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第14章「クエスト〜車よ空高く 下」

 オルキヌスの車に飛行能力を与えるために高天原山に墜落した宇宙戦艦のダンジョン攻略を開始した「JOAR」一行。

 ダンジョンの奥、目的地点の目前で、彼らを待ち受けていたのは、青色の光る盾と青色に光る大剣、そして肩に多連装ミサイルランチャーを装備した5mサイズのロボットであった。

 フォトンシールドとフォトンラージソードか。典型的な『スペースコロニーワールド』の装備である、とそう敵の装備を分析するのはオルキヌスだ。

 直後、ミサイルランチャーから無数のマイクロミサイルが放たれる。

「そんなことより、ミサイルでしょ!」

「ルックス・ムーラス・クストーディオ」

 ジンとリベレントが異口同音に呪文を詠唱する。

 同時に発動したその魔法は先頭にいたタンク二人を守るが、爆風は後方にまで飛んできて、後衛二人のHPを削る。

「閉所でこの範囲攻撃はやばいぞ!」

「一気に決着つけるぞ!」

 ジンの言葉にオルキヌスが応じ、一気に飛びかかっていく。

「喰らえ、《カラミティストライク》!」

 オルキヌスが一気に飛び上がって大上段にロボットに斬りかかる。

 だが、見え見えの攻撃を喰らう敵ではなく、ロボットはフォトンシールドでその攻撃を防ぐ。

「おい、オルキヌス無茶すんな! リベレント、カバーを!」

「うん!」

 オルキヌスの攻撃が受け流される。

 直後、フォトンラージソードの一撃がオルキヌスに迫る。

 それを、リベレントの大楯が受け止める。

「わりぃ!」

 そこで、再びミサイルランチャーが稼働する様子を見せる。

 味方を庇ってもらう必要があるため、リベレントに下がるようにジンは指示するが、リベレントはオルキヌスを心配し、逡巡する。

「《ハードパリング》で弾き返せ! そうすれば、オルキヌスが攻撃を継続出来る」

「分かった!」

 ジンの指示にリベレントが頷き、《ハードパリング》で敵のフォトンラージソードを弾き返すと同時に、一気に後方に飛び下がる。

「ルックス・マキシーメ・エト・マキシーメ・マンニョム・ムーラス・クストーディオ!」

 それと同時にジンが魔法を詠唱し、リベレントを中心に光の壁を出現させる。

 放たれたマイクロミサイルが光の壁に阻まれるが、すぐにそれは破られる。

「くっ、イグニス・ムーラス・クストーディオ!」

 爆風を防ぐために、ジンとアリに《ファイアウォール》の魔法を発動する。が、ミサイルは直接的に後衛に向けて殺到する。

「嘘だろ、まだ攻撃してないこっちを狙ってくるのかよ!? ヘイトガン無視か!」

 驚愕するジンを爆発が飲み込む。

 無視できないダメージを負ったジンとアリのHPをアリが回復させていく。

「マイクロミサイルは遠くの敵を攻撃するロジックなんじゃないかしら。全員で接近戦を仕掛けた方がいいかもしれないわ」

「そういうことか! なら接近戦でいく。アリも近距離範囲で支援してくれ」

 アリのゲーム勘的判断にジンは頷き、近距離戦への移行を選ぶ。

「トニートル・アダレレ・グラディウス」

 《魔法剣・雷》の魔法を発動し、《ライトニングソード》の雷を増幅させつつ、駆け出し、一気にロボットに向けてWS《ライトニングピアッシング》で突撃する。

 地面を蹴って、一気にジンとロボットの間の距離が埋まる。

「合わせるぜ、ジン!」

 同時、オルキヌスのWS《スライドクリーヴ》が発動する。

 放たれる横薙ぎの強烈な一撃。

 ロボットはオルキヌスの攻撃をフォトンシールドで防ぐ。

 その隙を突き、ジンの《ライトニングソード》による電撃を帯びた鋭い突きがロボットに突き刺さる。

 ガクッと敵のHPゲージが削れる。

「よし、効いてる。こいつ、雷が弱点だ!」

 つまり、ジンと相性の良い相手だ。

 しかし、状況は油断を許さない。

 一気にダメージを稼いだ結果、ヘイトまで稼いでしまったジンに向けて、ロボットのフォトンラージソードが迫る。

「はあああああああああああっ!」

 リベレントが《ウォークライ》を発動しつつ、間に割り込み、フォトンラージソードを受け止める。

「今のうちにダメージを稼ぐぞ!」

 ジンとオルキヌスが攻撃を続行する。

 そこで、ミサイルランチャーの稼働をアリが警告する。

「分かった。リベレントはすまないが耐えてくれ! ルックス・ムーラス・クストーディオ」

「うん、ルックス・ムーラス・クストーディオ」

 そう言いながら、全員がリベレントよりさらにロボットに接近しつつ、リベレントに《マジックウォール》の魔法をかける。リベレント自身も自分に重ねがけすることで防御力を上げておく。

「イグニス・ムーラス・クストーディオ」

 さらに念の為、爆風対策に《ファイアウォール》をジンとアリにかける。

 アリの「マイクロミサイルは遠方の敵を狙う」と言う推測が正しいなら、これで敵のマイクロミサイルはリベレントだけを狙うはずだった。

 だが。

 マイクロミサイルは放たれてから急旋回し、ジンとアリに向かって飛翔してきた。

「なっ、る、ルックス・ムー……ぐあ」

 慌ててジンが《マジックウォール》を詠唱しようとするが、マイクロミサイルの方が早い。

 マイクロミサイルの直撃に加え、魔法のファンブル。ジンへのダメージは絶大だった。

 ジンの体が砕け、モニュメントへと変化する。

 モニュメントはプレイヤーキャラクターが撃破された場所に出現するやられている状態のキャラクターのアバターのようなもので、こうなるとプレイヤーキャラクターは移動不能発話不能という状態になる。

