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第51章「躍進〜企業戦力契約」

 その日の夜。『VRO』、「JOAR」のパーティプレイヤーハウスにて。

「というわけで、これだけの数、勧誘が来てる」

 どさっという音を立てそうな数の紙がジンによって机の上に置かれる。

「おぉ、これはすげぇな」

 そのすごい量にオルキヌスが大声を上げる。

 企業間紛争の武力による解決を禁じ、代わりに、『VRO』内の「レイド・ウォー」で決着をつける。という世界ワールド巨大複合企業メガコープ連結体ネクサスによる発表の直後、それは一斉に送られてきた。

 「レイド・ウォー」では各メガコープの兵士達がなんらかの目標の達成を競う事になる。

 だが、レベル製かつスキル製である『VRO』において、突然メガコープの兵士が「レイド・ウォー」に挑んでも、到底鍛えられたプレイヤーに勝てるわけもない。

 そこで、殆どのメガコープは一般のプレイヤーを勧誘し、戦力とする事にした。

 というより、これまで「JOAR」達が挑んできた「レイド」自体がそのためのコンテンツだったのだ。

 今にして思えば、ネットメディアが毎回レイドの結果を騒ぎ立てていたのも、世界ワールド巨大複合企業メガコープ連結体ネクサスがそう仕向けた事だったのかもしれない。

 そういうわけで、今や名実共にトッププレイヤーパーティである「JOAR」にも多くの勧誘メールが来ているのは当然のことであった。

「しっかし、すごい量だよなぁ。スポンサー契約の頃から、さらに多くなってるぜ」

 オルキヌスはとにかく量に興奮している。

 ジンとしても、様々な企業からひっぱりだこ、という状況は素直に嬉しいので、特にそれを否定する気にはなれない。というか、正直、口角が上がりっぱなしなのであった。

「で、どうするの? さっきちらっと見たけど、今スポンサー契約を結んでる『スカイライク』からも来てたよね。そこにする? それとも、三人の母校の『エレベートテック』?」

 リベレントが早速本題に入ろうとする。

 すぐにでも戦いをおっ始めたいメガコープが多い、ということなのか、早急に防衛体制を整えたい、ということなのか、契約の申し出には返答期限が設けられているものも多かった。

 そのため、リベレントもいつものマイペースより少し気が急いている。

 とはいえ、迷うことはないだろう、とリベレントは思っていた。

 既にスポンサー契約を結んでいる「スカイライク」と引き続き契約を続けるのが正道だと思ったし、そうでなくても、母校である「エレベートテック」を選ぶくらいだろう、と思っていた。

「もちろん、名声重視だ!」

「もちろん、報酬重視よ!」

 だが、オルキヌスとアリの答えは違った。

 その答えはスポンサー契約の時と同じ、名声か報酬の良いところを選ぶのだ、というものだった。

「本気? 私達、もう特定のメガコープと関係を持ってる状態なんだよ? それを裏切って、他の企業を選ぶつもりなの?」

 リベレントはそんな二人の回答が信じられず、リベレントにしては珍しく反論する。

「そりゃそうだぜ、俺達は有名になるために頑張ってきたんだ。より有名なメガコープで戦わなきゃ損だぜ」

「そりゃそうよ。私達はお金持ちになるために頑張ってきたのよ。より私達を評価してくれるメガコープと契約しなきゃ損ってものよ」

 だが、なんとも珍しい、リベレントの反論も名声とお金に目が眩んだ二人には届かない。

「ジン君、リーダーはどう思うの?」

 リベレントはこれまで中立的な目線で全員の意見を受けて公正な選択をしてきたジンを信じて、リーダーたるジンに声をかける。

「正直、今回は二人が正しいんじゃないか。『スカイライク』に忠義立てするのも一つの正しさだとは思うけど、一方で、お金とか名誉って形で俺達を評価してくれてる方に蔵替するのはそんなにおかしいことじゃないと思う」

 だが、ジンは二人寄りの答えを返した。

「二人の言う通りだよ。せっかくより有名でより金持ちなメガコープから声がかかってるんだから、そっちを選ばないのは損だ」

「ジン君まで……」

 リベレントは信じていたジンまでもが名誉欲に目を眩ませている事に少なからずショックを受けた。

「だよな、ジン分かってる!」

「ジンは分かってくれると信じてたわ!」

 三人は大盛り上がり。

「……うん、分かった。三人がそこまで言うなら……」

 結果、リベレントは自分が折れることを選んだ。

 元々強く主張する、と言ったことが苦手なので、向こうが折れてくれない場合、最終的には諦めるしかないのだった。

 これはジンが先日の文化祭準備の折に感じた多数決問題そのものであるが、名誉欲に目が眩んだジンにはその発想は全く思い至らなかった。

「そうと決まれば、早速、送ってきた企業の知名度と報酬をリストにまとめて、ソートしていこう」

「うおおおおおおおおおおお、任せたぜ、ジン」

「えぇ、頼んだわ、ジン」

 ジンが率先して動き出すと、オルキヌスとアリは大喜びだ。


 リストアップしていった結果、その結論は驚くほどすぐに出た。

「『ハーモニクス・ソリューション』……」

 知名度は日本一。そして報酬も最も高かった。迷う理由はどこにもない。

「すげーぜジン! 『指揮官待遇でお出迎えします』だってよ!」

「それに、『用心深い皆さんは、我々が最も最初にみなさんに目をつけていたことをご存知かと思います』なんて添えられてるわね」

 確かに、「ハーモニクス・ソリューション」は光学迷彩やVVまで投入し、どの企業より早く仁をストーカーしていた。

 今にして思えば、それは今この時、本当に「JOAR」を戦力に迎えてもいいかどうかの素行調査だったのだろう。

 光学迷彩やVVまで持ち出したことを考えると、もしかすると、その素性を改められるかどうかでさえ、その警戒心や行動力のテストであった可能性すらある。

「いいじゃんいいじゃん、こんだけ買ってもらえてて、行かない理由はないだろ」

「そうね、報酬もバッチリだし」

「あぁ、『ハーモニクス・ソリューション』の指揮官なんて、大エリートだぞ大エリート」

 最大級と言って良いくらいのピッタリな契約の申し出に、三人は大盛り上がり。

 それもそうだろう。ジンの言う通り、「ハーモニクス・ソリューション」の指揮官と言えば、軍事面の人事で言えばエリートの中のエリートと言っても過言ではない。

 そこにいきなりなれると言うのだから、ここでテンションが上がらないと言う方が嘘だ。

 先程まで、「スカイライク」に義理立てすることを主張していたはずのリベレントでさえ、「すごい……」と声を漏らしている事からも、それが窺えるだろう。

「決まりだな」

 ジンが三人を見渡す。

 オルキヌスとアリは力強く、リベレントは控えめに、それぞれ頷いた。

「俺達『JOAR』は、『ハーモニクス・ソリューション』と契約する!」

 ジンが素早く、「ハーモニクス・ソリューション」に同意のメールを送ると、その後すぐに、お礼のメールと、そして、「ハーモニクス・ソリューション」の兵士になる事に同意するかどうかのウィンドウがジンの視界に表示される。

 再び、四人は頷き、一斉に【はい】のボタンを押した。

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