグツチ』。強い刀を落とすって評判のF.N.M.よね? 大丈夫なの? 結構人集まりそうだけど」

「あー」

 アリの問いを「《ファンクサスブレード》を人目にさらして平気か?」という意味だと理解出来たジンは確かに、と唸った。

「大丈夫だと思うぜ」

「大丈夫だと思うよ」

 そこにオルキヌスとリベレントの言葉が重なる。

「どういうことだ?」

 二人にジンが問いかける。

「もう一昨日の戦いの内容はネットニュースになってる。決め手がジンの武器がモードチェンジしたことだってことも、な」

 お前、更に有名になっちまったぜ、と嬉しそうなオルキヌスの言葉。

「うん、私が言いたかったのも同じこと。あ、《ファンクサスブレード》って名前は知られてないから気をつけてね」

「? あぁ、そりゃ名前は言わなきゃ分かんないもんな」

 リベレントの言葉に少し首を傾げつつ、ジンが頷く。

「まぁ、そういうことならいいんじゃない? 《ファンクサスブレード》が強くなれば全体の戦力強化にもなるし」

 懸念点さえ解消されれば、アリも頷く。


 かくして、一行は大分県別府市の鶴見岳に来ていた。

 日本三百名山の一つでもある活火山たる鶴見岳。東側の麓には源泉数湧出量ともに日本一の別府温泉が広がる。

「なぁなぁ、F.N.M.狩りが終わったら、温泉入ろうぜー」

「いいねー」

 オルキヌスの提案に、リベレントが頷く。

 中腹から山頂まではロープウェイが通じており、一行は山頂までロープウェイで移動することが出来た。

 F.N.M.が湧く山頂には既に何組ものパーティが集まっていた。

「『JOAR』だ!」

「『JOAR』がなんでここに!?」

 ジン達が湧き待ちの集団に加わると、集団は一気に騒ぎになった。

 ヒノカグツチはアリが言っていた通り、レアな刀カテゴリの武器をドロップすることで有名だが、 「JOAR」には刀を使うようなキャラクターがいないため、その意味でも興味を惹かれたと見えるが、いずれにせよ、「JOAR」がそれだけ話題を集め有名になっていることの証左だろう。

 中には、何らかのメディアに「JOAR」の登場を告げるためか、ホロキーボードを展開し、何かをタイピングしているものさえいる。

「どうしてこちらに?」

「まさか、ジンさん、刀も使うんですか?」

「え、多種刀流デビュー!?」

 そうして待ち受けるのは質問攻めタイムだ。

「いやすまない。実はこの剣をもっと試したくて来ただけなんだ」

 迷った末、ジンが《ファンクサスブレード》を抜きながら答えると、おぉ、とどよめきがうまれる。

「LAは俺達は取らないように気をつけるから、あんまり敵視しないでくれると嬉しい」

 LAはラストアタックの略だ。ラストアタックを取ったキャラクターはレアドロップの確立が上がる。ジン達はレアドロップは不要なので、レアドロップ目当ての皆に遠慮したのだが。

「敵視なんてとんでもない! 『JOAR』の皆さんは、日本リージョンの希望の星じゃないですか!」

 ジンは知らなかったが、日本最大規模のメガコープである「ハーモニクス・ソリューション」の戦力である「JOAR」(と「デネ」及び「パラディンズ」)は、日本リージョンの希望の星と言われていた。もう一つの最大規模メガコープである「エレベートテック」があまり日本リージョンから有力なパーティを引き入れていないのもその要因と言えるだろう。