 モニュメントの表面にはカウントダウンが表示されていてこのカウントダウンが0になると正式にキャラクターは撃破扱いとなってホームタウンやダンジョンの入り口に強制送還される。この時、経験値のマイナスペナルティも生じる。

 が、今回はそうはならず、アリが蘇生アイテムである《聖杯の血》を使ったため、ジンは即座にその場へと復活する。

「なんなのよあれ。後衛を確実に撃ち抜くミサイルってこと? さっきの分断ギミックと言い、そんなに後衛を潰したいわけ?」

 アリが怒りを露わにするが、それで事態が好転するわけではない。

 だが、確かに、先ほどの分断ギミックも考えれば、後衛だけを確実に攻撃してくる、と言う可能性は否めない。

(だが、そうだとしても、さっきの分断ギミックでは後衛側からだけ破壊できる壁があったように、何か打開策があるはずだ……)

 ジンは再び《ライトニングピアッシング》で攻撃を仕掛けながら、思案する。

「だがよう、最初のミサイルは俺とリベレントさんを狙ってきたぜ。必ず後衛を狙ってるわけじゃないんじゃないか?」

 と、オルキヌスが思いつきを口にする。

 確かにその通り。最初のマイクロミサイルはきちんと先頭を狙ってきた。では、最初とそれ以外で何が違うと言うのか。

 ジンは思案し、ふと一つのアイデアに至る。

 リベレントがミサイルランチャーのかどうに気付き、周囲に警告を発しながら、防御の姿勢を取る。

 一同がその庇護下へ移動する。

「イグニス・サジッタ・スルクールズ!」

 そんな中、ジンは魔法を詠唱していた。

 放たれた《ファイアミサイル》は敵へ向けて……ではなく、敵とは明後日の方向へと飛翔していく。

「ジン、何を……?」

 オルキヌスが疑問を口にした直後、全てのマイクロミサイルはその《ファイアミサイル》を追いかけて飛んでいった。

「そうか、ミサイルは赤外線誘導だったのね」

 アリが納得したように頷く。

「どういうことだ?」

 一方、オルキヌスは分かっていないようで首を傾げる。

「今は戦闘中だ。説明はあとに」

 簡単に説明すれば、あのミサイルは熱源、つまり熱いものを追いかけるタイプのミサイルだった。だから、これまでは爆風防止に展開してた《ファイアウォール》に逆に惹きつけられてしまっていたのだ。

 だからより高温の熱源である《ファイアミサイル》に惹き寄せられた。

「これでもう脅威は去った。あとはひたすら殴るだけだ」

「えぇ、熱源でいいならジンがわざわざ魔法を詠唱しなくても、私の《スナップ》でいいもの」

 あとはもう決着の見えた話だ。

 マイクロミサイルという脅威がなくなったロボットは瞬く間にジンとオルキヌスの猛攻とリベレントの的確な防御、そしてアリの後方支援により確実のそのHPを削られ、そして消滅した、

「よっしゃ、勝ったぜー!」

 オルキヌスが上機嫌に声を上げる。

「ジンは一回死んだけどね」

「あぁ、もしこれがレイドだったら俺のデータは初期化されてた危ないところだったな」

 アリの冷静なツッコミにジンが頷く。

 レイドはモニュメントすら発生しない文字通りHP0がそのままデータ初期化を意味する過酷な戦いだ。今回はレイドではないから「少し失敗もした」で済んだが、レイドであればそうはいかない。

 リーダーとしてジンはもっと覚悟を決めていかないといけないな、と感じた。

「よっし、問題のジェネレータを回収して帰ろうぜ」

 そういってオルキヌスが奥へと進む。

 するとゲーム的に青くハイライトされたパーツがそこに埋め込まれていた。

「これだな」

 オルキヌスはそれを抜き取った。

「じゃ、帰るか」

「あの山をまた降りなきゃならないと思うと気が重いな……」


「おぉ、ありがとうね。これで、君の車を改造出来るよ。成功するとは断言出来ないけど、それでもやるかい」

 オルキヌスが迷いなく頼むぜ、と答えると、オルキヌスの車が自動的に工場の中に入っていく。

 そして。

「出来たよ、これで君の車は空を飛べる……はずだ。まぁ適当に試してきてよ。何かあっても責任は取れないけどね」

 一行は早速外に出て車に乗り込む。

「じゃあいくぜー!」

 まっすぐな道をオルキヌスの車が進み、そして、飛び上がった。

 車の後ろ半分が変形し、翼とエンジンが出現して、空中への推力と揚力を生み出したのだ。

「おぉ、これはすごいな!」

 オルキヌスが上機嫌に叫ぶ。

「これはすごいわね。なかなかいい眺めじゃない」

 アリも上機嫌に頷き、その隣でリベレントも頷いてる。

「じゃああとは速度を上げるために強化素材を集めるだけだな」

 最後にジンがそんなことを言って、まだこれから先があるのかー、とアリやオルキヌスのテンションを下げさせたが、とはいえ、もう自分たちには翼がある。

 どれだけ遠くの素材を要求されようと集められるだろう、とそう考えながら、新たな翼を得た 「JOAR」は次なる目的地へと飛翔していくのであった。

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