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第40章「日常〜旅行計画」

 それから一週間後。

 「JOAR」の四人が集まっている。

 ここは「スカイライク」のメタバースSNS「スカイダイン」。

 自分達だけのインスタンスを作成し、ファミレスの一室にいた。

 ジンが手元に表示されるホロメニューを操作すると、四人が座っている席の側面に配置されているスクリーンに映像が投影される。

 スクリーンには、編集された一週間前の戦闘の様子が映っている。

 画面の中でジン、オルキヌス、アリ、リベレントの面々が野菜の怪物相手にいきいきと動く。

 リベレントがかっこいいウォークライで怪物三体の攻撃を惹きつけ、オルキヌスがそれを薙ぎ払う。

 ジンはアリの支援を受けて爆発の中を突き進み、鋭い突きで怪物の一体を倒し、その間にオルキヌスは怪物の一体を倒し、さらにもう一体の怪物を豪快な動きで放り投げて大上段に切り裂いた。

 怪物にとどめを刺すたび、怪物が美味しそうな料理へと変化する。

【どんな野菜もうちにかかれば美味しい料理に 『スカイライク』】

「おぉー」

 誰ともなくそんな声が漏れ、特に聞かせる相手も居ないのに、四人が拍手する。

「これが今、全国区で流れてるのかー」

 感動した、というようにオルキヌスが呟く。

「ネットでも話題になってるみたいよ、すっかり有名人ね私達」

 アリが呟く。

「このレストランに入るまでも結構みんな通りすがりに振り返ってたもんな」

 今更だが、彼らは『VRO』での見た目をとっている。理由はその知名度を実感したいからだ。

 その効果は絶大で、メタバースを歩くだけで、多くの人々が「JOARだ」と振り返り、話題にしていた。

「だよなだよな」

 その様子にオルキヌスばかりか、ジンまでもがいい気になっていた。

 正直、すっかりストームのことは忘れている。

「それにギャラも入ったぜ、ギャラ! まとまった金、どう使うよ?」

「毎日『デレクト』で贅沢三昧するか?」

「それもいいんだけど……」

 オルキヌスとジンのやり取りに、アリが口を挟む。

「もうすぐ夏休みも終わりじゃない? 終わる前にもう一つくらい思い出がほしいなって思うのよね」

 そう、夏休みはもうすぐ終わり。来週頭には9月と新学期が始まる。

「それは確かに、折角なんだから何か夏休みの思い出の一つや二つあってもいいよな」

 アリの提案にジンが頷く。

「またどっか温泉地でも行くか? そうだ、折角金があるんだ、本物の湯村温泉に行って比較体験ってのもいいんじゃねーか?」

 オルキヌスが楽しそうに提案する。

「えぇ、実際の旅行っていうのは、私も賛成。折角まとまったお金があるんだから、ゲーム内じゃなくて、現実世界で思い出を作りたいの」

 オルキヌスの提案に部分的にアリが頷く。

「ってことは、アリには行きたいところの候補があるって事だな?」

 ジンがメニューを操作してドリンクのおかわりを注文して手元に実体化させて、啜りながら、尋ねる。

「えぇ。もう残暑に近い時期とはいえ、夏だもの。海に行きましょう。それもとびきり綺麗な海がいいわ」

「海いいな! 前にお台場行った時は泳げなかったし、海水浴とかしたいぜ」

 アリの提案に、自分の賛成だ、とオルキヌスが宣言する。

 「デレクト」三昧やら温泉地旅行やら、積極的に提案して場を動かしていたオルキヌスが早々に賛成してくれた事で、アリは少し気が楽になる。

「確かにな、海、いいと思う。温泉地ならいつのシーズンでも行けるもんな」

 そうして、オルキヌスに続き、ジンも賛成する。

 やはり、夏ならではという部分に気が惹かれた結果だった。

「で、で、どこにするよ? お台場の海も悪くはなかったけど、世界全体を見渡せば綺麗な海はもっとあるよな。……やっぱ、思い切ってハワイとかか?」

 手元のブラウザを操作し、早速ハワイについて調べ始めたらしいオルキヌス。

「みろよこれ、ワイキキビーチ、めっちゃ綺麗だぜ!」

 などと続ける。

「綺麗な海と言えば、グアムもなかなかのものだって聞くぞ。ハワイより日本に近いし、旅費も安く済むから、実際に遊ぶ内容……参加するアクティビティとかを充実させられると思う」

