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第20章「建設〜パーティプレイヤーハウス」

 しばらくはレイドの発生もなく、お台場の喫茶店でなんとなく集まり、適当にF.N.M.を狩りにいくのが日常となっていた「JOAR」の面々。

 そんなある日、オルキヌスが言った。

「なぁ、だいぶ前に一度出た話だけどよう。パーティハウス、作らねぇか?」

 その提案に一同がオルキヌスを見る。

「うん! 作りたい! せっかくペットも出来たんだもん、作りたいよ!」

 最初に言葉に出して賛同したのはリベレントだ。

「いいんじゃない? この前、プレイヤータウンも見て、みんなだいたいプレイヤーハウスのイメージはついたでしょ」

 アリも頷く。

「あぁ、パーティの拠点、俺も興味がある」

 最後にジンも賛同し、かくして、「JOAR」はパーティ用のプレイヤーハウスの作成に取り掛かることとなったのだった。


「で、プレイヤーハウスってどうやって作るんだ?」

 早速意気揚々と喫茶店の外に出たオルキヌスがふと思い立って振り向く。

「考えなしに飛び出したのね……」

 呆れ顔でアリが呟く。

「簡単に言うと、三つの工程があるよ」

 とリベレントが解説する。

 まずは、設計図を作る。

 次に、設計図を地面に敷き、そこに素材を投入する。

 最後に、完成した建物に家具を飾る。

「じゃあまずは設計図か!」

「それはそうだけど、どこに作るかも決めないとでしょ」

 オルキヌスが手のひらに拳をぶつけ合わせてやる気を示すが、アリが一旦それを止める。

「それもそうか。どこに作る? やっぱり『トーキョータウン』か?」

「確かに、『トーキョータウン』は税金も休めだし、理想的ね」

 プレイヤータウンに所属するプレイヤーハウスは様々な恩恵を受けられる。

 耐久度上昇や街範囲内のエネミーのポップ確率が大幅に減少すること、その他、プレイヤーハウスの持つバフ効果が高くなるなど、効果は多数に渡る。

 なので、プレイヤーハウスは出来れば、プレイヤータウン内に建てたいものだ。

 その代わり、プレイヤータウンに所属するプレイヤーハウスの所持者は定期的に税金を支払わねばならない。

 「トーキョータウン」は税金も安く、雰囲気も良いので暮らしやすそうだ、とアリも同意する。

「あー、『トーキョータウン』も勿論、いいんだけどさ、お台場はどうかな?」

「お台場って……『多様性街』?」

「いや、名前は今初めて知ったけど」

 お台場にもプレイヤータウンがある。「お台場の街」を英語にして「ダイバシティ」、長音を加えて「ダイバーシティ」、これは英語で「多様性」というギャグみたいな派生で生まれた名前である。

