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第69章「侵攻〜ロビン・ルイス 下」

「では、お覚悟を」

 アーサーが騎馬の腹を蹴り、《エクスカリバー》を振りかぶる。

 オーバーロード状態は解除されているようだが、四人程度ならまとめて攻撃出来そうだ。

「全員、手筈通りに!」

 ジンはただ、そう叫ぶ。

 馬に乗っているというのは想定と少し違ったが、「キャメロット」との戦闘は想定済みだ。事前にどう相対するかも考えてある。

「応よ!」

 オルキヌスが正面に出て、《ラージセイバーガード》で《エクスカリバー》を受け止める。

「邪魔すんじゃねぇ! イグニス・アダレレ・グラディウス!」

 《ガラティーン》に炎を纏わせ、オルキヌスに向けてガウェインが攻撃を仕掛ける。

「させないっ!」

 手筈通り、リベレントが大楯でその一撃を受け止めようとする。

「予測済み」

 しかし、それより早くギャラハッドとその騎馬がリベレントに向けて突っ込んでくる。

 ギャラハッドの《ガルボネックシールド》がリベレントの大楯とぶつかり、火花を散らす。

 そうすると、オルキヌスは引き続き無防備なわけで、ジンは慌てて《ライトニングソード》を構えて、オルキヌスとガウェインの間に割り込む。

「トニートル・アダレレ・グラディウス!」

 炎の剣と雷の剣がぶつかり合う。

「はっ、アーサーの読み通りだ! 本当にこうなった! 魔法剣士同士楽しもうぜ、ジン!」

「読み通り、か。確かに単純な作戦すぎたかもな」

 全てアーサーの手のひらの上か、とジンがギリリと歯軋りする。

「だが、今日は曇りだ。太陽は上がってない。まだ戦えるさ」

「それはどうかな、それっ!」

 三人の騎士が騎馬の加速に任せて三人の守りを打ち破り、通過していく。

「マキシーメ・エト・マキシーメ・マンニョム・ルックス・サジッタ・シェリング・スルクールズ・シコッティルデ・マキシーメ・エト・マキシーメ・ムルチ・プルーヴィア・エアステリスコ・シァエロム」

 その隙を逃さず、いつの間にか詠唱を開始していたらしいマーリンから魔力の矢が降り注ぐ。

 アリが防御のバフを三人に加えるが、最も防御力の低いジンに至ってはHPが半分まで減少している。

「全員、まずは騎馬を倒さないと、対等に戦えない! 最悪捨て身で行くぞ!」

 魔力の矢による雨が止むと同時、アリ以外の三人は一斉に駆け出す。

「やはりそう来ますよね」

 アーサーが微笑む。

 ギャラハッドが《カルボネックシールド》を構えたまま、一気に前進してくる。

「都合がいい。まずはタンク役の足を奪え!」

 リベレントが再び大楯を《カルボネックシールド》にぶつけ合わせる。

「おら、《カラミティトランプル》!」

 その隙を突いて、オルキヌスの《フォトンクレイモア》が迫る。

 だが、ギャラハッドは素早く《ハードパリング》を発動させてリベレントの大楯を弾いた上で、オルキヌスの連撃を受け止める。

「まだまだ!!」

 そこにジンの《ライトニングピアッシング》が炸裂。ギャラハッドの騎馬が赤いデータ片となって消滅する。

 とはいえ、そこに残ったのは、ハードパリングされて隙だらけのリベレントと、WSの後硬直で動きを取れないオルキヌスとジンだ。

 既に、キャメロットの二人は動き出している。騎馬に拍車をかけ、己の得物を振りかぶる。

 ガウェインの狙いはジン、アーサーの狙いはリベレントのようだ。

「|これらすべてのものの上に信仰の大盾を取りなさい。《above all, taking up the shield of faith》」

 アリは姉とリーダーで一瞬迷ったが、HPの差からジンがより致命的だと判断し、《シールドオブフェイス》を発動。マインドサーキットを盾の形に変化させて、ガウェインの《ガラティーン》の一撃を受け止める。

