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第52章「防衛〜日本小規模企業連合体」

 兵士登録の確認画面に【はい】を押した次の瞬間、目の前にチャットが飛んでくる。

【[Coop] Tomoaki > JOARの皆様、この度は弊社、ハーモニクス・ソリューションとの戦力契約に同意頂き、誠にありがとうございました。】

 ジンは一瞬悩んでから、返信を入力しようとするが、それより早く次のチャットが届く。

【[Coop] Tomoaki > この度、ハーモニクス・ソリューションにおきまして、『VRO』に関わる一切を任せられております、大多和おおだわ 智顕ともあきと申します。】

「大多和!」

 ジンが思わず驚愕する。アリとリベレントも真剣な表情だ。

「なんだ? 突然声あげて。この智顕って奴がどうしたんだよ?」

 一方、オルキヌスだけはピンと来ていない様子で、頭にクエスチョンマークを浮かべている。

「あんたねぇ、ニュースとか見ないわけ?」

「見ねぇなぁ」

 アリが思わず半ば責めるように問いかけるが、オルキヌスはどこ吹く風だ。

「大多和ってのは『ハーモニクス・ソリューション』を経営してる一族の名字だよ。だから、多分、この智顕さんも『ハーモニクス・ソリューション』のそれなりに偉い地位の人だと思う」

「マジかよ」

 ジンの説明に、重明が余計なこと言わなくてよかったー、などと言っている。

【[Coop] Tomoaki > さて、早速ですが、お話があります。実は、昨日のうちに弊社は、ライバル企業より攻撃宣言を受けております。】

「なっ!」

 ジン含む一同が驚愕する。

 昨日のうち、つまり、昨日の宣言を受けて、その日のうちに「ハーモニクス・ソリューション」に喧嘩を打った企業がある、ということだ。

【[Coop] Tomoaki > 相手は小規模な企業の連合軍です。小規模ながらお金を出し合い、早急に戦力を集め、その戦力でこちらの戦力が揃っていないうちにこちらを落としてしまおうという魂胆でしょう】

 確かに。実際の戦争も似たところがあるが、相手に時間を与えれば与えるほど、戦力増強の時間を与えてしまう事になる。

 ならば、開戦可能になると同時に攻撃を仕掛ければ、一番相手の戦力が少ない事になる。ルール上、開戦期限は24時間しかないので、上手くすれば不戦勝まであり得る。

 経済力のない小規模な企業による起死回生の一手、と言ったところだろうか。

【[Coop] Tomoaki > 我々が現時点で契約出来ているプレイヤーはまだ皆さんしかおりません。敵の数は不明。危険な戦いになりますが、それでも挑んで頂けますでしょうか?】

「智顕さん……、契約してるんだから命令してくれてもいいのに、こんな風に訪ねてくれるなんて……」

 智顕の気配りにジンが驚く。

「折角『ハーモニクス・ソリューション』と契約出来たんだ、それを逃すなんてとんでもねぇ、もちろん行くぜ! そうだろ、ジン!」

「あぁ。みんなもいいよな?」

 アリとリベレントも頷く。

【[Coop] Jin > 勿論です。その為に俺達は貴社と契約したのですから】

【[Coop] Tomoaki > ありがとうございます。それでは早速、開戦させて頂きます。】

 そのメッセージが届くと同時、視界にウィンドウが表示される。

【兵士登録している企業が開戦状態になります。間も無く自動テレポートが起動します】

 その数秒後、ジン達は光に包まれ、そしてパーティプレイヤーハウスから消失した。


 埼玉県さいたま市さいたま新都心。

 かつて東京都心機能の「新都心」となるべく企図された業務地区である。

 地上2階レベルで各施設を結ぶ歩行者デッキをはじめとし、「未来を担う新都心」をキャッチコピーに整備された美しい街である。

 2000年に街びらきが行われてからは、ビジネス拠点としても有名で、現在「ハーモニクス・ソリューション」を攻撃せんとしている小規模企業達もこのさいたま新都心に本社を構えているようだ。

 だからだろうか、本来、『VRO』では「New City Heart」、通称「NCH」と呼ばれるプレイヤータウンがあるはずのそこは一時的に封鎖され、「レイド・ウォー」の戦場と化していた。

