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第33章「デュエル〜領主ストーム」

 「JOAR」率いる連合パーティは見事に『トーキョータウン』で圧政を敷く新領主の一夜城を破壊した。

 そのまま一行は一気に城内へと攻め上る。

「行かせるな!」

 残っていた傭兵部隊が立ち塞がる。

「こいつら、まだ戦うのか」

「やはり相当の報酬を先払いでもらっているものと見えるな、しかし、一体何を?」

 ジンの驚愕にワンが頷き、疑問を呈する。

 しかし、直後、その傭兵部隊の首が掻っ切られた。

「ここは我々にお任せを」

 そこに立っていたのは不意打ちにより隠蔽状態が解除された「ニンジャ」の面々だった。

 ジンは、すまない、任せた、と言いながら先に進む。

 だが、本当にどこからそれだけの士気が出てくるのか、次々に領主の部屋への道を傭兵達が立ち塞がる。

「ここは私たちにお任せください!」

「ここは我らが足止めするとしよう」

「美味しいところはリーダーにお任せしますよ、頼みましたよ」

 その度に他のパーティに足止めをしてもらって送り出され、ジン達はついに領主の部屋へとたどり着いた。

「よく来たな、『JOAR』。まさか『多様性街』の用心棒をするだけに飽き足らず、『トーキョータウン』にまでお節介を焼くとは思わなかったぞ」

 領主が赤いマントを翻し振り返る。

 そこに立っていたのは右手に丸盾バックラー、左手に片手直剣ロングソードを持ち、黒い髪に赤い瞳の男。

 ジンには見覚えがあった。

「お前、『NOC』を狙っていたストームか!?」

「そう言うお前は『NOC』の用心棒か。そうか、お前達が『JOAR』だったのか、飛んだお節介パーティなようだな」

 ストームが左手のロングソードを構え、攻撃姿勢を取る。

「今度こそ俺とデュエルしろ。賭けるのは《トーキョータウンの権利書》だ。俺達が負けたら、俺達は二度と『トーキョータウン』には入らないと約束しよう」

「ほう、悪くない条件だ。なら、デュエルだ」

 デュエルに同意すると、意外にも強制テレポートは発生しなかった。領主の部屋はデュエルをするのに充分広い領域であると判断されたようだ。

【DUEL -  Jin VS Storm -】

 カウントダウンが進む。

【DUEL Start】

 戦いは双方睨み合いから始まった。

 これまでデュエルしたアリとリベレントのコンビや、オルキヌスのような攻勢的な戦いにはならない。

 やりにくいな、とジンは感じた。

 実のところ、この『VRO』のデュエルとは、後攻が有利になりがちだ。

 というのも、よほどのレベル差、性能差がない限り、一撃で決着がつくことはなく、そうなると、最初のWSや魔法、魔術によって生じた後隙を突いて攻撃されることは避けられない。

 しかも最初の一撃はお互いがお互いをよく観察しているところから放たれるのでよほど不意を打つようなトリッキーな攻撃をしない限り、初撃は最悪の場合回避、良くてもかすり傷を与える程度となることが多く。

 畢竟、最初の攻防は後手の側が有利な一撃をぶつけられることが多いのである。

 もちろん、あくまでこれらは最初の攻防に限った話だ。そこからどう戦闘が展開していくかは個々人の力量や腕前、テクニックによって変わってくる。

 最初の一撃の不利などいくらでも補え得る……かもしれない。一方で、最初の不利が最後まで効いてくる……かもしれない。

 実力が切迫していれば切迫しているほど、戦いがギリギリのものになり、僅かなHPの差で決着が決まる事になるとすれば、その僅かなHPの差が最初の攻防で生まれたものとなる可能性は全く無視出来るものではない。

 つまるところ、この睨み合いはそれを理解している二人による、どちらが焦れて攻め始めるかを競う争いだった。

 そして、困った事に、ストームの側は

 なにせ、ジンの勝利条件であり、ストームの敗北条件である《トーキョータウンの権利書》はストームが負けない限り、ジンの手には渡らない。

 つまり、ストームは引き分けにさえ持ち込めれば良い訳で、このまま睨み合いが続くと困るのはジンの方なのであった。


 じり、とジンが一歩を踏み込む。するとストームは一歩下がり、距離を維持してくる。

(こいつ、《ライトニングピアッシング》を誘っているのか)

