あれから立ち直った仁ことジンはすぐに新たなレイドへど挑戦した。
典型的なボスバトル。初めてのレイドの時の反省を生かし、中盤までは軽い攻撃で流しつつ、中盤から一気に攻勢に出る作戦。
もはや敵のHPゲージは最後の一本の半分。ジンは一気に《ライトニングピアッシング》でボスに向かって突撃する。
だが、表示されるダメージポップアップは青色でレジスト、の文字。HPゲージは削りきれず、僅かに残る。
「やっぱり浅いか」
「ジン、砲撃が来るわ、離れて」
アリの警告に慌ててジンが距離を取る。
直後猛烈な魔法による砲撃がボスへと突き刺さり、ボスは砕けて消えた。
【RAID Complete】
【Most Best Party : JOAR】
【Last Attack : Takeshi】
それでも、なんとか最優秀は取ったようだ。
いつものお台場の喫茶店で、ジンが呟く。
「ラストアタック、取りたかったなぁ」
「最優秀取れただけでも御の字だろうぜ、また俺たち有名になるかもな」
前ほどではないとはいえ悔しそうなジンに対し、オルキヌスは楽観的でテンションが高い。
「いや、聞いてくれよ。俺のメイン武器、雷属性纏ってるから土属性には弱いんだよ」
多くのゲームにあるように、『VRO』にも属性の相関関係がある。
風→土→雷→水→火→氷→風、という円環を描いている。
ジンの主力武器は彼の象徴たるレア
「だが、お前には《タップエクスチェンジ》があるだろ?」
「《ショートソード》だけどな、初期武器だからあんまり威力出ないんだよ」
《タップエクスチェンジ》は武器をタップすることで予め決めておいた二種類の武器を交互に切り替えるスキルだ。
だが、その交換で持ち帰る事が出来るジンの武器は《ショートソード》。初期武器であり、その性能は《ライトニングソード》と比べるべくもない。
「なるほど、要するに他の武器が欲しいって事ね」
「そうなんだよ。でも、なかなか魔法剣士向けの武器がドロップするってF.N.M.の情報はなくてさ」
当然、ジンもWikiなどを調べて、レア武器情報を漁っているのだが、なかなか有力な情報は得られずにいた。
「あ、だったらさ」
ふと思い出したようにリベレントが口を開く。
「私のゼミの知り合いに鍛冶屋がいるんだよ。頼ってみない?」
「いいのか!」
鍛冶屋、その発想はなかったな、とジンは立ち上がる。
「うん」
「なら、早速行きましょ。ジンが強くなる事で困る人なんてここにはいないんだから」
アリがそう言って立ち上がる。
「おう」
オルキヌスも合わせて立ち上がり、一行は車に乗って移動を始めるのだった。
東京都武蔵野市吉祥寺。
武蔵野市の東部に位置する繁華街である。
古くから演劇の町として知られ、漫画家が多く住んでいるとされ、アニメーション制作会社やゲームソフトメーカーなども多く存在していることから、サブカルチャーの発信地とも言われるそこは、多くの『VRO』内でも多くのプレイヤーに愛されており、無数のプレイヤーの家や店が立ち並ぶ一大プレイヤータウン「トーキョータウン」となっていた。
「すごいな、ここにある建物、全部プレイヤーが作ったのか」
全てがプレイヤーの建てた建物という事実にただただ関心するしかないジン。
「商店街の方はNPCの店が残ってるけど、こっちの方はほとんどそうだね。今の領主さんが税金を安く設定してるのもあって、日本リージョンでは最大のプレイヤータウンだって言われてるよ」
「領主とか税金なんて概念もあるのか」
その辺も詳しく知りたいところだったが、今は早く自分の武器を作りたいジン。詳しく聞くより早く、リベレントについていき、店に入ることを選ぶ。
「いらっしゃいませ〜。リーヴ鍛冶屋へようこそ〜」
店に入るとLevesと言う名前の長いグレーの髪をストレートにした少女が出迎えてくれた。
