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第19章「新武器〜マジカルレイピア」

「出来ました。あなたのための新しい武器、《マジカルレイピア》です!」

 ジンの持ち帰った金属を見て、リーヴは早速鍛治を始めてくれた。

 それで出来たのがこれ。白銀色に輝く細く長い片手剣だった。というか、複雑な曲線を描いた格子状の護拳までついていて、名前の通りどう見てもレイピアであった。

 見た目はどうあれ性能は《ライトニングソード》に少し劣る程度で、全く申し分ない。魔力伝導率だけを見れば、《マジカルレイピア》の方が上だ。

「素晴らしい武器だ。ありがとう」

 ジンは完成した武器を眺めて軽く数回素振りをしてから、満足げに頷いて、リーヴにお礼を言った。

「いえいえ、また武器に困ったらいつでも遊びに来てください。ジンさんが有名になったら、それがうちの武器だって宣伝してくださいね」

「あぁ、必ず」

 リーヴの言葉にジンが頷く。


「さて、どうする? これからどこか試し切り行くか?」

 店の外に出ると、車の中で待機していたオルキヌスが、いつでも行けるぜ、とアピールする。

「あぁ、鍛治してもらってる間に調べたところ、都内……といっても伊豆諸島なんだが、ともかく都内に土属性のF.N.M.がいるらしいんで、それ倒しにいこうかな、と」

 助手席に乗り込みながら、ジンがそう言うと、オルキヌスが流石だな、と感心したように頷く。

「一日に連チャンでF.N.M.との戦いになるが、平気か?」

 ジンが後ろを振り向いて、アリとリベレントを見る。

「余裕よ」

 代表してアリが答える。二人は自信満々に頷いていた。

 オルキヌスの車が発進し、ジンの指示に従い、空へと飛び立っていく。


 東京都大島町。伊豆諸島の中でも最も中心的な島である伊豆大島全域を指す町域である。

 そんな大島町には「裏砂漠」と言われる場所がある。

 国土地理院が日本で唯一砂漠と記載した、即ち日本唯一の砂漠である。

 砂漠とは言っても、スコリアと呼ばれる細かい軽石のような火山岩で構成される黒い砂漠であり、本来はよくイメージされる砂地の砂漠とは異なるのだが、その地は『スペースコロニーワールド』の侵食により、ステレオタイプな砂漠へとその見た目を変えていた。

 そこに、今回のターゲットである土属性のF.N.M.「ラージサンドワーム」はポップするらしい。

 その砂漠に、オルキヌスの車が乗り上げる。

 本来は特別保護地区に指定され、車両の乗り入れが出来ない裏砂漠であるが『VRO』においてはそんなことは関係なしである。

「おい、先客がいるぞ」

 ラージサンドワームは、現状有用なレアドロップの報告がされているわけでもなく、有用な素材をドロップするわけでもない。その上、場所は海を長距離超えて辿り着く島の上と来ており、本日1回目のF.N.M.だったアイシクルドラゴンと同じく「JOAR」単独での戦闘になることと思われていたのだが、意外にもそこには先客がいた。

「よう、あんたらもラージサンドワーム討伐が目的か?」

 車を降りたオルキヌスが先客の四人に声をかける。

 彼らはパーティの決まった服装であるのか、全員が白いフードを被っていた。

「あんたら〝も〟ということは、あなた達も?」

 白いフードの男達に一人が一歩前に踏み出し、オルキヌスに応じる。

「俺たちは『JOAR』。俺がリーダーのジンだ。ここへは新しい武器の試し切りに来たんだが、君達は?」

 ジンがここからはリーダーの仕事とばかりに、オルキヌスの言葉を継いで名乗る。

「俺達は『ニンジャ』。リーダーのイーグル・アルファだ。仲間からは専らイアと呼ばれているから、そう呼んでもらって構わない。ここへはラージサンドワームが落とすとされるオプションを求めてやってきた」

 オプションとは、『スペースコロニーワールド』の武器にセットする装備品の事だ。『スペースコロニーワールド』の武器はバリエーションに乏しい代わりにオプションで差別化を行う仕様になっているということを、ジンもオルキヌスから聞いて知っていた。

