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第37章「レイド〜嵐来る 上」

 京都府嵯峨野。

 野宮神社から天龍寺北門を通り大河内山荘へ抜ける手入れされた竹林が道の両脇に続く400メートルの道。京都を代表する観光名所の一つ。「竹林の小径」。

 太陽が出ていても僅かな木漏れ日が差し込む程度に竹林が空を覆うこの場所は、太陽が雲に隠され、小雨が降るこんな日は、とても薄暗い。

 そんな場所で、ジン達JOARとその他大勢のパーティ達は巨大なトラと向き直っていた。

 巨大なトラの名前は【ManEaterTigerマンイータータイガー】。その名の通り、人を喰う虎なのだろう。

 そんな両者が何故睨み合っているか、など、言うまでもないだろう。

【RAID – BossBattle – Start】

 レイドである。

放てファイア

 初手からJOARを妨害しようという不届きなプレイヤーに連射が容易なアリの《スナップ》が襲う。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 リベレントが勢いよく大楯を地面に突き立て、叫ぶ。スキル《ウォークライ》が発動し、リベレントの能力が一時上昇するのに合わせ、マンイータータイガーのヘイトを稼ぐ。

 もしマンイータータイガーが属性付きの吐息、所謂「ブレス」と言われる攻撃を使うタイプなら、これで盾の後ろにいるJOAR以外の周囲にいるプレイヤーはブレス攻撃を受けてしまう。

 JOARが最近やっている対妨害パーティ用のお決まりの戦術だ。

 が、残念ながらマンイータータイガーの取る行動はブレスではなかった。

 大きく右脚を上げ、一気にリベレントへ肉薄してくる。

 リベレントはその鋭い一撃にわずかに息を漏らし、足が滑って後退する。

「いくぞ、ジン!」

 オルキヌスが大声で号令し、大ジャンプからの大上段の斬り下ろし《カラミティストライク》で攻撃する。

 ジンもそれに続き、地面を蹴っての高速での突き《ライトニングピアッシング》で攻撃する。

 二つの強烈な一撃の前に、マンイータータイガーが一瞬怯み、そして。

 【エンチャント・サンダー】

 という表示が出たと思った瞬間、マンイータータイガーの黄色い体色が、白く変化を始める。

 雷を纏ったマンイータータイガーが鋭く爪を振るうと、それに合わせて雷が周囲を薙ぎ払う。

 周囲でオルキヌスとジンを攻撃しようとしたプレイヤー諸共、ジンとオルキヌスが雷を受けて、体が硬直する。

 その隙を逃さず、マンイータータイガーの牙が煌き、鋭く、オルキヌスへと飛びかかっていく。

「うおっ!?」

 慌ててオルキヌスは《ラージセイバーガード》を発動しようとするが、雷で麻痺していて動けない。

 リベレントが割り込もうとするが、まさに雷速と言うべき速さのマンイータータイガーの速度に割り込むにはとても間に合わない。

 マンイータータイガーの牙がオルキヌスの首に迫り、その首を掻き切る。

 オルキヌスの首から血をイメージしたと思われる赤いデータ片が飛び散る。

「よくもやりやがったな!」

 だが、オルキヌスは倒れていなかった。鋭く横方向の薙ぎ払い《スライドクリーヴ》が放たれる。

 マンイータータイガーは再びその雷速を生かして大きく距離を取る。

 【エンチャント・ファイア】

 オルキヌスがなんとかリベレントの背後に逃げる。

 その間に、マンイータータイガーはその体色を真っ赤に変化させていた。

 アリが回復のためにオルキヌスに近づくが、ジンはアリに妨害プレイヤーの対処を続けるように指示する。

 攻撃にさえ晒されなければ《バトルヒーリング》スキルで回復可能だからだ。

 直後、マンイータータイガーが大きく息を吸い込む。

「まずい」

 ジンも慌ててリベレントの背後に駆け込む。ジンと同様の結論に至ったプレイヤーはタンクプレイヤーが防御魔法を唱えたり、それ以外のプレイヤーがその背後に隠れたり、中には自パーティのタンク以外の背後に隠れたり、と自分のみを守るために動く。