「マジか。プレイヤータウンすら塗り替えてしまうのか……」

「おい、ジン、驚愕してる場合じゃないぜ、見ろよあれ」

 周囲を見渡し驚くジン。元々プレイヤータウンだった場所から無理矢理退去された人々が多い関係で、ギャラリーも多い様子だ。

 が、オルキヌスはそれより別のものを指さした。

 その先にいたのは巨人としか言いようのない巨大な影。

 フォーカスした時に表示されるのは名前は【Titanティタン】。

「でかいな、どこから攻撃すればいいんだ、あれ」

【15秒前】

 見れば、ティタンを挟んで向こう側に何人かのプレイヤーが見える。

 彼らが今回の小規模企業連合体のパーティなのだろう。

【RAID WAR – BossBattle – Start】

 JOARにとって初めての「レイド・ウォー」が始まる。

「ボスバトルならこれまで何回もやってきた、余裕だぜ」

 とオルキヌスが意気揚々とティタンに向けて駆け出す。

 それに三人が続く。

 先手を取ったのは小規模企業連合体のパーティ。後衛を務めるプレイヤーが、魔法魔術弓矢銃ブラスターを用いて攻撃を開始した。

 いずれも出の速さを優先した攻撃でティタンのHPゲージは僅かしか削れていない。

 だがダメージはダメージ。ティタンはダメージを与えた者に優先的に攻撃する典型的な思考パターンを持っているのか、小規模企業連合体のパーティの方へ体を向ける。

「ちょ、あいつ速すぎだろ!?」

「でかい分一歩一歩の歩幅がデカいんだ。仕方ない、俺は魔法で攻撃する」

 ジンがアリがバフを受けつつ、長い魔法の詠唱を開始する。

 もちろん、全員走る足は止めない。

 小規模企業連合体のパーティまで到達したティタンはその拳で攻撃を仕掛ける。

 前衛の大剣系武器を用いるプレイヤーが《ラージセイバーガード》スキルを一斉に発動し、その拳を受け止め、その間に他の前衛プレイヤーが一斉にティタンへと攻撃を仕掛ける。

 HPゲージが大きく減少を始める。

 ジンの長詠唱魔法も数発命中しているが、HPゲージの減少量は小規模企業連合体パーティの方が多いのか、ティタンが振り向く様子はない。

「させるかよ! 《カラミティストライク》!」

 追いついたオルキヌスが跳躍し、その足を大上段に斬り下ろす。

 ジンも《魔法剣・雷》で《ライトニングソード》を強化しつつ、《ライトニングピアッシング》で一気にティタンに攻撃を仕掛ける。

 が、ポップアップしたのは青色のダメージ表示。

「こいつ、土属性か!」

 ジンは素早く《タップエクスチェンジ》で武器を《マジカルレイピア》に変更。

 《魔法剣・風》を詠唱して、属性を風に変更することで弱点攻撃を狙う。

 直後、ティタンが唐突に大きく跳躍した。

 表示されるのは【アースクエイク】の文字。

「嫌な予感がする。全員リベレントの後ろに!」

 ジンが素早く判断し、リベレントの後ろに隠れる。同時、ジンとリベレントはリベレントに《ウィンドウォール》の魔法をかける。

 直後、ティタンが落下してきて地割れが発生、さらに地面から無数の岩が突き出てくる。

 「JOAR」はリベレントの防御と防御魔法のおかげで無事だったが、反応が遅れたらしい小規模企業連合体のパーティは一気にボロボロになった。

 この程度の攻撃に対処出来ないとは。レイド参加経験がないパーティなのか? とジンは相手パーティの情報について少し考えたが、その意味はないと判断し、思考を放棄。ティタンに向けて攻撃を再開する。

 次なる最初の一手を取ったのは無傷なる「JOAR」のジン。《レインピアッシング》で風と刺突をティタンに向けて放つ。

 ティタンが拳を地面に沿わせたまま、体を回転させ、「JOAR」に向けて攻撃を仕掛ける。

 ジンがリベレントの名前を呼ぶのに合わせて、リベレントが前に出て、拳を大楯で受け止める。

「リベレント、弾け!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 リベレントは《ウォークライ》で能力値を上昇させつつ、WS《ハードパリング》を発動する。