「今集まってるのもお台場だし、この前遊びに行ったのもお台場だった。これ、お台場が俺達の始まりの地だからだろ? だったら、家もお台場に作りたいなって」

 ジンは一瞬、悩んでから、思ったことをそのまま口にした。

「おぉ、お台場にもプレイヤータウンがあるのか。ならその、『多様性街』? でいいんじゃねーか」

「私はどっちでもいいよ。けど確かに、お台場に近いといいよね」

「へぇ、なんだみんな同じ気持ちだったのね。私もお台場がいいとは思ってたの」

 ジンの言葉に、全員が同意した。結局、ジンの言った通り、全員、お台場に愛着があったのである。


「じゃあ今度こそ設計図だな!」

 しかし、あいにく「JOAR」の面々は戦闘系特化のため、クラフトのスキルは持ち合わせがなかった。

 そこで、一行は「多様性街」の見学も兼ねて、「多様性街」の設計図屋を訪れた。

「オーダーメイドがしたいんだけど」

「お、四人で来たってことはパーティーハウス希望だね。任せてくれ」

 入ってすぐにアリが伝えると、設計図屋はすぐに応じてくれた。

「俺はシェット。家や倉庫から攻城兵器までなんでも設計図にしちゃうぜ。今後ともご贔屓に。それで、今回はどんな家にしたい?」

 シェットはそんな挨拶をしてから、早速とばかりにヒアリングを開始する。

「そうだな。まず四人で喋ったり何か食べたり出来るといいな」

「それなら、キッチンがあるといいかな。私、ちょっとだけだけど料理スキルあげてるんだー」

 まず、そう言ったのはジンとリベレント。

「あと寝る場所が欲しいな。節約のために車中泊してるが、ベッドで寝た方が確かバフがつくだろ」

「なら、男女二人ずつだから、二人部屋を二つでどう?」

 次にオルキヌスとアリがそんなやり取りを交わす。

「なら二階建てのこんな家でどうだい」

 と、さらさらとシェットが設計図を描く。

「へぇ、一階がキッチンとダイニング、二階が寝室ってわけね」

「2DKか。いいんじゃないか?」

 シェットの設計に一同は納得。早速シェットにお金を払い、設計図を購入する。

「毎度あり。また来てくれよな!」


 店を出た一行は、『多様性街』の中心にある商業街を抜け、あちこちにバラバラに建物が乱立する市街地に移動する。

「こうしてみると、あの喫茶店は『多様性街』の郊外も郊外なんだな」

「そうね、かなりギリギリの位置。『多様性街』は商業街が中心に集まってるでしょ? あれは『商業街』の領主が街を作るときに意図的に集めた人達なの。それで」

 ジンのふとした疑問にアリが答える。

「それで、その領主に声をかけられなかった人達は市街地よりもさらに外側にある郊外に店を持つしかないってわけなのか」

「そういうことね」

 ジンが納得したように頷く。ゲーム内の区画整備も色々と大変なようだ。

「おーい、ここにしようぜー」

 少し先行していた移動していたオルキヌスが立ち止まり振り返って両手を振っている。

 そこは少し建物が少ないエリアだった。

「随分建物が少ないな……、ってあぁ。高架の下だからか」

 そこは東京テレポート駅から伸びているりんかい線の高架の下だった。

 あぁ、でも別に気にしないだろ? とオルキヌスは頷く。

「確かに俺も気にしないけど、二人は?」

 オルキヌスの発言にジンは頷きつつ、アリとリベレントを振り返る。

「いいんじゃない?」

「うん、玉兎ちゃんも暗いところが好きみたいだし、それでいいと思うよ」

 というと、大楯の裏側から玉兎が顔を出す。

「え」

 思わずオルキヌスがそんな声を上げた。

「どうしたの?」

「いや、もしかしてずっとそこにいたのか、玉兎」

「うん、そうだよ。いつも盾の内側で私のことを回復してくれるの」

「そうだったのか……」

 てっきり、可愛さから戦いに出してないものかと思っていた、と割と本気で驚いている様子のオルキヌス。

「流石にそんな勿体無いことはしないよー」

「そうだよな、いや、ジンの金烏も戦場に出てないからてっきり」

「いや、俺も出してはいるんだよ。ただ、空中を飛ぶばっかりで何もしてくれないだけだ」

「それも変な話だよな、せっかくのレアペットの能力が空を飛ぶだけ、なんて」

 そんな脱線もしつつ、ついに決まった場所に設計図が敷かれる。

「あとは素材をぶちこむだけか」

「建材によって見た目が変わるみたいね、手に入れやすいのは木かしら?」

「ログハウスいいじゃねぇか。じゃあ俺、手近な森で木を切ってくるわ。車置いてくから、家具係は家具を買ってきてくれー」

 そういって、鍵かけっぱなしで車を放置してオルキヌスがバイクを出現させて走り去っていく。

 あいつバイクも持ってたのか、どこに行くんだろう、とジンが呟く。

「じゃあ、私は砂浜で砂を集めてくるよ。多分ガラスの分かな、少量必要みたいだから」

 家具は二人でよろしくー、とリベレントも海岸の方へ向けて歩き出す。

「じゃ、行くか」

「そうね」

 と言っても車なんているのか? と思いながらジンは商業街へと車を走らせる。

 現実的には家具の購入に車はほぼ必須だろうが、この世界はゲームである。インベントリに格納すればアイテムはインベントリの許す限り体積を0に出来るのだ。ジンの疑問は自然なものだろう。

