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第71章「冒険〜折れたる剣の代わりを求めて 下」

 とぐろを巻いて眠っている【|LightningEaterTsamtax《雷喰みツァムタックス》】。

 そ−っと近付いてみたところ、起きる様子はない。

 オルキヌスがジンに視線をやり、ジンが頷く。それで全員に意図が伝わった。

 このパーティで最も高火力を持つオルキヌスが初撃を与える、ということだ。

 アリがオルキヌスの背中に手を当て、強力なバフをかける。

「いくぜ、《カラミティトランプル》!」

 オルキヌスが水中で飛び上がり、水中で三回転しながら、雷喰みツァムタックスを攻撃する。

 突然大ダメージを受けた雷喰みツァムタックスは顔をもたげて激怒した様子を見せながら、大きく尻尾を振り回す。

「おぉっ!」

 オルキヌスが咄嗟に《ラージセイバーガード》を発動し、尻尾を受け止めるが、如何せん水中では踏ん張れないため、後方へと流される。

 暴れまわる雷喰みツァムタックスにより、落石が発生し、入り口が塞がれ、ドーム状の空間に閉じ込められる。

 リベレントが着底し、海底に大楯を突き立てて、いつもの構えを取る。

 その背後で、ジンが魔法の詠唱を開始し、オルキヌスが《フォトンクレイモア》を射撃モードに切り替え、射撃を開始する。

 高熱の赤いフォトンビームが周囲の水を蒸発させながら進み、雷喰みツァムタックスにダメージを与える。

 更にジンの《ストーンミサイル》が雷喰みツァムタックスに命中するが、こちらはダメージがそこまで高くない。

(雷を食うって言うからこいつも雷属性かと思ったがそんな単純じゃないか)

 怒り狂っている雷喰みツァムタックスは体のあちこちにある鱗を展開し、赤い生身部分を出現させる。

 合わせて周囲の水分が沸騰し、ボコボコと泡になって上方へと登っていく。

「こいつ、火属性か」

 ジンが詠唱する魔法を《ウォーターミサイル》に切り替えるが、特殊なギミック故だろうか、近付いた水の弾丸は周囲の水分同様即座に蒸発し、消失する。

「水が弱点なのに水が効かないのか!」

 ジンがごぼごぼと驚愕する。

 そうこう言っている間にも雷喰みツァムタックスの放熱は続き、気がつけば、周囲の水はほとんど蒸発して消失し、もはや岩のドームは水が膝までを濡らす程度の空間となっていた。

「はっ、水中戦じゃなくなるならこっちだって好都合だぜ!」

 オルキヌスがそう言って、牽制射撃を続けながら、一気に雷喰みツァムタックスに肉薄する。

 発動するは《カラミティトランプル》。オルキヌスによる連撃が雷喰みツァムタックスに再びダメージを刻む。

 だが、同時に。

「オルキヌス、下がれ! 自分のゲージ見ろ!」

 ジン達には見えてた。雷喰みツァムタックスに接敵したオルキヌスのHPゲージが猛烈な勢いで削れていくのを。

「おぉ!? HPがやべぇ!?」

 慌ててオルキヌスは後退し、リベレントの背後に戻る。

「ダメージはあの放熱のせいか? 厄介だな」

 ジンが《マジックミサイル》を連射しながら考察する。

 明らかに何らかのギミック。恐らくあの放熱を止める方法がどこかにある。

 考える。事前にボスの名前は分かっていたので、ジンは事前に伝承を調べていた。

 ツァムタックスはパラグアイの伝承で語られる存在だ。

 伝承では空中に住んでいるのに海中にいたり、そもそもパラグアイとベネズエラでは位置が違いすぎたりと、どの程度伝承を参考にして良いのか怪しいものではあったが、ともかく空中で熱を放ち、乾季を悪化させる存在らしい。