「あら、リベレント! 来てくれたんだ!」
リベレントの顔を見ると嬉しそうに駆け寄る。
「なに、もしかしてお客さんを紹介しにきてくれたの?」
そして、二番目に入ってきたジンの顔を見て、さらに嬉しそうに微笑む。
「では、ご注文を伺いましょうか」
「なるほど、オーダーメイドの剣を希望ですね」
「あぁ。片手剣だ」
「他に細かい希望はございますか?」
「魔法の伝導性が高いと嬉しい。それから……これは可能か分からないんだが、WSの片方は《リポスト》だと嬉しい」
ジンがそもそも《タップエクスチェンジ》を使う理由は敵の攻撃に対し《リポスト》で応じるからだった。なので、出来れば新しい武器にも《リポスト》が使えると嬉しいのだが。
「《リポスト》を使える武器はお持ちですか?」
「あぁ、《ショートソード》がある」
「でしたら、それを武器生成時に使うことで、WSを一つだけ継承出来ますので、可能ですよ」
「なら頼む」
欲しいのは《ショートソード》の代わりなので、それが作れるなら《ショートソード》が無くなるのは構わない。
「性能の希望はございますか?」
「そうだな、無茶振りにはなるが、この《ライトニングソード》に匹敵する性能だと嬉しい」
そう言ってジンが《ライトニングソード》を抜いて見せる。
「わぁ、あなたが噂のレアアイテム初心者さんだったんですね。F.N.M.のレアドロップ産の武器に匹敵する魔法剣士用片手剣ですか……」
「難しいか?」
「そうですね、これが他の用途であればまた別なんですが……。あの、怒らないで聞いてくださいね? 魔法剣士の有力プレイヤーって殆どいないんです」
リーヴが遠慮がちに告げる。
「なるほど、魔法剣士用片手剣の強い武器に関する情報が殆どないわけか」
その事実はジンも知っていた。
魔法剣士はどうしても魔力と筋力の両方をしっかり育てなければならない事に始まり、どうしても器用貧乏になりがちな要素が強い。
魔法を使いたいなら純粋な魔術師を、剣を使いたいなら純粋な剣士を選ぶ方が結果的に強い事が多く、有力プレイヤーで魔法剣士といえば、以前見かけた『キャメロット』のガウェインくらいのものだった。
「ですが、一つだけ情報があります。魔力伝導率の高い金属の噂がゲーム内で聞けるらしいんです」
そう言って、リーヴは唯一縋れるある情報について、切り出した。
東京都八丈島。
伊豆諸島に属するひょうたん型の島であり、隣接する八丈小島との区別のため、八条大島と呼ばれることもある。
西山と東山の二つの火山を持ち、特に西山は東京諸島の中では最も高い標高を持ち、八丈富士とも呼ばれる。
その西山が凍りついていた。
その山頂から眼下を見下ろすのは、F.N.M.【
東京諸島で噂に聞く「魔力伝導率の高い金属」を体に纏うと言うドラゴンである。
「やっとポップしたか」
オルキヌスがテントを畳み、インベントリに収納しながら呟く。
そう、一行はこのエネミーがポップするのをずっと待っていたのである。
「俺達だけでの戦闘か」
ニッチな場所な上に、レアアイテム情報もなく、素材情報もニッチ故、他のプレイヤーの姿はない。
「F.N.M.を一パーティで攻略とはね」
アリが肩をすくめる。
レイドと比べれば難易度は低いとはいえ、F.N.M.も複数パーティで挑むのが前提の難易度設計である。果たして四人で勝てるのだろうか。
一行が武器を抜いたのを合図に、アイシクルドラゴンが口から無数のつららを吐いて攻撃してくる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ルックス・マキシーメ・エト・マキシーメ・マンニョム・ムーラス・クストーディオ!」
リベレントの《ウォークライ》にジンの《ラージマジックウォール》。範囲攻撃にはお馴染みの対応だ。
