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第32章「攻撃〜トーキョータウン一夜城」

 PK集団率いる新領主によりその権利書を奪われ、圧政が敷かれる「トーキョータウン」。

 その解放のため名乗りを上げた「JOAR」はこれまでに出会った仲間達と合流。

 今ついに、「トーキョータウン」郊外に建造された新領主の一夜城攻略に乗り出す事になるのだった。


 「JOAR」率いる連合パーティは「トーキョータウン」郊外、そのさらに外縁部、厳密には「トーキョータウン」の外側に当たる部分に布陣している。

 「トーキョータウン」の外側といっても、市街地たる武蔵野市の一部には違いなく、「ファンタジックアース」によって侵食されているエリアなので、悪魔らしき敵が周囲を徘徊している以外は、至って普通の市街地が広がっている。

 このため、まだ連合パーティは新領主が率いる傭兵集団には発見されていない。

 というよりは、まだこの辺りを狩場とする普通のパーティと見分けがついていない。

 連合パーティが露骨に密集して活動していれば、F.N.M.などがいるわけでもないのに五パーティも集まっている、と怪しむ者もいたかもしれないが、連合パーティは合流してすぐに一般パーティと見分けがつかないように敢えて離れて行動している。

【[Share] Eagle-Alpha > こちらニンジャ。配置についた】

 肝心の役目を果たすニンジャのイーグル・アルファことイアから準備完了の連絡が届く。

【[Share] Jin > よし、作戦開始だ。アッパーとアレイスター、頼んだ】

 ジンの号令により、ついに作戦が始まる。

 攻城戦の流れは以前に説明した通り。今回もやることはほとんど同じだ。

 まず最初にやることは攻城兵器でその城壁を破壊する事。

 一つ違うのは、レイドの攻城戦では攻城兵器は事前に設置されており、それを利用し始めると敵からのヘイトを得る仕組みだったのだが、今回は自分達で攻城兵器を作らねばならない事だ。

 攻城兵器の作り方は以前にプレイヤーハウスを作った時と同じ、設計図を床に敷き、そこに素材を投入していく。

 キモになるのは、完成までの時間が一瞬ではない点だ。

 あらゆる構造物は完成までの時間は非常に耐久値が低く設定されており、簡単に破壊されてしまう。

 このため、敵は攻城兵器の建築を始めればそれを妨害しにやってくる。

 また、これもレイドと違う点だが、相手はプレイヤーであるため、以前のレイドのように《ウォークライ》でヘイトを稼いで敵を引き離すような真似は出来ない。

 こうした理由から、攻城兵器は可能な限り城壁の近くに展開したい。今回の場合投石器トレビュシェットなので、可能な限り射程内で建築したい。しかし、近過ぎれば迎撃部隊の到達が早まり、破壊されるリスクが高まる。というジレンマが生まれる。


