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第70章「冒険〜折れたる剣の代わりを求めて 上」

 「ロビン・ルイス」との戦い、その翌日。

 仁達は「キャメロット」を抑え、戦いを勝利に導いたとして、データ上の最優秀パーティとは別に、「ハーモニクス・ソリューション」からボーナスを受け取る。

 グローバルネット上の会議室で、仁と知顕が向かい合って会話している。

「とはいえ、『キャメロット』を討ち漏らしたのは痛いですね……」

 ひとしきり「JOAR」を褒めた後、知顕はそう言って、顎に手を当てる。

「はい。去り際の口ぶりから、恐らく『キャメロット』は『エレベートテック』に合流するつもりでしょう」

「やはりそうですか」

 仁の報告に対し、知顕は、厄介なことになりましたね、と呟く。

 可能であれば、今回の戦いで「キャメロット」を討ち取り、「エレベートテック」に合流する戦力を減らしたかったであろう。

「すみません、自分達が不甲斐ないばかりに」

「いえ、我々の画面からも皆さんが苦戦している様子が見て取れました。それに石倉さんは自分の武器を破壊されているほどじゃないですか」

 謝罪する仁に、とんでもない、と知顕が首を横に振る。

「ですが、このままではおちおち『エレベートテック』に攻撃を出来ません。何かしらの対策が必要そうですね」

 どうですか、実際に戦ってみて、なにか見えてきたものはありますか? と知顕は仁に尋ねる。

「そうですね、特に前衛を務める三人、その全員に何らかの自己強化能力があり、それを使われると勝つのは難しいと感じました」

「アーサーの《エクスカリバー》が持つ《エクスカリバー・オーバーロード》、ガウェインの《ガラティーン》が持つ《太陽の加護》、そしてギャラハッドの《カルボネックシールド》が持つ《聖杯解放》ですね」

 知顕がまとめる。ギャラハッドのスキルについては名前を初めて知ったが、それを言っても話がややこしくなるだけなので、はい、とただ頷く。

「《エクスカリバー・オーバーロード》については有効時間はそんなに長くなく、クールタイムも長いのが分かっています。その短時間を以下に凌ぐかが重要になってくるかと思いました。《太陽の加護》と《聖杯解放》についてはずっと発動していました。有効時間はないのかもしれません。強いて言えば前者は天候に左右されますが、マーリンの魔法で人工太陽を打ち上げても効果が発動していたので、事実上無限に使えるものかと」

「なるほど。ですが、本当に無制限に使えるなら、開戦と同時に使うはずでは? そうでないということは……」

「そうか。何かしらの制約は有るはず、ってことですね。知顕さんすごいですね、ゲームはしないと聞いていたのに」

「実は、今のは私の意見ではありません。今、私は弟の人格データをロードして視界内に表示させて意見を求めているのです。勿論、父さ……社長の許可を得てのことですよ」

 感心した様子の仁に、知顕が少し恥ずかしそうに笑う。

「嵐士君の人格データ、ですか。すごい技術ですね」

「言葉の割に声の調子が低いですね。まぁ、気持ちは分かりますが。私もこの技術についてはまだ考えを整理できていません」

「知顕さんでもそうなんですね」

「と、話が脱線してしまいました。いずれにせよ、いま急務なのは、失われてしまった、ジンの《ライトニングソード》の代わりになる武器を探すことです」

 知顕がなにか宛はありますか? と尋ねてくる。

「いえ、今の所はなかなか……。とりあえず、もう一度、雷の一角獣を狩りに行こうかと……」

「《ライトニングソード》をドロップしたというF.N.M.ですね。確かに極々低確率とはいえ、ドロップするのが分かっていますから、それも手ではあると思うのですが……」