「はっ、後衛でこそこそ何かする程度かと思えば、やるじゃねぇか!」

 その間にリベレントはアーサーによりダメージを受けたが、まだHPは半分も残っている。

「おいおい。その言い方だとボクまで軽視されてないかい?」

 などと笑いながら、マーリンが魔法を詠唱する。

 ジンとリベレントの声が重なり、マーリンの魔法が魔力の盾に防がれる。

 だが、その間に駆け抜けたアーサーが反転して戻ってくる。

 狙いはやはりリベレント。

「っ!」

 アーサーの《エクスカリバー》がリベレントの大楯と拮抗する。

「流石、防御力に振っているだけはあります。名無しの盾とは思えませんね」

 関心したようにアーサーが呟く。

「言ってる場合か、よ!」

 そこにオルキヌスが突撃し、《ディザスターターン》を繰り広げて、アーサーの騎馬を破壊する。

 同じ頃、ジンも《ライトニングピアッシング》でアリが足止めしているガウェインの騎馬を破壊することに成功する。

「よっし、これで五分五分だ!」

 オルキヌスが喜びの声をあげる。

「おやおや、ボクがまだ馬に乗ってるんだけどね」

 マーリンがそんなことを言うが、近接攻撃を仕掛けて来ないなら、騎馬はそこまで脅威でもない、とジン達は感じていた。

「そんなことより、はっ、五分五分? 俺達とお前達がか?」

 ガウェインが笑う。

「マーリン、太陽を打ち上げろ。奴らの勘違いを正してやろう」

「えー、あれMP消費が激しいんだがね……。ま、やってやろうか」

 マーリンが杖を構え、魔法詠唱のUIを出現させる。

 ジンが止めろ! と叫ぶ。

 ジンがマーリンの元へ駆け出し、オルキヌスは射撃モードに切り替えた《フォトンクレイモア》を構える。

「不可能」

 間に割り込むようにギャラハッドが姿を表す。

 放たれた赤いフォトンビームを《カルボネックシールド》が受け止め、ジンの《ライトニングピアッシング》の発動を盾の殴打で阻止する。

 ジンは大ぶりのその一撃をなんとか回避するが、その間に、マーリンの魔法は完成している。

「ソリッズ・スルクールズ・エト・シァエロム」

 杖の先端から光弾が放たれ、空中で照明弾のように太陽が煌めき始める。

「よっしゃ、行くぜ、《ガラティーン》!」

 太陽の輝きを受けて、《ガラティーン》も太陽の如く輝き始める。

 ガウェインが《ガラティーン》の柄を捻る。

 ジンは急いで、武器を《マジカルレイピア》に持ち替えて、《リポスト》を待機状態にする。

 太陽の斬撃が横薙ぎに払われる。それは太陽の力で、射程が実際の剣の三倍にまで拡張され、まさしく黄金の輝きとなってその場にいたアリ以外の三人全員を巻き込んだ。

 ジンは《リポスト》の効果で、大きく跳躍して回避、そのまま、上段にガウェインに切りかかる。

「ガウェインの《ソーラーレイ》を初見で回避しましたか。ですが、そのような単調な攻撃では……」

 ガウェインの前に素早く立ち塞がったアーサーが《エクスカリバー》でジンの《マジカルレイピア》を受け止める。

 ジンは腕に力を込めて、剣を振るう反動で、後方に飛び下がる。

「ルックス・サジッタ・スルクールズ!」

 着地の隙を狙おうと接近してくるアーサーを《マジックミサイル》で牽制し、ジンは再び《ライトニングソード》を構え直す。

 問題は他の二人だ。

 リベレントは大楯に体を隠し、ダメージを軽減出来たが、《ラージセイバーガード》が間に合わなかったオルキヌスはモロにダメージを喰らってしまい、HPが半分まで減少してしまう。

 これにて、アリ以外の全員がHP半減にまで至っていることになる。

 対する「キャメロット」の面々は騎馬を失っただけで、HPはほぼ減っていない。

 確かに到底五分五分とは言えない状態にある。

「おい、アーサー、余計な手出しするんじゃねぇ。一撃くらいもらってやってもよかった」

「あなたは魔法剣士でしょう。防御力もHPもそこまで高くないんですから、おとなしく守れてください」

 ガウェインとアーサーがそんな軽口を叩き合う。

 その様子に緊張は見られない。

「調子に乗せるな、行くぞ」

 守ったら負ける、とジンはガウェインに突撃する。

「アーサー、ジンの相手は俺が」

「遊びすぎないように」

「当然。さぁ来いよ、ジン!」

 ジンのWSを用いないシンプルな肉薄しての攻撃に、ガウェインは正面から《ガラティーン》で受け止める。

 周囲では、アーサーとオルキヌスが、ギャラハッドとリベレントがそれぞれ、武器をぶつけ合わせている。

(まずい、方向性のに通ったキャラクター同士がぶつかり合って、まるでミラーマッチだ)