 迫り来る拳をリベレントが押し返そうとするが、リベレントの筋力が足りないのか、徐々にリベレントが押され、足は地面を滑る。

 アリがリベレントの背中に手を置き、直接強力なバフを注ぎ込み、オルキヌスがその背後に立ってで地面にフォトンラージソードを突き刺し、リベレントの後退を阻む。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 《ハードパリング》が成立し、ティタンが大きく仰け反る。

「オルキヌス、打ち上げろ!」

「応よ!」

 ジンがアリの直接バフを受けたオルキヌスによって空高くに打ち上げられる。

 その頂点は仰け反ったティタンの顔面、その目前。

「倒れろ!!」

 風を纏った《レインピアッシング》が炸裂する。

 ティタンがどうしようもなくバランスを崩し、後方に転倒する。

 小規模企業連合体のパーティが体制を立て直そうと苦労しているティタンの後方へ。

「うわああああああああ!!」

 悲鳴が上がるが、あまりに遅すぎる。小規模企業連合体のパーティがティタンの巨体の下敷きになり、赤いデータ片となって散っていく。

 オルキヌスが周囲にまだプレイヤーのいるティタンの頭部まで肉薄し、《スライドクリーヴ》を発動。周囲のプレイヤーを巻き込みつつ、ティタンの弱点である頭部にダメージを与える。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 一方、空中のジンは急速に落下しながら、風属性の魔法を放って、軌道を修正し、ティタンの頭部へ向けて落下する軌道を取る。

 それを迎撃しようと、ティタンが拳を持ち上げる。

「何!?」

 それはヘイトシステムでは説明のつかない動きに思えたが、それを考察している暇はない。現在は空中で身動きはあまり取れない。敵の拳は巨大で風属性の魔法を一回放つ程度では回避しきれない。

「ええい、ままだ!」

 ジンは《マジカルレイピア》の柄を捻り、《リポスト》を発動する。

 すると、ジンの体は空中で見事な三回宙返りをして、飛んでくる拳を回避、その拳に向けて一太刀を浴びせた。

「さっすが、ウェポンスキル。頼りになる」

 ティタンの右腕に《マジカルレイピア》を刺し込み、そのまま切り傷を刻みながら落下するジン。

 続いて、左腕が持ち上がり、平手の状態で右腕にぶつからんと動き出す。

 まるで右腕に突き刺さる蚊を叩かんとする如き動き。

「やべ」

 ジンは慌てて、右腕を両足で蹴って、《マジカルレイピア》を抜いて、右腕から離れる。

 それでも、平手の左手が迫る事実は変わらない。《リポスト》はクールタイム中。

 迫る左手に思わずジンは目を瞑るが【YOUR DEAD】の文字はなかなか表示されない。

 恐る恐る目を開くと、左手は光のロープに拘束されていた。視線を下げると、アリが《ネケク》を発動し、さらにリベレントがその体を支えていた。

「助かった!」

 ジンはそのまま、自由落下を再開、武器を《ライトニングソード》に変更し、《ライトニングピアッシング》を放つ。

 何もないはずの空中で地面を蹴って、ジンの体がさらに加速する。

 雷属性は耐性属性だが、それでも、スピードが威力に乗るこの《ライトニングピアッシング》を高高度からの落下と共に使えば、その威力は折り紙付きだ。

 鋭い突きがティタンの額に突き刺さる。あまりの威力にその勢いは地面にまで伝わり、地面を砕き、アスファルトを割る。

 そして、それがトドメとなった。

【RAID WAR Complete】

【Most Best Party : JOAR】

【Last Attack : Jin】

「ふぅ、やっと地面に足をつける」

 ジンが地面に降り立ち、深く息を吐く。

【レイドウォーが終了しました。間も無く元の位置に転送されます】

 ジン達や生き残った小規模企業連合体のパーティメンバーが光に包まれ消えていく。

 その場に残されたのは、元よりその場にいた「New City Heart」の住民であるギャラリー達のみだった。

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