「よろしく、イア。有用なレアドロップがあるなんて聞いた事ないな、それに……」

 と周囲を見渡すジン。君達以外に人がいないようだし、と暗に告げている。

「我々『ニンジャ』はフォトンナイフを用いたステルス戦法を主軸に戦うコンセプト重視パーティなのだ。ここで落ちるオプションも隠密性と不意打ち火力を上げるもの。多くのプレイヤーからは求められてないものだ」

 ステルス戦法とはその名の通り姿を隠して敵を不意打ちする戦法のことだ。不意打ちは成功すると、防御力無視にクリティカル確定、さらに二倍以上のダメージが入るとメリットも大きいが、重装であればあるほど失敗しやすくなる事と、基本的に一回限りしかチャンスがない事もあり、あまり使われている戦法ではない。

 その辺りの事情はジンも抑えているので、なるほど、とシンプルに頷いた。

「けど、それじゃ単独でラージサンドワームを倒すなんて無茶じゃないか?」

「実はその通りだ。というか……既に二回戦って二回とも時間切れで負けている」

 逆に言えばその軽装で死なずに避け続けられていたと言う事で、パーティとしての実力が高いことが伺えた。

「ジン殿、差し支えなければ、共にラージサンドワームと戦ってくださらぬか? さらに可能であれば、ラストアタックも譲ってもらえると嬉しいが、何も差し出せるものがない故、無理にとは言わない」

 真剣な目でイアは言う。

「あぁ、構わないよ。俺達は試し切りがしたいだけだし、な、みんな?」

 振り向いたリーダーの決断に否と言う者は一人もいなかった。

 特にレアドロップが欲しいわけでもない以上、レイドでもないのにラストアタックを狙う理由もなかったのだ。

「次のポップはいつ頃だ?」

「前回のポップ時間から見て、ちょうど間も無くだと思うが……」


 直後、唐突にそれは地面から飛び出してきた。

「あれか!」

 砂から飛び出したそれは巨大な漆黒の口を持ったサンドワーム。

「『ニンジャ』の面々が不意打ちする隙を作る。基本的にはいつも通りで大丈夫だ、向こうに合わせてもらおう」

「分かった!」

 リベレントが《ウォークライ》しながら、大楯を構える。

 すると、ラージサンドワームはリベレントに向けて一気に大口を開けて接近を図る。

 迫り来る大口に大楯を押し込み、踏ん張る。

 だが、地面は砂地であり、リベレントの足は砂に食い込み、後ろへ後ろへ下へ下へとズレていく。

 当然、リベレントをそのまま放置したりはしない。ジンは素早く指示を出し、アリのバフを受けつつ、オルキヌスと同時に攻撃を仕掛ける。

 オルキヌスの大上段の斬り下ろし攻撃 《カラミティストライク》と、ジンの突撃刺突技 《ライトニングピアッシング》がそれぞれ突き刺さる。

 《ライトニングピアッシング》が突き刺さると同時に《タップエクスチェンジ》で武器を今回の本命である《マジカルレイピア》に持ち変える。

「ヴェントス・アダレレ・グラディウス」

 《魔法剣・風》で土属性から見て弱点にあたる風属性を付与しつつ、《マジカルレイピア》のWSが発動する。

 ジンの腕が高速で動き、無数の突きを放つ。突きと同時、《マジカルレイピア》に宿る風の魔力が射出される。

 実際の突きと付与した魔力の突きによる二重の連続突き。それが《マジカルレイピア》のWS《レインピアッシング》であった。

 一気にHPを削られたラージサンドワームがターゲットをジンに変更し、大口を開けてジンに迫る。

「これだけ大きくても出来るか……?」

 ジンは先ほどとは反対方向へ《マジカルレイピア》の柄を捻る。

 飛びかかってくるラージサンドワーム。

 対するジンは、本来なら考えられないほどの脚力で地面を蹴って大きく跳躍し、その飛びかかりを回避、鋭い斬撃をラージサンドワームに喰らわせる。

 《ショートソード》から引き継いだWS《リポスト》だ。だが、《ライトニングソード》と同じく魔力が攻撃力に加算される仕様を持ち、また素の攻撃力も高い《マジカルレイピア》から放たれるそれは、《ショートソード》とはまるで威力が違う。