 あるいは、ミラーマッチならよかったかもしれない。

 だが、実態は。

「行きますよ、《エクスカリバー》」

 再び、エクスカリバーがオーバーロードする。

 オルキヌスの《フォトンクレイモア》が火力面で負け始める。

「《カルボネックシールド》、やるよ」

 ギャラハッドの白い盾が黄金に輝く。未知のなんらかのスキルが発動したのだろう。

 リベレントが盾のぶつけ合いで負け始める。

「どうした、ジン! もっと武器をぶつけ合おうぜ!」

 ガウェインは依然、太陽の加護により、三倍になった武器の性能をフルに発揮し、ジンを圧倒する。

 ミラーマッチ? とんでもない。あらゆる面で、「キャメロット」の方が実力は上だ。

「そろそろMPも回復してきたよ。それ、ルックス・サジッタ・スルクールズ」

 そこにマーリンが更なる茶々を入れてくれば、ジン達は後方に飛び下がってそれを回避する他なく、徐々に後方へ後方へと押されていく。

塵は塵にDust to Dust, 灰は灰にAsh to Ash!」

 耐えかねた、アリがバフを中断し、マーリンに直接攻撃に出る。

「おや、ボクらもミラーマッチといくかい? 望むところだよ」

「|また、救いを兜としてかぶり、霊の剣、すなわち神の言葉を取りなさい《And take the helmet of salvation and the sword of the Spirit, which is the word of God.》」

 アリのマインドサーキットから剣が出現し、マーリンの《ストーンヘンジ》とぶつかり合う。

 だが、マーリンは騎馬を巧みに操って後方に下がりながら、《マジックミサイル》でアリを攻撃する。

 これを《シールドオブフェイス》で防御するのは簡単だが、魔術はクールタイム制だ。今、《ソードオブザスピリット》を解除すると、もう一度装備出来るのはしばらく先になる。

 だが、マーリンに対し、勝ち目があるとしたら、接近戦しかない。

 故に、アリは斜め前にジャンプして、《マジックミサイル》のダメージを最小限に抑えながら、マーリンに肉薄していく。

 しかし、馬の速度には敵わない。

 ジンはその様子を見ながら、《極・魔法剣・魔》を唱える。

「おら、よそ見してんな!」

 振り下ろされる《ガラティーン》の一撃を強引に回避しながら、ガウェインの脇を抜け、アリの隣まで到達し、《パラライズウィップ》を放つ。

「ナイス、ジン!」

 アリが動きを止めた、マーリンに接敵し、騎馬の首を切断、赤いデータ片へと変え、マーリンの首へ《ソードオブザスピリット》を振るう。

 マーリンのHPが大きく削れるが、まだ撃破には至らない。

 麻痺が解除されたマーリンは《マジックミサイル》をアリに牽制として放ちながら、後方に飛び下がり、アリにダメージを与える。

 元々軽装であり防御力は高くないアリである。それでHPは半分を切った。

「俺に背中を向けてんな、ジン!」

 一方、アリを援護したジンに向けて、ガウェインが攻撃を仕掛けてくる。

「!」

 ジンはなんとか後ろ手に《ライトニングソード》を回してその一撃を受け止める。

 だが、そのやり方には無理があり、《ライトニングソード》に大きな負荷がかかり、そして。

 赤いデータ片となって消える。

「そんな……!」

 振り返りつつあった、ジンが自身の最初の頃からの愛武器が消失したことに驚愕し、それでも、勤めて冷静に、《マジカルレイピア》を構え直す。

 と、そこで。

「ここまでですね」

 アーサーのその言葉と同時。

【RAID WAR Complete】

【Most Best Party : Dene】

 どうやら、ベオウルフが中核を破壊したらしい。

「命拾いしたな。データが惜しいなら、『エレベートテック』を攻める前に兵士から引退するんだな」

 ガウェインのその言葉の直後、全員は転送され、レイド・ウォーは正式に終わった。

 悔しいが、ガウェインの言う通り、「JOAR」は全員HP半分以下。「キャメロット」はマーリンを除いて全員がほぼ万全という有様だった。

「くそっ!」

 ジンが悔しげに、パーティープレイヤーハウスの机を叩く。

 誰もそれを咎めることはなく、ただ沈黙だけがその場を支配していた。

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