 知顕は少し逡巡してから、データを一つ飛ばしてくる。

「これは……? マラカイボ雷大水源? ……南米リージョン!?」

「これは、我が弟がレア武器を求めて様々なリージョンの情報やロアを集めていた時に得た情報の一つだそうなのですが……」

「え? 嵐士君、『VRO』してたんですか?」

「おや、ご存知なかったですか。「JOAR」とも会ったことがあるようですよ」

 そうだったのか、まぁオンラインゲームだと、リアルとネットはなかなか結びつかないもんな、と仁は頷く。

「それはともかく、マラカイボ雷大水源の海底洞窟にいるボス、雷喰みツァムタックスは、雷を操る剣を飲み込んでいる、というロアがあるそうなんです。……気になりませんか?」

「気になりますね」

「お気に召す情報を提供できてなによりです。次は『ピークォド・コーヒー』への攻撃ですが、ジンが武器を取り戻すまでは待つつもりです。出来るだけ速やかにお願い致します」

「はい、可能な限り急ぎます」

 話は終わりのようで、知顕が立ち上がり、メニューを操作し始める。

 会議室が閉じ、仁は現実世界のベッドの上で瞼を開ける。


 南米リージョン、マラカイボ湖。

 ベネズエラ北西にある南アメリカ大陸最大の塩湖である。

 湖底や湖岸には油田が存在し、湖の東部は油田地帯となっている。

 仁達の生きる現在では既に枯渇した油田――そもそも既に世界中の油田が枯渇している――であるが、『ファンタジックアース』に侵食されており、油田は復活、『VRO』の中では盛んに大型タンカーが原油の積み出しを行っている様子だ。

 そんな中、「JOAR」の面々が目的地とするのはマラカイボ湖の南西部。

 世界で最も稲妻が多い場所としてギネス世界記録に認定されている場所である。

 そこはゲーム内でも無数の雷で溢れており、マラカイボ雷大水源と呼ばれるダンジョンの入り口となっている。

「どひゃー、すげえ雷だな。けど、これだけ雷が鳴ってるのにほとんど雷鳴が聞こえないのはおかしくね? バグか?」

「いや、この地域の稲妻はカタトゥンボの雷って言って、雷鳴がしないらしい」

 行く前にちらっと調べたジンがオルキヌスの疑問に解説する。

「へぇー、不思議だな」

「まぁ、急いでレア武器を確保しろと言われてるからな。この程度の雑談なんて、掘りにかかる時間を考えれば誤差だろうが、急ごう。全員、水中呼吸用の装備は持ったな?」

 マラカイボ雷大水源は湖の中を進んでいく水中ダンジョンである。

 そのため、まともに探索するには水中でも呼吸するための装備が必要になる。

 そんなわけで、『ナイトアンドウィザード』出身のジンとリベレントは水中でも呼吸できる魔法の飴玉を、『ファンタジックアース』出身のアリは魔術で出来た酸素ネックレスを、『スペースコロニーワールド』出身のオルキヌスは水から酸素を取り出す水中呼吸器をそれぞれ装備していた。

 一同が水中へと入っていく。

 水中を泳ぎながら、立ちふさがる魚型のモンスター【ManEaterPiranhaマンイーターピラニア】と戦う「JOAR」一行。

「うお、足が踏ん張れねぇから、武器を振りにくいぜ!」

 と、オルキヌスが言うが、実際には水中なので、ごぼごぼ、としか聞こえない。

 が、全員、言いたいことはなんとなく理解していた。アリ以外の全員が初めて戦う水中という舞台に苦しめられていたからだ。

【[party] Jin > WSを使え、WSなら空中でも踏ん張れた。水中でも踏ん張れるはずだ】

 ジンがそんな助言をチャットに流しながら、《レインピアッシング》で突撃してくるマンイーターピラニアを迎撃する。

「そういうことか! 《ディザスターターン》!」

 オルキヌスはジンからのチャットを受けて、ごぼごぼ言いながら、WSを発動、派手に回転しながら、マンイーターピラニアを攻撃する。

 慣れない水中というフィールドに苦しめられ、マンイーターピラニアの攻撃を受ける。

 WSではどうしようもないリベレントが未だに大楯の取り回しに苦労しており、また、水中では《ウォークライ》も使えないことから、あまりヘイトを取れておらず、ダメージは、ジンやオルキヌスに集中する。