 こうも強硬に距離を取られ続けると、その距離を一気に詰める攻撃手段は《ライトニングピアッシング》しかない、

 残念ながら、ジンの《ライトニングソード》及び、そのWSである《ライトニングピアッシング》はジンの使う象徴的な武器とWSとしてあまりに有名であった。

 ストームはジンの姿までは知らなかったようだが、データとしてのジンの事自体はしっかりと熟知しているらしい。

(だが、乗らないと睨み合いにしかならない、か)

 このままでは時間切れでストームの実質勝ち。ならば、リスクを負ってでも一気に近接戦闘に持ち込んで戦いを進展させるしかない。

 ジンは覚悟を決め、《ライトニングソード》を捻り、WSを発動させる。

 自動的に脚部が地面を蹴り、一気に体がジンとストームの間の空間を埋める。

 武道も嗜んでいない人間が普通に振るっては絶対に出来ないような鋭い突きがストームに向けて伸びる。

 だが、いくら鋭くでも《ライトニングピアッシング》の軌道は直線的にすぎる。

 ストームはその軌道上にバックラーを置き、《ライトニングソード》による突きを受け止める。

 《ライトニングソード》とバックラーがぶつかり合い、激しい火花を散らす。

(抜けろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!)

 バックラーの防御限界を抜ければ、バックラーは《ライトニングソード》に弾かれ、逆にストームが隙を晒す事になる。

 淡い期待とは思いつつも、ジンは心でそれを念じる。

 しかし、願いは届かず、《ライトニングピアッシング》の効力は失われ、ジンの足が地面につく。

 ストームがニヤリ、と笑い、ロングソードを捻る。

 目の前の敵をX字に切り裂くだけのシンプルなWS《エックスカット》がジンの体を引き裂く。

「くうっ」

 考え得る最も最悪の展開。先攻がダメージを与えられず、後攻のダメージがクリーンヒットする展

 だが、それでも、接近は出来た。

 体にX字に刻まれた痒みに似た感覚に耐えながら、ジンは《ライトニングソード》を操り、ストームへ攻撃を仕掛ける。

 しかし、ストームの実力は流石、「トーキョータウン」前領主を倒しただけはあるものだった。

 その右手のバックラー捌きは見事で、ジンのあらゆる攻撃はその全てがバックラーに防がれる。

 当然、防がれた直後に迫るのはあまりに鋭いロングソードの一撃。

(こいつ、現実世界でも剣術か何かやってるのか?)

 そう思わされるほどのあまりに鋭い攻撃は、回避に成功したにも拘らず、その鋭さが伝わってくるようだった。

 そうはいっても、ジンも負けてはいない。ストームの反撃を確実に間一髪ながら回避出来ている。

(けど、このままじゃ時間切れでストームの勝ちだ)

 どこかで反撃に出なければ。そう考えながらジンは攻撃を避けつつ考える。

 一気に突きを仕掛ける。バックラーで防がれる。

 反撃の斬撃を間一髪で回避する。

 髪が数本切れたような錯覚を覚える。

 逆転の一手のアイデアはある。WS《パラライズウィップ》だ。

 あれはレイドでも滅多に使っていないので、あまり情報が出回っていない。

 しかも、防御無視で相手を麻痺させられる。

 あとはどこで使うかのみ。

 迂闊に使って不発になってしまえば、それでチャンスが潰える。

 右、左、右、右、左。

 鋭く放たれるストームの斬撃を可能な限り回避していく。

(どこかで大ぶりの一撃を誘発させれば……)