 そんなジレンマの中、攻城兵器の担当を任せられた「富岡」と「G.D.」はトレビュシェットのギリギリ射程外の建物の影にて建造を始めることとした。

 建物の影に配置することで、二つの効果を期待した。

 一つは警備の発見が遅れる事、もう一つは敵城壁の上に置かれている大砲からの砲撃を避ける事だ。

 結論から言えば前者の効果はあまり発揮されなかった。建築物の建造時には光の柱が発生するので、どうしても目立ってしまうのだ。

「『トーキョータウン』の外側に同時に二つの建造物の建築反応! あれはまさか攻城兵器か? 急いで、領主様に報告を!」

 城壁にいた傭兵の一人がその様子に気付いて、急ぎ領主の元へと駆けていく。

「何事だ」

 領主の部屋でトロピカルジュースを楽しんでいた領主、黒い髪に赤い瞳の男は駆け込んできた傭兵に対し、迷惑そうに視線を向ける。

「申し上げます。何者かがこの城塞の近隣で攻城兵器の建築を開始致しました!」

「攻城兵器だと? なら、大砲で撃ち払え」

 面倒くさそうに領主が言う。

「いえ、向こうはそれを見越して、既存の建造物の影で建築を始めています」

 当人達にはすぐには伝わらない事だが、二つ目の理由の方はきちんと効果を発揮していたのだ。

「だったら、とっとと迎撃部隊を出せ」

 ちっ、と舌打ちした領主がすぐに次の指示を出す。

「承知致しました!」

 傭兵が部屋を出ていく。

「この城塞を攻撃だと? 正義のヒーロー気取りか? 一体何者が……」

 領主は暗い部屋で小さく呟くのだった。


 城壁の扉が開く。攻城兵器を破壊しようと、迎撃部隊の傭兵が飛び出してくる。

「攻城兵器には近づかせん!」

 だが、駆け出す傭兵の前に四人の青色に輝くフォトンカタナを構えたプレイヤーキャラクターが立ち塞がる。

「まさか、『時代』か! 貴様らが、この動乱の首謀者か」

「違うな。今の我々は勇気を出して決起を決意した『JOAR』の剣なり!」

 ワンが堂々と宣言し、鬨の声をあげて、迎撃部隊に向かって突っ込む。

「ちっ、有力パーティが最低でも二組だと!?」

 傭兵部隊の隊長は個人ウィスパーチャットを開き、領主に今回の動乱の首謀者が「JOAR」であることを報告しつつ、応戦する。

 流石はビームカタナ一本でレイドを生き残り続けている有力パーティと言うべきだろう。「時代」は多数の傭兵を相手に華麗に攻撃を回避し、受け止め、弾き返しながら、着実にダメージを与えていく。

「こいつらにかまけている時間はない。部隊を半分に分ける。半分はここで『時代』を足止めしろ」

「了解!」

 旗色の悪さを悟った傭兵部隊長は素早く判断を変更。

 素早く部隊を足止め部隊と進撃部隊に振り分け、攻城兵器を目指す。

 優れた「時代」と言えど、多数相手には流石にとどめを差しきれずダメージを少しずつ与えるに留まっている。故に、足止めは十分に可能。傭兵部隊長はそう考えたのだ。

 そして、その判断は正しかった。

 「時代」は戦闘エリアを離脱しようとする部隊を追撃しようとするが、ぶつかってでもそれを止めようとする足止め部隊により、追撃を停止することを余儀なくされる。

「なんだ、こやつらの士気の高さは……」

 思わずワンが呻く。

 所詮は金で雇われただけの傭兵のはず。わざわざ捨て身でかかってきて様々なアイテムや所持金をドロップし、経験値を失ってしまうようなリスクを犯すほどの士気の高さは奇妙だった。