「すごい! これなら次のレイドももっと戦える!」

 その結果に満足したジンはそんな嬉しそうな声を上げながらラージサンドワームの側面に連続攻撃を仕掛ける。

 ジンは明らかに高揚していた。

 高揚していたが故に、単純なミスを犯した。

 『VRO』のあらゆる強敵戦に共通する仕様、HPが半分を切ると、行動パターンが変化する、というその単純な事実を忘れていた。

 ラージサンドワームの側面にフジツボのような突起が無数に出現し、その内部にエネルギーが蓄積していくのが分かる。

 そう、新しい範囲攻撃AoEが放たれようとしているのだ。

「しまった!」

 攻撃に夢中になっていたジンは咄嗟に回避が間に合わない。防御力の高くないジンがまともに食らえばそれだけでモニュメント化は免れない。

「《パラライズフォトン》」

 だが、そうはならなかった。

 ジンを助けるため、イアがステルス状態を解除して不意打ちを敢行したのだ。発動したのは、対象を麻痺させるWS。クリティカル確定のその一撃により、ラージサンドワームは一時動きを封じられる。

「すまない、助かった」

「気にするな、このまま削るぞ」

 ラージサンドワームが麻痺している間に二人で攻撃範囲から離脱する。

 麻痺が解除されると同時、ラージサンドワームはエネルギー弾を周囲にばら撒き、攻撃する。

「正面は口、左右はエネルギー弾、なかなか隙がないな」

 冷静さを取り戻したジンが呟く。隙を縫って攻撃することは可能だろうが、その戦い方では時間がかかる。また、攻撃期間と硬直期間が長い《レインピアッシング》のようなWSも使いにくくなる。

 今回はレアドロップが出るまでの連戦になる、出来るだけ楽な戦い方を見つけたい。

 そして、ジンは作戦を思いつく。


 まずはヘイトを獲得したリベレントが正面に立ち、ラージサンドワームの攻撃を受け止める。正面はエネルギー攻撃の死角となるので、噛みつきさえ防げれば相対的に脅威度は低い。

 そこへ突撃したのはジン。手に持つのは勿論 《マジカルレイピア》、ではなく、《ライトニングソード》。

 一気にラージサンドワームに接近し、鞭のようにしなる《パラライズウィップ》で攻撃して、相手を硬直させる。

「今だ、一斉攻撃」

 そう、雷は無効化されても、麻痺は通用する。それがさっきの不意打ちで分かっていた。ならば、相性不利でも《ライトニングソード》の出番があった。

 《タップエクスチェンジ》で武器を変更し、麻痺したラージサンドワームに《レインピアッシング》で攻撃を開始する。

 オルキヌスも負けじと攻撃する。

 そして。

「今だ!」

 一斉に「ニンジャ」所属の3人が不意打ちを実行。一気に残ったHPゲージを削り、ラージサンドワームが撃破された。

「……」

 だが、レアドロップの表示はなし。ここから本当の、長い戦いの始まりである。


【RARE DROP】

 何度かのログアウトを挟みつつ、狩りを継続すること数日。

 ついに四度目のレアドロップ表示を以て、「ニンジャ」と「JOAR」の共同戦線は終わりを迎えた。

「お疲れ様」

 トーキョータウンの飲み屋で二つのパーティは乾杯していた。

「今回は本当に世話になった。我々はステルス戦法主体故、力になれることは少ないかもしれないが、一応礼だ。何かあったら呼んでくれ」

 そういいながらイアはジンにフレンド申請を送りつけた。

「あ、ありがとう。お礼なんていいのに」

 特にジンはいくら経験値を稼いでもまだ足りない身だ。F.N.M.狩りを少人数で出来たのは経験値的にも美味しく、それだけでもありがたいくらいだった。

「我々の気持ちと考えてくれ。ではまた会おう。『JOAR』の諸君」

 楽しい食事会も終わりの時間を迎え、イア率いる「ニンジャ」が飲み屋を出ていく。

 レイドで名声を求めるジン達「JOAR」とは全く違う。好みの戦法をひたすらに繰り返す趣味集団。

 また自分達の道が交わる時はあるのだろうか、ジンはそんなことを思いながら、残っていたドリンクを一気に飲み干し、言った。

「じゃ、俺達もログアウトし落ちようか」

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