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第54章「防衛〜ムービング 上」

 「ハーモニクス・ソリューション」本社ビル内の仮眠室から『VRO』にダイブして、直後、まだ見慣れてないダイアログを見る。

【兵士登録している企業が開戦状態になります。間も無く自動テレポートが起動します】

 直後、体が光に包まれ、気がつくとそこは、東京都千代田区丸の内。

 江戸時代に江戸城の内堀と外堀に囲まれた場所であり、城の堀で囲まれた内側にあったことに由来する地名を持ち、北に隣接する大手町や南に隣接する有楽町と共に日本屈指のオフィス街であり、旧時代より東京の中心業務地区CBDとして機能している都市である。

 その丸の内を見下ろせる、どこかの高台に「JOAR」達はいた。

「どう言うことだ? さっき見た光景とほぼ一緒だ」

 その光景はまさに社長室で見えた光景と同じ。違いは、建物の見た目が中世の城のような煉瓦積みの建物になっていることだろう。

「分かりきったことだろ。ここは『VRO』内の『ハーモニクス・ソリューション』本社だ」

 ジンの言葉にベオウルフが答える。

「え?」

「おい、眼下を見てみろよ、攻城兵器だ。これは恐らく防衛戦と攻城戦の複合型だぞ」

 窓から路地を見下ろしていたらしい、シャルルが言う。

「複合型? 俺達が本社を守り、敵……『ムービング』の戦力が本社を襲撃してくる、ってことか?」

「多分な。なるほど、こう言う変化系のパターンもあるわけか。まさか初陣から変化系とはな」

 ジンの問いかけに、シャルルが頷く。


 ダイブ直前のブリーフィングを思い出す。

「今回、こちらに攻撃を仕掛けてきたのは、ムービングです」

「『ムービング』? 『ムービング』って文字認識OCRの?」

「はい、その『ムービング』です」

 『ムービング』は最近頭角を現してきたITベンチャー企業である。

 主な製品はOCRのエンジンやノーコード開発ツールなどになる。既にIoTと世界は引き離せないところに来ているが、しかしそれでも、十分にIoTに設備投資出来ていないメガコープもあり、そう言ったところは大手メガコープとも組めず、苦戦を強いられており、そう言った企業に助け舟を出すことで利益を得ている。

 そんな『ムービング』にとって、IoTを広く普及させ、様々なメガコープにも提供している最大手企業に一つである『ハーモニクス・ソリューション』は目の上のたんこぶなのだろう。

「ベンチャー企業ごときがメガコープを目の上のたんこぶだと思うなど、不遜にも程がありますが、まだ始まったばかりのこの新世界秩序の中であれば、勝ち目がある、と思ってしまったのでしょうね」

 とブリーフィングを務める重役がまとめた。


 などと考えている間に、ベオウルフがシャルルとジンの会話を一蹴する。

「どうでもいいさ。敵を倒せばいいんだろ? ならオレ達は野戦に出るぞ。『デネ』の配下はオレに続け」

「え、おい、フォーメーションとか」

「知らん知らん、弱い奴らは弱い奴らで勝手に群れてろ」

 飛び出していくベオウルフとその部下をジンは慌てて呼び止めるが、ベオウルフは止まる様子はなく、そのまま飛び出していく。

【15秒前】

「おい、カウントダウン始まったぞ。どうすんだ、あんな独断専行許して」

 思わずジンがそう言うが。

「ははは、困ったな。じゃ、俺達は良い射点を見つけて、籠城戦と行こうか。『パラディンズ』に従う者は我と我が《ジュワユーズ》の導きに続け!!」

 シャルルは笑って、自らのフォトンセイバーを抜刀して掲げ、部下を連れて移動していく。

【5】

「いいな、あれ、ユニークフォトン武器だ」

 オルキウスが思わずそんなことを呟く。

【4】

「ユニークフォトン武器って?」

「いや、その話は後でしょ」

 思わず尋ねたジンに、アリが突っ込む。

【2】

「そうだよ、どうするの、ジン君?」

 リベレントが尋ねる。

【1】

「とりあえず、敵の出方を見て、守りが薄い部分をフォローするぞ。全員、とりあえず、階下へ移動」

【RAID WAR – TheBattle – Start】

 開始の表示を見ながら、ジン達は部下を伴って階段を降り始める。

「金烏、力を貸してくれ」

 ジンは祈るようにそう呟くと、視界の半分が空から見下ろす風景へと変わる。


 外では、ベオウルフ達『デネ』及びその部下達が正面の敵軍とぶつかっていた。

 特に先陣を務めるベオウルフの戦いは凄まじい。

「オラオラ、近づけるもんなら、近づいてきやがれ!!」

 ベオウルフが腰に下げたハンドアックスを投擲し、近付く敵の頭部に命中させ、撃破する。

 そのまま、ハンドアックスで牽制しながら、敵陣の中央に殴り込みをかけ、ようやく背中に背負った大剣を抜く。

「行くぜ、《フルンディング》!」

 豪快な横薙ぎの一撃が敵をまとめて吹っ飛ばす。

「大将首をとって敵の士気を下げ……う、うわぁ!」

 まるでジャンルが違うゲームを見ているように、敵の戦力達が吹き飛ばされていく。

 ベオウルフを遠巻きにして遠回りする敵にも的確に配下のパーティが回り込み、撃破していく。

(ベオウルフは猪突猛進なやつかと思ってたが、意外と指揮はしっかりしてるのかな)