「よほどの報酬が渡されていると言うのか。此度の新領主、一体何者なのだ……」

 そう考えながら足止め部隊を確実に仕留めつつ、ワンは言う。

「『JOAR』よ、此度の相手、気安くは構えておれんかもしれんぞ。気をつけろ」


 さらに進軍する。間も無く分かれ道。ここを抜ければ二つの攻城兵器へそれぞれ到達出来る。

 だが、露骨にそのようなルート取りがされるような配置がされていて、何の対策もないわけがない。

「ルックス・マキシーメ・エト・マキシーメ・マンニョム・ムーラス・クストーディオ」

「ルックス・マキシーメ・エト・マキシーメ・マンニョム・ムーラス・クストーディオ!」

 二人の声が重なる。

 道を塞ぐように、リベレントが大楯を地面に突き立てる。

 魔法によりその大楯の防御範囲が拡張され道全体を塞ぐ。

「ここから先は通行止めだよ」

 リベレントが深呼吸の後に宣言する。

 周囲の仲間達も各々武器とマインドサーキットを構える。

「魔法剣士に大楯使い、フォトン大剣使いに魔術師。そうか、お前らが首謀者、『JOAR』か」

「そうだ、と言ったら?」

 リベレントの隣に立ったジンが問いかける。

「自ら出てきてくれるとは好都合だ。大将首を獲れば敵の士気も下がるだろう。通行止めするというなら、ここで全員仕留めてくれる!」

「望むところだ!」

 アリのバフを受けたオルキヌスが一気に敵陣に突撃し、横薙ぎの一撃スライドクリーヴで敵前衛第一陣を薙ぎ倒す。

「マキシーメ・エト・マキシーメ・マンニョム・イグニス・スパエラ・シェリング・スルクールズ・シコッティルデ……」

 その隙にジンが長い詠唱を唱え

「詠唱させるな、後衛部隊、攻撃開始!」

 後衛の魔法使いが一斉に魔法を唱える。

「ルックス・サジッタ・スルクールズ」

 無数の光の矢がジンに向けて迫る。

 しかし、アリが巧みに光の鞭を操ってその光の矢を迎撃した。「G.D.」と出会って知った応用能力の高い魔術。《ネケク》だ。

「……マキシーメ・エト・マキシーメ・ムルチ・プルーヴィア・エアステリスコ・シァエロム」

 その間に、ジンは詠唱を完了し、傭兵部隊を範囲攻撃する。

「ちっ。この狭い通路では向こうが有利か。このまま向こうが有利な戦場で戦っていても仕方ない。ここを突破し、攻城兵器を狙うぞ」

 ここでも傭兵部隊長の発想の柔軟さが出た。

 傭兵部隊長が一気にリベレントに向かって肉薄する。

「させるか!」

 ジンが《ライトニングピアッシング》で傭兵部隊長に側面から攻撃を仕掛ける。

「ふっ!」

 だが、傭兵部隊長は手持ちのカイトシールドでそれを防ぐ。

 しまった、読まれてた!? と気付いた時には遅い。

 ジンが傭兵部隊長に釘付けになったその隙を逃さず、傭兵部隊長の左右に控えていた二人がリベレントを左右から挟撃する。

「っ!?」

 脅威的な防御力を誇るリベレントだが、その多くが大楯に集約しているのは皆知っている通りだ。このため、挟撃には極端に弱い。

「リベレント!」

 アリが《アイギス》を発動し、マジックサーキットに盾を出現させてリベレントの背中を守るが、まだまだ格闘戦は不慣れなアリは弾き返されてしまう。

 かくして、リベレントの背後は突かれ、リベレントの進路妨害が消滅する。

「今だ、敵にマークされてない者はとにかく走れ!」

 傭兵部隊長がジンと斬り結びながら叫ぶ。

 オルキスヌが多くの敵を抑えていたため、リベレントの脇を抜けて走り去っていくことが出来た傭兵の数は多いとは言えなかったが、しかし、残りは攻城兵器の運用部隊のみ。

 大した問題にはならないだろう、と傭兵部隊長は考えた。

 それに万が一、攻城兵器が動き出しても、城塞を攻撃するには大砲の進路に出る必要がある。そうなれば大砲に破壊される方が先のはずだった。

「てめぇ、よくも!」

 だから、直後に激昂したオルキヌスの《カラミティストライク》で後背を突かれて、撃破されてももはやなんの悔いもなかった。


 傭兵部隊長には二つ誤算があった。

 それは攻城兵器を運用する「富岡」や「G.D.」は名前が知られていないだけで第一線級に強いと言うことだった。

「この程度の迎撃部隊で我々の進軍を阻めるとでも?」

「頼りにしていただいた『JOAR』の皆さんの期待に応えるためにも、ここは負けられません!」

 かくして、少数でしかなかった迎撃部隊は「富岡」と「G.D.」の前に撃破され、攻城兵器「トレビュシェット」は完成してしまう。

 トレビュシェットは本来固定式だが、並外れたゲームの筋力であれば強引に移動させられる。

「ふっ、愚かにも大砲の効果範囲に出てきたな、全員、撃て!!」

 だが、領主が城の塔の上でその様子を見ていた。叫ぶと同時に、発砲許可をチャットで一斉送信する。

 同時、既に大砲へと配置についていた要員が砲撃を開始する。

 と思われた直後、大砲が突如として青白い爆発を発生させ、自壊する。

「な、なんだ、何が起こった!?」

 混乱する領主。

 その理由を知っているのは、その背後で笑う隠蔽状態の白い装束のプレイヤーキャラクター達のみ。

「『ニンジャ』、任務完了」

 そう、もう一つの誤算は協力パーティはまだもう一組いた、ということ。言うまでもなく、「ニンジャ」の面々である。

 彼らは最初に迎撃部隊が出撃するために城門が開いた際に隠蔽状態で城内に忍び込み、大砲に爆薬を仕掛けていたのだ。


 かくして、トレビュシェットの投石攻撃を止められる者はおらず、城壁が次々と破壊されていく。

 建造物の50%が破壊されればそれは建造物としての判定を失う。

 今回の場合、それは領主の建物と見做されなくなり、街としての効力が消滅する。

「再度迎撃部隊を出しますか?」

「先程の戦力で無理だったのをさらに小出しにしても意味はない。なら、向こうが攻めてきたところを迎撃しろ、城内なら地の利はこちらにある!」

 領主はこの際城が破壊されるのは諦め、城内での迎撃作戦に切り替える。


 そして、城塞の50%破壊が達成されると同時、「JOAR」ら連合パーティは一気に敵城塞に乗り込んで行ったのだった。

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