 が、すぐにその理由は判明する。


「家具屋、一軒だけ!?」

 この世界はゲームである。

 多くのプレイヤーは家具より武器や防具、消費アイテムを欲する。

 故に商業街に存在する店の多くはそう言ったものを扱う店であり、どちらかといえば需要が少ない家具を扱う店は多いとはいえない現状があった。

 必要なものは大きな机が一つ、椅子が四つ、ベッドが四つに、玉兎用の餌皿が一つ、金烏用の止まり木と餌皿が一つずつが最低限だ。全てあるだろうか。

「椅子はシンプルなのがあったから、これでいいとして……」

「待って、確かに椅子はあるけど、机がないわ。机と椅子はテーマが合ってる方がいいから、机と椅子が揃ってる所で買った方がいいと思う」

「揃ってる所で、って、家具屋は一軒しかないんだぞ?」

「そのための車でしょ。行くのよ、『トーキョータウン』まで。あるいはさらに別のプレイヤータウンまで」

「なるほど」

 アリがいてくれてよかった、とジンは思った。アリがいなければ、ジンは適当な家具を適当に買って、テーマの統一感のない部屋になってしまっていただろう。

「ここで買えるのはベッドと止まり木くらいね」

「ベッドは二つしか在庫がないみたいだぞ。ベッドは四つじゃなくていいのか?」

「寝室は二つに分かれてるから、ベッド二つずつでも大丈夫だと思うわ」

 なるほど、と感心しながら、ジンはベッドと止まり木を購入し、インベントリにしまう。

 店を出て、車に乗り込む。

 そこから先はとにかく大変だった。

 「トーキョータウン」にも家具屋は二軒しかなく、餌皿とベッドしか買えなかった。

「椅子が二つしかないとはな……」

「そうね。……他のプレイヤータウンの事、私達よく知らないし……、ダメ元でここは」

 すみませーん、とアリが店主に声をかける。

「この椅子を作ったのはあなた自身ですか?」

 店主が肯定する。

「なら、あと二つ作ってもらえませんか? 四つ必要なんです」

 なるほど、その手があったか、とジンは思った。つい買い揃える事だけを考えていた。

 アリの頭が回ることに感謝しなければならないな、とジンはこっそり心の中でアリに手を合わせた。

「よし、素材を集めれば作ってくれるって」

「素材って?」

「鉄インゴットと木材。鉄インゴットは前に車を改造した時にまとめて精錬したのが残ってたでしょ、後は木材ね……」

「オルキヌスと合流しようか」

「どこにいるか分からないじゃない」

「だよなぁ」

 なんとなく、ジンが空を見上げる。

 直後、突然ジンの視界に木を斬り集めるオルキヌスを俯瞰する景色が映し出される。

「うわ、なんだこれ」

 驚いて頭を振るが、現実の視界の方が動くだけで俯瞰する景色は動かない。ただ、少しずつ前へ前へ進んではいる様子だ。

「代々木公園か」

 いずれにせよ、場所は分かった。

「アリ、確証はないが、オルキヌスは代々木公園にいるかもしれない、行ってみていいか?」

「えぇ? まぁどうせ他にはお台場くらいしかアテがないから、道中だし、行ってみましょうか」

 果たして、オルキヌスは代々木公園にいた。

 ジンに見えるもう一つの視界、空からの風景の通りに。

 なんだんだこれは、とジンが空を見上げると、そこには金烏がいた。

「これ……、金烏の視界なのか?」

 まぁもう必要ないな、と思うと同時にその視界は消えた。

 要件を尋ねるオルキヌスにジンは事情を話して、木材を少量譲り受ける。


「完成だ!」

 かくしてパーティ用のプレイヤーハウスは完成した。

 二階建てのログハウス。

 扉を開けると玄関と階段があり、玄関の扉の向こうはダイニングとキッチン。階段の上には廊下と扉が二つあり、それぞれの先が寝室となっていた。

「あ、私時間あったから、彫金師さんにお願いして寝室用の鍵を作ってもらってきたよ。アリちゃんは気にしないけど、ジン君はこういうの気にするでしょ?」

「あぁ、ありがとう」

 気が回るリベレントがそんな事を言う。寝室といってもログアウトすると姿は消えるので、ほぼ意味がないものではあるのだが、リベレントの言う通り、ジンは鍵はあった方が良いと思っていた。

「よっし、じゃあ最後の仕上げだな」

 そこでオルキヌスが妙な事を言う。

「仕上げ?」

「おうよ」

 オルキヌスがそれをインベントリから実体化させる。

「それ、蓬莱島の……」

 蓬莱島に生えている美しい宝石の木であった。

「おう、最高の観葉植物だろ?」

「いつの間に……」

「綺麗でいいじゃない」

「うん、素敵だよ」

 かくして、「JOAR」は自分達の拠点を手に入れることに成功したのだった。

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