 ストームの動きは最小限の動きによる攻撃ばかりでなかなかこちらの攻撃の隙を与えてくれない。

 どうする……。ジンは攻撃をギリギリで回避し続けながら、悩む。

 このギリギリの回避はおそらく長くは続かない。集中力が切れたらその瞬間に負ける。

 故に、ジンは賭けに出た。

「《ライトニングピアッシング》!!」

 技名を叫び、地面を蹴る。《ライトニングピアッシング》の動きを模倣し、一気に強烈な突きを仕掛ける。

「っ!」

 果たして作戦は効いた。

 一気に放たれた突きをストームはバックラーで受け止め、再び WSを発動する。

「今だ!」

 ジンも同時、《パラライズウィップ》を発動する。

 空中で二つのロングソードがぶつかり合い、そして、防御無視の《パラライズウィップ》が優先される。

「なにっ!?」

 ストームは驚愕しつつ、麻痺する。

 ジンはWSのクールタイムが終了するまでの間、《ライトニングソード》で攻撃を仕掛ける。

 クールタイムが終わると同時、《タップエクスチェンジ》で《マジカルレイピア》に持ち変える。

「イグニス・アダレレ・グラディウス!」

 剣に炎を纏わせ、《レインピアッシング》で連続突きを放つ。

 《レインピアッシング》が終わると同時に、ストームの麻痺が解除される。

「ちっ、こんな隠し球があったとはな」

 ストームが一気に後方に飛び下がって距離を取る。

 削り切れなかった、とジンは歯噛みする。

 相手は軽装のジンと違い、プレートアーマーを纏っており、相応の防御力もあった。恐らくその関係だろう。

 再び戦いは睨み合いに。

 HPは僅かにジンに有利。

 なので、これまでのような睨み合いはもはや通用しない。

 とはいえ、先手をとったほうが不利なには依然変わらず、ストームも攻めあぐねている。

 ジンはどうせなら、完膚なきまでに仕留めたい、と思った。

 僅差での勝利であれば、またストームはどこかのプレイヤータウンで暴れるかもしれない。

 であれば、確実に仕留めたい。

「ファイア・スプレッド……」

 オルキスヌの時に試した偽の詠唱。ストームにも効くかと思われたが……。

「はっ、なんだそりゃ、偽の詠唱で誘ってるつもりか?」

 ダメか、とジンは歯噛みする。

 こうなると、睨み合いでこのまま時間を稼いで勝利に持ち込むか、あるいは。

(最近練習していた新技を試すか)

 ストームは油断なくこちらを見つめており、決して諦めた様子はない。

 この分だと何か予想外の手口でこちらの不意をついてくる可能性もある。

 確実に、こちらが先手を取りたい。

「マキシーメ・エト・マキシーメ・マンニョム・イグニス……」

 ジンは決断し、詠唱を始める。

 ストームも思わずギョッとしたそれは、明らかに長い詠唱。

「馬鹿が、血迷ったか!」

 魔法の詠唱は開始すると中断出来ない。こちらがWSで攻撃を仕掛ければそれで詠唱がキャンセルされて終わりだ。

 ストームがロングソードの柄を捻り、 WSを発動する。

 大きく飛び上がって、距離を詰め、ジンに向けて袈裟斬りを仕掛ける。

「……スパエラ・シェリング・スルクールズ・シコッティルデ……」

 だがそれと同時、ジンもまた《マジカルレイピア》の柄を捻っていた。

(ここでWS? 噂の《リポスト》か? だが、どうせ魔法がファンブルする事には違いない!)

 ジンの体の制御がシステムに乗っ取られ、勝手にストームのWSを回避にかかる。

 だが、ジンは最近の検証で知っていた。WSの強制移動中も、直接関係ない部位は強い意志の力を持ってすれば動かせることを。

「……マキシーメ・エト・マキシーメ・ムルチ……」

(WSを発動しながら詠唱だと!?)

 それはストームの常識にない戦い方だった。

 ジンの《リポスト》が確実にストームの袈裟斬りを回避し、逆に胴体に斬撃を叩き込む。

「……プルーヴィア・エアステリスコ・シァエロム」

 直後、太陽の如き火球が無数に降り注ぎ、ストームを完膚なきまでに焼き尽くした。

【DUEL Finished】

【Winner : Jin】

 システムメッセージが、《トーキョータウンの権利書》の所有権がジンの手元に移動したことを告げる。

「残念だったな。俺の勝ちだ。ストーム」

 内心、ジンは安堵していた。WSを発動しながらの詠唱の成功確率は現状高く見積もって50%がいいところで、失敗確率も高かった。

 失敗していたら、あそこで負けていたことだろう。

 ストームは項垂れて動こうとしない。

 ジンはそれを見て、何も言わず、振り返って領主の部屋を後にした。

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