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第29章「クエスト〜セフィロト・リング 下」

 アリのため、魔術師オンリーパーティー「G.D.」と共にダンジョンに挑んだ「JOAR」一行。

 アリは「G.D.」の魔術師だけで戦い抜くために磨き上げられた独特の戦術に強く影響を受けつつ、ダンジョンを奥に奥に進んでいた。

 そして、やがてダンジョンの奥地がやってくる。

 そこに待ち受けていたのは、白く輝く巨大な樹木。

 名を、【Einアイン Sofソフ】。


「へっ、たった二ゲージか! ここまでで、『G.D.』との連携もバッチリだ。どんな奴が来ようと余裕だぜ!」

 オルキヌスがそう言って笑う。

「はい、頑張ります!」

 アレイスターも頼もしい返事をし、その背後で他の「G.D.」のメンバーも力強く頷く。

 そうして、全員が戦闘準備を整え、アイン・ソフへと向き直った瞬間。

 アイン・ソフが両腕を広げ、その周囲に無数の白い光の矢を生成した。

「まずい!」

 リベレントが《ウォークライ》を発動し、盾を構え、リベレントとジンが防御魔法を発動し、その無数の光の矢の雨を防ぐ。

 が、防ぎきれなかった。

 ぱりんと防御魔法が砕け、後衛にも向けて無数の光の矢が飛んでくる。

「すみません、私たちも防御魔術を使うべきでした」

 アレイスターが判断ミスに謝罪するが、それどころではない。

 今の攻撃で後衛のHPが一気に削れた。

 アイン・ソフは再び両腕を広げる動きを取る。

 誰かが第二射が来る、と警告を飛ばす。

 このまま迷ったら負ける、と判断したジンは素早く判断を下す。

「接近戦に移行する!」

 全員が了解、と返事をして、一気に敵に接近する。

 遠近両方がとても強い敵と言う可能性は低い。

 そして、遠距離攻撃はあれだけ強力な白い光の矢。ならば、近距離戦は弱いはず、と見ての判断だった。

 だが、その直後、その判断の間違いを悟る。

 樹木のような腕の動きが変化し、薙ぎ払うように、振るわれる。

 腕は巨大で、その場にいた全員を巻き込みかねない。

 ジンがリベレントの名を叫ぶと、リベレントは頷き、樹木の進路上に大楯を突き立てる。

 樹木と大楯がぶつかり合い、火花を散らす。

「おら、《カラミティストライク》!」

「イグニス・アダレレ・グラディウス!」

 その間にアリと「G.D.」のバフを貰って、ジンとオルキヌスが一気に攻撃を仕掛ける。

 オルキヌスの《カラミティストライク》とジンの《魔法剣・炎》を纏った《レインピアッシング》が同時に炸裂。アイン・ソフのHPを確実に削る。

「行けるぞ!」

 敵の近接手段は薙ぎ払いのみ。リベレントが止め続けてくれれば、一気に攻め切れる。

 止め続けられれば。

「ごめん……もう……ダメ」

 リベレントが弾き飛ばされ、そこに巨大な腕の薙ぎ払いが迫る。

 まずい、と誰かが叫んだ。

 だが、時既に遅し。

 薙ぎ払いの腕は敵に近接していた「JOAR」と「G.D.」の一行を飲み込み、そして後衛のHPゲージを削りきり、後衛をモニュメントへと変えた。

 生き残ったリベレントとオルキヌスは一度ダンジョンのボス前の部屋まで離脱。

 パーティメンバーの復活リポップを待った。

 ボス部屋を離脱すると、ボスのHPは回復してしまうが、インスタンスダンジョンでモニュメント化したキャラクターはパーティが全滅していないなら、ダンジョンの入り口でリポップ出来るため、二人は自身の安全を確保する事で確実にボス戦に再挑戦出来るようにすることを選んだのだ。


「すまん、判断を誤った!」

 全員がリポップしてボス部屋の前でジンが謝る。

「いや、レイドじゃないからいいけどよ」

 そういえばレイドじゃない時に限って全滅する。レイドはあれでうっかり初見殺しで殺してしまうようなギミックは抑えられているのかな、などとジンはふと思った。

 あるいは単にレイドは人数が多いから事故が発生する確率が分散しているだけかもしれないが。

「それでどうする?」

 オルキヌスが問う。

「見たところ奴の行動は近接も遠隔も腕を動かして攻撃モーションを取る必要がありそうだ」

 つまり、奴は同時にどちらかの行動しか出来ない、とジンは言う。

「近接攻撃を誘発させて、それを今度は俺の防御魔法に加え、『G.D.』の防御魔術も重ねてリベレントに防いでもらう。その間に、俺とオルキヌスで一気に近接戦闘で削ろう」