「そうですよ、遠慮なんてせず、俺達からLA奪うつもりで来てくださいよ」

「そうそう、『JOAR』のかっこいいところたくさんみたいです」

 人気な「JOAR」はそのままヒノカグツチがポップするまでの一時間を楽しいトークタイムで過ごした。


 そして、ヒノカグツチがポップする。見た目は端的に言えば四角い太陽のような見た目をしている。真っ赤な炎に覆われた四角い物体、それがヒノカグツチの見た目であった。

「『JOAR』攻撃開始!」

 ジンの号令の元、「JOAR」が攻撃を開始する。

 リベレントが正面で大楯を突き立て、その後ろからジンが魔法を、オルキヌスがフォトンビームを連射する。アリは二人を背後から支援している。

【コロナウェーブ】

 高レートの連続攻撃にヒノカグツチはすぐさま攻撃対象を「JOAR」と見定め、炎の衝撃波を飛ばして攻撃してくる。

 リベレントとジンは《ウォーターウォール》を詠唱し、二重の水の盾と大楯で炎の衝撃波を受け止める。

 その間に周囲のプレイヤーも攻撃をしており、ヒノカグツチのHPは着実に削れていく。

「おい、ジン。順調なのは強くなった実感が出て嬉しいけどよ、このまま順調すぎると、お前の剣を活用する機会がないぜ」

「だな。ちょっと無茶するか」

 そう言って、ジンは静かに《ファンクサスブレード》を抜き放った。あの戦いの後、再び雷を纏う状態に戻ってしまっている。

 自然と、参加しているプレイヤー全員の注目がジンに集まる。

「アリ、回復バフ任せた!」

 ジンは自身も《リジェネポーション》を飲んでから、WS《ライトニングスピード》を発動し、一気にヒノカグツチに突きを放つ。

 イフリートと同じ炎を纏っている関係で、ジンが炎に巻かれて炎のダメージが発生する。

「よかった、イフリートほどじゃないな!」

 ダメージ量の方はイフリートほどではなく、《リジェネポーション》の効果と、アリの回復バフにより、極めて微小なダメージ量に留まっている。

 さらにWSのグローバルクールタイムGCTが終わると同時、ジンはWS《サンダーストームラッシュ》を発動させ、人間業では不可能としか思えない雷の如き速度の連続斬りを命中させていく。

(これだとモードチェンジしないな……)

 思えば、前回はピンチになったことで発動した。恐らく炎属性の攻撃でHPが一定以下まで減った場合に発動する自動効果と思われるが、モードチェンジの方法がそれだけとは思えない。

 ジンは柄を引っ張ったり押し込んだり、出鱈目に捻りまくってみたりしてみたが、モードチェンジは発動する気配はない。

 それはそれとして、せっかくダメージの大きいWSを命中させているのに属性が弱点を突けていないために打点がイマイチ出ていないのが悲しい。

「ウォータル・アダレレ・グラディウス」

 と言うわけで《魔法剣・水》を詠唱する。《ライトニングソード》の時もそうだったが、既に属性の乗っている武器に対して魔法剣を発動しても効果が薄い。まぁ無いよりはマシだろう、と思ったのだが。

【モードチェンジ】

 剣の刃が一回転し、剣身を覆う雷が消えて剣身が水を纏い始める。

「え? こんな簡単なこと?」

 拍子抜けしたようにジンが思わず漏らす。

 だが、《モードチェンジ》出来たなら、もはや言うことは何もない。

 ジンは再び《オランド・ポラ・リュヴィア》を発動し、雨とともに強烈な濁流攻撃を放った。

 周囲のプレイヤーからどよめきや歓声が上がる。噂の新技を見る事が出来て興奮しているのだ。

 ヒノカグツチはそのダメージでHPが半分を切る。

【トランスフォーム】

 ヒノカグツチがその姿を人型に変化させる。

 刀身が炎で出来た刀――レアドロップから《火之迦具土之刀》という名前だと判明している――を構え、ジンと鍔迫りあう。

「もう一個のWSも試すか!」

 ジンはGCT終了と同時、《ファンクサスブレード》を先程とは逆方向に捻る。

【ペルポラシォン・デ・リュヴィア】

 剣身に纏わり付く水が騎乗槍ランスのように尖っていく。

 同時、ジンの足元に水が滲み出始める。

「え、お、うわあ!」

 ジンの足が水面に浮かび上がり、水が波のようにジンを載せて前へと進み始める。

 波はすごい勢いで前へ前へとジンを進ませ、ヒノカグツチに強烈な突きを放つ。

 ジンを載せた波は命中しただけでは止まらず、ヒノカグツチを貫通し、ヒノカグツチの十歩先ほどの位置で停止した。

 再び歓声が上がる。新しいWSの初披露を目撃できたのだから、無理からぬ事だろう。

 ヒノカグツチが振り返りながら、炎の斬撃を飛ばす。

 ジンは水を纏った《ファンクサスブレード》で炎の斬撃を切り払いながら、再びヒノカグツチに肉薄し、連撃をぶつける。

 それで、戦いは決着だった。

 ヒノカグツチが赤いデータ片となって消える。

 撃破される直前に空中に飛び上がった《火之迦具土之刀》が地面に突き刺さる。

 全員の注目がその刀に集まり、そして。

 《火之迦具土之刀》は赤いデータ片となって消えた。

 一斉に落胆の声が響く。

 ジンの《ファンクサスブレード》が再び刃を回転させ、纏うものが水から雷へと変化する。

「よし、これで使いこなせるぞ!」

 周囲の落胆に反して、ジンは達成感に満たされながら、《ファンクサスブレード》を鞘にしまう。

「やったなジン!」

「良かったね、ジン君! 後半、私役目なかったよー」

「私の回復のおかげだってことは忘れないでよね」

 「JOAR」の仲間達がジンを称える。

 それに他のプレイヤーも殺到する。

 今度こそ終わりのない質問会が開かれたのであった。

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