 南方からやってきて雨をもたらす雷鳥であるファンクサスを食べて、雨を奪うともされており、ともかく乾季を悪化させるのに特化させる伝承を持っている。

 『VRO』で語られるロアである「雷を操る剣を飲み込んでいる」とやらも、ファンクサスを食べる伝承から取っている可能性が高い。

 伝承では雨季を取り戻す事が出来るのは特殊な巫者だけ、とさえ言われている。

「駄目だ、伝承からでは解決方法が見えてこない」

 雷喰みツァムタックスが放熱したまま、「JOAR」に向けて突っ込んでくる。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 リベレントが《ウォークライ》を発動しながら、その突進を受け止める。

 が、放熱のダメージが大きい。

 アリが慌てて回復に周り、《バトルヒーリング》と合わせてなんとか維持できているが、更に攻撃が続けば、リベレントとて無事ではすまないだろう。

(考えろ、なにか手立てがあるはずだ)

 ジンは必死で思案する。

 その横でオルキヌスが必死で赤いフォトンビームを放ち、少しずつでも雷喰みツァムタックスのHPを削ろうとしている。

「はあっ!」

 リベレントの《ハードパリング》が発動し、突っ込んできた雷喰みツァムタックスは上方へと弾かれる。

 天井にぶつかった雷喰みツァムタックスは天井に入ったヒビから水が降り注ぎ、怒りを顕にする。

 露出している放熱部分が冷やされ、リベレントのダメージが減る。

「そういうことか! オルキヌス、あのヒビを撃て!」

「え? お、おう!」

 オルキヌスとジンが同時に射撃と魔法を放ち、天井のヒビに攻撃を命中させる。

 直後、ヒビが拡大し、天井が崩れだす。

 膨大な量の水が降り注ぎ、雷喰みツァムタックスの放熱部分を冷却する。

 最初こそ、水を蒸発させ続けた雷喰みツァムタックスだったが、如何せん相手は海と言われる場合もあるほどの広大な面積を誇る湖の水全て。やがて、限界を迎え、水の蒸発が止まる。