 その動きを見てから、ようやくマンイータータイガーの動きの意図に気付いた遅きに徹したプレイヤーもいた。

 彼らは直後に遅い来た火炎の嵐に呑まれた。

 それは降り注ぐ小雨の水滴を蒸発させるほどの高温。

 リベレントの大楯さえも高温で加熱させ、表面を大きく赤熱化させる。

 周囲の竹林にも炎が燃え移り、手入れされた美しい竹林は燃え盛る炎の道へと様代わりした。

 空を覆うほどの竹林が燃え、火の玉と化した竹の一部が戦場に降り注ぐ。

 降り注ぐ火の玉が、まさか上から攻撃が来ると思ってなかったパーティーを焼いていく。

「こいつ、環境攻撃までしてくるのか!」

 思わぬ攻撃にジンが驚愕する。

 【エンチャント・サンダー】

 再び雷速となったマンイータータイガーが炎に惑うプレイヤーを赤いデータ片へと変換していく。

 依然、高いヘイトを持っているのはリベレントなのだろう、炎に巻かれるプレイヤーを一通り蹂躙した後は、リベレントへ向き直り、一気に雷速でリベレントに迫る。

 だが、二度目ともなると、ジンは冷静だ。

 飛びかかってくるマンイータータイガーに向け、《ライトニングピアッシング》を発動した。

 《ライトニングピアッシング》は筋力や魔力の他、彼我の速度によって威力が決まる。

 故に、雷速に迫る速度のマンイータータイガーに対して、《ライトニングピアッシング》を放てば、その威力は絶大で、マンイータータイガーも思わず怯む。

「ラピス・アダレレ・グラディウス」

 《タップエクスチェンジ》で武器を《マジカルレイピア》に持ち替え、《魔法剣・土》で土属性を纏わせる。

 あのエンチャントなる技で相手の属性が変化しているとすれば、雷属性には土属性が有効なはずだった。

 結果は想像通り、無数の突きを放つ《レインピアッシング》により猛烈な土属性ダメージがマンイータータイガーを襲う。

 【エンチャント・ウィンド】

 だが、有利な状態は長続きしない。

 マンイータータイガーは新たなスキルを発動し、風を纏って飛び上がる。

 遠距離攻撃のプレイヤーが弓で攻撃を仕掛けるが、暴風を纏うマンイータータイガーはその暴風で持って遠距離攻撃を無力化する。

「グラーシェス・アダレレ・グラディウス」

 だが、ジンは素早く風属性の弱点である氷属性のを剣に纏わせる。

「オルキヌス、アレやるぞ!」

「おう!」

 ジンの号令にHPを回復していたオルキヌスが飛び出してくる。

 フォトンラージソードの刃部分を消滅させ、ジンに向ける。

 どちらからともなく、行くぞ、という号令が響き、ジンが大きく上空へ打ち上げられる。

 以前、アイシクルドラゴンと戦う時にとったオルキヌスの無茶が、今や「JOAR」で当たり前に使われる戦術の一つとなっていた。

 空高く飛び上がったジンはマンイータータイガーの上方を取り、竜巻の目に飛び込む。

 放たれるは氷を纏った《レインピアッシング》。

 その鋭い一撃に、マンイータータイガーは思わず墜落する。

 そこに周囲のプレイヤーの全力攻撃が殺到する。

「やれる! こいつは属性をころころ変える! 俺の魔法剣と相性バッチリだ!」

 再び、マンイータータイガーが属性を変える。

 ジンは迷わず魔法剣を詠唱し、自らの剣の属性を変える。

「行くぞ! このまま攻めて、最優秀パーティーは今回も俺達のものだ!」

 パーティの士気を上げる意味でも、ジンが叫び、再び《レインピアッシング》を放とうとする。

 だが。

「それはどうかな!」

 放たれた《レインピアッシング》を二本の剣で防いで見せる男が一人。

「残念だけど、JOARの快進撃はここまでだ」

 そこにいたのは、黒い髪に赤い瞳の男、ストームであった。

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