「敵のブレスは拡散型だ。距離を取られれば取られるほど不利になる。接近するぞ」
ジンの指揮の元、リベレントを先頭に一行が一斉に前進を始める。
「ファーストアタックもらうぜ、《カラミティストライク》!」
つららの照射が終わると同時、オルキヌスが防御範囲から飛び出し、大上段の斬り下ろし攻撃を放つ。
「俺も続く! トニートル・アダレレ・グラディウス」
ジンもまた《ライトニングピアッシング》で一気にアイシクルドラゴンへと肉薄、鋭い突きからの連続攻撃を放つが。
「くっ、弾かれる!」
だが、ジンのその鋭い一連の攻撃は大した手応えにならない。
武器が突き刺さっていかないのだ。
「そうか、こいつ全身が金属なのか!」
だから、同じ金属であるジンの剣による攻撃は弾かれる。
なら、自分は後方から攻撃した方がいい、と判断し、アリにオルキヌスにバフを送るように指示を送る。
ジンに向けて飛んでくる尻尾の一撃をリベレントに受けてもらいつつ、ジンはリベレントの後方へと下がる。
ジンの近接攻撃が効かなかったのは予想外だったが、戦闘は思ったより「JOAR」有利に進んでいる。
アイシクルドラゴンの
そして全身の硬い装甲はフォトンラージソード使いであるオルキヌスに意味はないし、ジンも魔法攻撃で着実に攻撃出来ている。
「ねぇ、ジン、私、嫌な予感がするんだけど」
「なんでだ? 順調じゃないか」
まもなくアイシクルドラゴンのHPゲージが半分を切ると言う時、アリが口をひらくが、ジンにはその理由が分からない。
「全身の金属って魔力の伝導性がとても高いのよね?」
「そうだな」
「で、この『ナイトアンドウィザード』の
「! オルキヌス、下がれ!」
直後、アイシクルドラゴン全身の装甲から無数のつららが突き出てきて射出される。
咄嗟にリベレントの背後に隠れたジンとアリは無事だったが、オルキヌスが回避しきれず、ダメージを負う。
とはいえ、ジンの声かけも無駄ではなかった。咄嗟にオルキヌスは《ラージセイバーガード》を発動したため、ダメージを幾らか軽減出来たのだ。
だが、それで安心はできない。アイシクルドラゴンは再び装甲表面につららを展開しつつある。
「オルキヌスは急いで下がれ、アリ、回復急げ!」
指示を飛ばしてから、自身も《ラージマジックウォール》をリベレントにかける。
全方位つらら攻撃をリベレントに防いでもらいつつ、一行は隙を縫って攻撃を続けるが、徐々にリベレントの限界が見えてくる。
このままではジリ貧、否、「JOAR」の敗北である。
「ジン! ドラゴン系の弱点が頭部なのは知ってるな?!」
そこでふと何かに閃いたオルキヌスがジンに向けて半ば怒鳴るように問いかける。
ジンは当然だろ、と返す。さっきから魔法は頭部を狙っては放っている。
「なら話が早い! お前の剣で頭を貫け、多分それで終わる!」
「そうか、頭部には装甲がないから! だが、どうやって」
「こうやってだ、よ!」
オルキヌスがジンに歩み寄り、足元を引っ掴む。
「なっ、おい、まさか」
「打ち上げたところでWSを使うんだぞ!」
直後、アイシクルドラゴンの全方位つらら攻撃が終わり、一瞬の隙が生じる。
「いっけぇぇっ!」
「ええい、ままだ!」
一気に足を高く打ち上げられるジン。最も高くまで足が到達したところで、《ライトニングソード》の柄を捻る。
「イグニス・アダレレ・グラディウス!!」
直後、自動的に強く強く足場であるオルキヌスの腕を蹴って、ジンの体が宙を飛ぶ。同時、《魔法剣・炎》が発動して、《ライトニングソード》が雷に加え赤き炎も纏う。
目指す先は、アイシクルドラゴンの頭部。
炎を纏った鋭い《ライトングピアッシング》の一撃がアイシクルドラゴンの頭部へと突き刺さった。
同時、アイシクルドラゴンの体が破片となって砕け散った。