 あるいは、ベオウルフを止められないなりにフォローが上手いブレイン役がいるのかもしれない。

 いずれにせよ正面は問題なさそうだ。

 ジンは金烏に頼んで今度は左右を見る。

 左右はシャルルとその配下が遠距離戦で凌いでいた。

 あまり敵の数は多くない様子で、遠距離戦でも十分対処出来ている様子だ。

「狙いは俺がつける! 撃て! 撃て!」

 シャルルが《ジュワユーズ》を射撃モードにして振るう。

 《ジュワユーズ》の先端から虹色に輝くフォトンが放たれ、敵の中核に命中する。

 それはさらに虹色の爆発を発生させ、よく目立ち、部下達はその輝きを標的に攻撃を行う。

 シャルル一人が右側と左側を行き来して忙しそうではあるが、このままなら左右は問題なさそうだ。


「とすると、ガラ空きなのは裏手か。俺達は本社ビルの裏手にて野戦に出るぞ!」

 ジンはそう宣言して、裏手に出る。

 果たして、裏手には敵の影がなかった。

「え」

 思えば、相手は言っても、ベンチャー企業。メガコープではない。

 正面の敵は多かったが、裏手にまで戦力を回す余裕はなかったようだ。

「なら左右を野戦で支援する。俺とオルキヌスが右、リベレントとアリは左だ」

 ジンは素早く判断を変更し、仲間内に指示を飛ばす。

「ローゼンクロイツ、君は引き続き俺についてきてくれ。それから、君に副官として最初の仕事を与える。君が部隊を二つに分担させてくれ」

「え、あ、承知しました!」

 ジンにピッタリついてきた副官、『ローゼンクロイツァー』のローゼンクロイツに指示を飛ばす。

 ローゼンクロイツは素早く指示を飛ばし、部隊を二つに分担させる。

「よし、いいぞ」

 ジンはローゼンクロイツの頑張りを素直に称え、そのまま進軍を開始する。

「はい!」

 ローゼンクロイツはその褒めの言葉に喜び、大きく返事をして、ジンに続く。


 ジンの部隊が左の城門から外に出る。

 「ムービング」のパーティ達が壁のように立ち塞がり、シャルルの《ジュワユーズ》や遠距離魔法やブラスター、弓や銃でその数が減っていく。

「こっちの方が数は上だ。盾持ちは前衛で攻撃を防御、後衛は距離をとりつつ遠距離攻撃。近接攻撃使いは近づかれた時だけ攻撃しろ。接近戦をやると『パラディンズ』が戦いにくくなるからな!」

「俺は突っ込むぜ、いいよな!」

「あぁ、オルキヌスは単独で引っ掻き回してやれ!」

 オルキヌスが単身突っ込み、敵軍勢を掻き回す。

 敵の陣形が乱れに乱れ、その隙を逃さず、ジンも周囲の仲間もシャルルの部下も、魔法や弓、銃、ブラスターなどで攻撃を開始する。


 一方その頃、アリの部隊が右の城門から外に出る。

 「ムービング」のパーティ達が壁のように立ち塞がり、シャルルの《ジュワユーズ》や遠距離魔法やブラスター、弓や銃でその数が減っていく。

「こっちの方が数は上よ。お姉ちゃ……リベレントが壁を作るから、その背後から撃ちまくるわよ」

「お姉ちゃんでいいのに」

「部下の前で恥ずかしいでしょうが」

 リベレントがアリのバフを受けながら、《ラージマジックウォール》で壁を生成する。

 その背後から、周囲の仲間もシャルルの部下も、魔法や弓、銃、ブラスターなどで攻撃を開始する。


(よし、順調に推移してる。ベンチャー企業にしては敵の数が多いのは気になるけど……)

 ジンは金烏で正面と左右の様子を窺いながら、戦場が有利に進んでいる状況に頷く。

 一つ気になるのは敵の兵士の数だった。見たところ練度は高くない。初期化されても惜しくないレベルしか持たない程度のプレイヤーを兵士として動員したと思われるが、それにしたって、これだけの数を雇う金はなかなか出せないはずだ。

 直後、異変が起きた。

 少数の戦力が正面の防衛網を突破、一気に城門に迫ったのだ。

 とはいえ、少数の戦力では城門を破壊できるはずもない。

 はずだった。

 城門が突然ひとりでに開門しなければ。

「どう言うことだ!?」

 思わずジンが叫ぶ。

 直後。

【[Coop] Beowulf > 少数に抜かれた。後詰ども、なんとかしろ】

「なんとかしろって……。城内に侵入されてるんだぞ……」

【[Coop] Jin > シャルル、左右の敵は俺達が受け持つから、城内の敵を頼む】

【[Coop] Charle > そうしたいところだが、こっちも謎の敵から攻撃を受けてる。対処は難しい】

「どう言うことだ……」

 同じセリフをもう一度。

 「ハーモニクス・ソリューション」は早速のピンチを迎えていた。

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