「おぉ、そりゃいいな! 金がたくさんあるって言っても限りはあるからな、安く済むならそれに越したことはないぜ!」

 ジンの提案にオルキヌスはそれも良し、と頷く。

「じゃあ、旅行先はグアムね」

 二人の賛同を得たことで、アリも少し楽しそうに頷く。グアムであれば、アリの希望にも叶う。

「あー、あの……、言いにくいんだけど……」

 だが、そこに先ほどまで黙って話を聞いていたリベレントが口を挟んだ。

「ん、どうしたのお姉ちゃん、海、嫌だった?」

「え、ううん。海はいいと思う。なんなら、水着新調することも考えようかな、って思ってるよ」

 アリの心配そうな問いかけに、リベレントが違う違う、と首を横に振る。

「じゃあどうしたのよ」

 アリが、なら尚更分からない、と問いを重ねる。

「うん……、あのね、私達だけで旅行に行くとなると、保護者は私になるでしょ?」

 とリベレント。

 確かにそうなる。なにせリベレントがギリギリ今年で成人であり、それより若い他のメンバーは未成年だからだ。

 高校生である彼らは当然それを理解しており、リベレントの言葉に一様に頷く。

「それで……、海外に行くってなると、慣れない海外でちゃんと保護者役を全うできるか心配で……」

「あー」

 と唸った声は誰の声だったか。

 高校生ともなると自分はいっちょ前の大人だ、と主張したくなる時分である。即ち「保護者役とかそんな気負いは不要ですよ、俺達、自分で責任取れます」と生意気な反発をしたくなるところだ。

 そんなわけで、この唸り声は納得半分、反発するか悩んで半分、といったところ。

 だが、結局、誰も反発することを選ばなかったため、リベレントはそれを納得の唸り声と認識したようだ。

 アリは言わずもがな、姉に苦労をかけている自覚があるので、そんな事言えた義理ではなかったし、ジンもまた、リーダーになってすぐに様々な面で支えてもらった記憶があるので、とてもそんな事は言えなかったし、オルキヌスは意外と人の感情に敏感なので、これは安易に否定してはいけない奴だ、と感じたので言えなかった。

「なら国内ならいいってことっすよね? だったら……」

 こういう時、すぐに次の提案を出してくるオルキヌスは助かる、とオルキヌス以外の一同は思った。

 盛り上がっていた話題が強制的に鎮静され、沈黙が場を満たすより早く、オルキヌスが素早く次の提案を行ったことで、JOARは気まずい沈黙に支配されずに済んだのである。

 三人全員の視界を一身に受けてなお、オルキヌスは怯むことなく発言を続ける。

「沖縄はどうっすか、沖縄!」

 そう言いながらオルキヌスがジンへと雑多な沖縄の観光情報が送られてくる。

「今詳しくはリーダーに送ったから!」

 細かいプラン立てとかは出来ないから、リーダー、任せたぞ、そんなメッセージが言外に込められている。

「うーん、なら、瀬底ビーチはどうかな」

 瀬底ビーチはその名の通り瀬底島にあるビーチで、沖縄本島とは橋で繋がっているため、沖縄本島から気軽に移動できる。

「へぇ、よさそうじゃない」

 ジンの説明に、アリもリベレントも興味を示す。

「だろ、アクティビティも色々楽しめるみたいだし。問題なければ早速明日にでも」

「えぇ。でも明日はナシね」

「そうなのか? あんまり時間ないけど」

「さっきお姉ちゃんが言ってたでしょ、水着を新調したり、女の子は時間がかかるの」

 そう言ってアリは体をリベレントの方へ向ける。

「お姉ちゃん、明日はショッピングに行きましょ」

「うん、行こ行こ」

 かくして、この場は解散となった。

 その後しっかりと日程の確認をして、一行は旅行の予定を決めたのであった。

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