「おね……リベレントの防御限界が来る前に決着をつけようってわけね。苦しまぐれの作戦だわ」

「けど、遠近両方厄介なのは確かだからな。それしかないんじゃねぇか?」

 アリは批判的だが、オルキヌスはジンに同調する。

 とはいえ、アリにも代案があるわけでもなく、それしかないか、といった空気になっていく。

「あ、あの!」

 そこでアレイスターが思い切って声を上げる。

「どうした、アレイスター」

 その場にいる全員の視界がアレイスターに向く。

「あ、あのやっぱり……」

 アレイスターはその視線に負けて尻込みする。レイドを攻略するほどのパーティに意見するなど、彼女には自信がなかった。

「アレイスターさん、何か意見があるなら遠慮なく言って欲しい。俺の案はアリが言う通り苦し紛れで、確実性は低い」

「はい。では、あの腕の動きが攻撃のあらゆる起点になるなら、その動きを封じてしまえばいいのではないでしょうか?」

 ジンのまっすぐな視線を受け、アレイスターは覚悟を決めて発言する。

「動きを封じる? バインドや麻痺にさせるってことか?」

「《メドゥシアナ》でも使う気? あれならボスも石化出来るけど、相応に時間がかかるわよ?」

 魔術にある程度の知識があるアリが反論する。

「確かに《メドゥシアナ》も手ですが、そうではなく使うのは《ネケク》です」

 《ネケク》と言えば、確か、敵の剣を奪うのに使っていた光の紐を操る魔術だったはずだ、とジンは思い出す。

「そうか。あの紐で腕の動きを封じるのか!」

「はい。私たち四人で力を合わせれば可能だと思います」

 その強い視線を見て、ジンは思った。

 ジンが「JOAR」のメンバーを強く信じているのと同じように、アレイスターもまた、「G.D.」のメンバーの事を強く信じているのだ、と。

 なら、同じ目的のために戦う仲間として、アレイスターとその仲間を自分も信じてみよう、とジンは思った。


 そして、試すことになった。

 もし失敗したら作戦を再び変更してジンの案を試せばいいだけの話だ。

「よし、突撃!」

 ジンの号令と同時に、一斉に八人がアイン・ソフに向けて突っ込んでいく。

 アイン・ソフがそれに反応し、両腕を広げて無数の白い光の矢を出現させるが、それより早く一同はアイン・ソフに肉薄しており、白い光の矢は誰にも当たらずに地に落ちる。

 ジンが地面を蹴り、《ライトニングピアッシング》を発動。一気に距離を詰め、アイン・ソフに攻撃を開始する。

 それにやや遅れてオルキヌスが大上段に飛び上がり、《カラミティストライク》の一撃を放つ。

 接近を許した事でアイン・ソフの行動パターンが変化し、樹木のような腕で以て近接攻撃を仕掛ける。

 今だ、とジンが号令すると同時、はい! と頼もしいアレイスターの返事が返ってくる。

 入り口から見て左側に移動していた「G.D.」ぼ面々が一斉に右腕から光の紐を出現させ、アイン・ソフの右腕に絡みつかせ、ジン達がいるのとは反対側へと引っ張り始める。

 アイン・ソフの右腕が抵抗し、「G.D.」の面々が引きずられる。

「リベレント、止めるのに加われ!」

「うん!」

 ジンが素早く判断を下し、リベレントが盾を突き立てて、アイン・ソフの右腕の進路を塞ぐ。

 果たして、アイン・ソフの動きが止まる。

「よっしゃ、一気に行くぜ!」

 両腕を同時に攻撃姿勢に移れないのか、アイン・ソフが左腕でも攻撃を仕掛けてこようという様子はない。

 オルキヌスが一気に攻撃を敢行する。

「イグニス・アダレレ・グラディウス!」

 それに続いて、ジンも《タップエクスチェンジ》で持ち替えた《マジカルレイピア》の《レインピアッシング》で無数の突きをアイン・ソフへ突き立てていく。

「もうすぐHPが半分を切る! 行動パターンの変化に警戒!」

 と、ジンは律儀に警告を飛ばしたのだが、腕が奪われたアイン・ソフには行動する余地はないらしく、そのままHPを削られていった。


「今日はありがとうございました!」

 ドロップはパーティごとなので、都合二つの《セフィロト・リング》がドロップした。うち一つはアリのもの、もう一つはアレイスターが持つようだ。

「後三つ手に入るまで手伝ってもいいんだぞ?」

「いえ、全員が同じ装備では柔軟性が損なわれますから。うちのパーティは変幻自在の入れ替わりが持ち味ですけど、一応一人ずつ得意技もあるんですよ」

「そうだったのか、そのあたりもそのうち見てみたいな」

「そのうち? また一緒に戦っていただけるんですか?」

 ジンは何気なく言っただけだったが、アレイスターは嬉しそうだ。

「あぁ、君達さえよければ是非。君達の魔術を活かした戦い方は勉強になる」

「『JOAR』の皆さんにそう言ってもらえるなんて、感激です。では是非、フレンド登録を」

「あぁ、是非」

 こうしてジンとアレイスターはフレンド登録をした。

「では、また是非ご一緒しましょう!」

 最後まで元気に、『G.D.』の面々は去っていった。

「私も、あれだけ色んなことが出来るようになれば……」

 最も刺激を受けたのは言うまでもなくアリ。彼女は拳を握り、特訓を決意するのであった。

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