「よっしゃ、これなら行けるぜ!」

 ごぼごぼと声を上げながら、オルキヌスが再び近接攻撃に出る。

 ジンもまた、《魔法剣・水》を詠唱しながら、《レインピアッシング》で攻撃を仕掛ける。

 とはいえ、良いことばかりではない。

 戦闘フィールドが狭いドーム状の空間から、マラカイボ雷大水源の全てへと変わってしまったのだ。

 移動力の高い雷喰みツァムタックスは縦横無尽に水中を泳ぎ回り、四方八方から突進攻撃を仕掛けてくる。

 その動きは素早く、リベレントでもその全てを先回りできない。

「くっ、きついぜ……」

 ごぼごぼとオルキヌスが弱音を吐く。幸いその弱音は誰にも通じない。

 幸運なことは、雷喰みツァムタックスはシンプルなヘイトシステムで攻撃先を選んでいることで、最も攻撃力の高いオルキヌスを集中的に攻撃していることだ。

 これがもしなにかの思考ルーチンの違いで、ジンを集中的に攻撃していたら、今頃ジンはやられていただろう。

【[Party] Jin > ふと気付いたことがある。試してみたいから、オルキヌス、ラージセイバーガード頼む】

「分かった」

 ごぼごぼとオルキヌスが応じる。

 海底に着底し、石と石の間に自分の足を差し込んで自分の体を海底に固定。

 突っ込んでくる雷喰みツァムタックスの攻撃をオルキヌスは《ラージセイバーガード》を発動して、《フォトンクレイモア》の腹で攻撃を受け止める。

「ナイス、オルキヌス! これでも喰らえ!!」

 ごぼごぼと通じない称賛を送りながら、ジンが鱗を展開し、露出している放熱部分に対し、《レインピアッシング》を集中的に放つ。

 そこは鱗がなく内臓のような器官が露出していて、如何にも柔らかそうであった。

 結果、推測は大当たり。

 雷喰みツァムタックスのHPゲージは大きく削れ、雷喰みツァムタックスは怒り心頭になりながら、今度はジンを狙う。

 だが、ジンはそれを予測して、リベレントを自身のそばに配置していた。

 リベレントが雷喰みツァムタックスを受け止める。

【[Party] Jin > 見てたな? やるぞ、オルキヌス!】

「応よ!」

 ごぼごぼと応じながら、二人のWSが雷喰みツァムタックスの弱いところを狙う。

 前半戦はこの繰り返しで決着し、HPはいよいよ半分を切った。

 怒り狂った様子の雷喰みツァムタックスはそのまま一気に海面に向けて上昇を開始、海面を越えて上空へと飛び出した。

 上空で鱗を展開し、放熱器官を露出させた雷喰みツァムタックスはその器官から無数の火炎を発射し、攻撃してくる。

「ここでワールドツアーかよ」

 とオルキヌス。それは、とあるハンティングゲームにおいて、上空にとどまり続ける敵を揶揄した用語である。

 ジン、アリ、オルキヌスが海面を立ち泳ぎしながら、一斉に魔法魔術射撃で応戦するが、上空を縦横無尽に飛び回る雷喰みツァムタックスには当たらない。

 機動力が大幅に低下しているので、落下してくる火炎を回避するのも容易ではない

 リベレントが《ウォーターウォール》を詠唱しながら大楯を構え、可能な限り火炎を防ぐ。

 幸いというべきか、火炎は直線的に落下してくるため、庇うのは難しくなかった。

 ただ、庇われている間は射撃が出来ないため、常にかばい続けるのも難しい。

「どうするよ、ジン。このままじゃジリ貧だぜ」

「《ネケク》で引き摺り下ろす?」

「『G.D.』の二の舞いになるだけだ」

「じゃあどうするのよ」

 アリの問いかけにジンは唸る。

「今は耐える。幸いダメージ量は耐えられないほどじゃないし、大丈夫だ」

 そして、いつかは絶対に突進攻撃を仕掛けてくるはずだ。とジンは言う。

 ジンの経験上、HPが半分を切って行動パターンが変わった場合も、変化以前の攻撃を完全にしなくなる場合は滅多になかった。

 だから今回も、突進攻撃は引き続き行ってくるはずだった。

「けど、そうだとしても、相手は放熱してるのよ? お姉ちゃん含め、みんなダメージを受けちゃう」

 アリが反論する。

「そこで、リベレントには攻撃を受け止めてもらうと同時に、あえて水中に潜ってもらう」

 そのまま、水中に誘引できればそこをチャンスに攻撃できるはずだ、とジン。

「まぁ、なんにせよ《ネケク》よかマシだろ、やってみようぜ」

 そこからは耐久が始まった。

 防御に専念したことでリベレントは庇いやすくなり、被ダメージの量は大幅に減る。

 そして、ついに予期していたタイミングがやってきた。

 雷喰みツァムタックスは上空から大きく回り込み、海面スレスレを飛びながら、「JOAR」一向に突進攻撃を仕掛ける。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 リベレントは《ウォークライ》を発動、ヘイトを大きく稼いで、突進攻撃のターゲットを自分に変更させる。

 そのまま、リベレントは立ち泳ぎを辞め、敢えて海中に沈み込む。

 すると、ジンの目論見通り、雷喰みツァムタックスはリベレントを追いかけて、海中に沈み始めた。

「今だ! 一気に行くぞ!」

 ジンとオルキヌスが同時にWSを発動し、一気に雷喰みツァムタックスを攻撃する。

 当然狙うは露出している放熱器官。

 パターンさえハマってしまえば、後は楽なものだ。

 雷喰みツァムタックスは滞空時間が長いため、時間はかかったが、無事、戦闘は「JOAR」の勝利に終わった。


 それから、数日後のことである。

【RARE DROP】

 ジンの手元に一本の剣が出現する。名前は『ファンクサムブレード』。

 噂通り雷を纏った新たなジンの武器であった。

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