 アリは必死で回復魔術をまわしていく。

 たかだか雑魚の魚群に苦戦しながら、「JOAR」は少しずつ深度を下げていく。

 しばらく進んでいると、出現する敵がただのマンイーターピラニアから、【LightningPiranhaライトニングピラニア】なる雷を纏った魚群に変化していく。

 これは、魔法剣士であるジンにとっては却って助かる事態である。

 属性持ちであれば、魔法剣による攻撃が通用しやすいからだ。

 ジンは素早く《魔法剣・土》を唱え、《マジカルレイピア》を土属性に変化させる。

 水の中で詠唱するのは初めてだったが、大事なのは魔法詠唱UIが反応することであるようで、声自体はごぼごぼしていても詠唱は可能だった。

 再び、ジンが《レインピアッシング》を放つ。土塊がレイピアの先端から飛び出し、散弾の如く突っ込んでくるライトニングピラニアを迎撃する。

 まら、ライトニングピラニアは雷属性の遠距離攻撃も放ってくるが、これまた属性付き攻撃であれば、リベレントが味方に《ストーンウォール》の魔法をかけることで、擬似的に防御を行えた。

(これはボス戦も無理せず遠距離戦闘主体で戦ったほうが良いかもな)

 などと考えつつ、ジンは眼下に海底が僅かに見えることに気付いた。

【[Party] Jin > もうすぐ海底が見えてくる。海底洞窟への入り口を見逃さないように。海底洞窟を探しやすいように、着底はせず、ある程度の高さを維持して進もう】

 目標のボスは海底洞窟にいる。

 だが、意地の悪いことにこのダンジョン、海底洞窟の位置が「海底のどこか」と一定しないらしい。

 「JOAR」一行はライトニングピラニア達をあしらいながら、海底洞窟を探す。

 ライトニングピラニアに後方から攻撃を仕掛けられ、隊列反転にまごついている時のことだ。

 正面斜め下からライトニングピラニアの群れに巨大な蛇のような生物が突っ込んでくる。

【捕食】

 ライトニングピラニアをまとめて食らって、上方へ通過していった蛇のような生物は、そのまま、反転し、再び下方斜め方向のどこかへと泳ぎ去っていく。

【[Party] Jin > あれが、目的のボスだ! 向かう先に海底洞窟がある可能性が高い! 追いかけよう!】

 と、ようやく行動の指針が出来た。

 しばらく試した結果、ライトニングピラニアをあえて群れの状態で放置しておくと、一定の確率で乱入してくることが分かった。

 それを手がかりに、「JOAR」一行は海底洞窟を探しに進み続ける。

 そうしていると、リベレントも海中移動程度は余裕が出てきて、前に出て盾を構える程度なら出来るようになってきた。

 そうなってくると、他の仲間も安定してきて、アリもバフをまわす余裕が出てくる。

 「JOAR」一同が海底洞窟を発見し、突入する頃には、一行は水中の戦い方をマスターしつつあった。

 海底洞窟内部は海藻系のエネミーが多く、オルキヌスが《ディザスターターン》で刈り取っていく。

 「キャメロット」相手には苦戦したとはいえ、やはり「JOAR」は有力パーティ。そう簡単にダンジョンのザコ敵に苦戦することはなく、やがて彼らは海底洞窟奥地に到着する

 そこは広々としたドーム状の空間だった。

 その中心で、巨大な蛇がとぐろを巻いて眠りについている。

 フォーカスを合わせると【|LightningEaterTsamtax《雷喰みツァムタックス》】と出る。

「こいつがターゲットだ。やるぞ」

 「JOAR」一行が武器を構える。ジンの新武器のため、全力を尽くす時だ。

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