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第13章「クエスト〜車よ空高く 上」

 すっかり溜まり場となった『VRO』内の喫茶店に、「JOAR」の面々が集まっていた。

 今日はリーダーが決まって初めての『VRO』。早速アリは今日はどうするの? とジンにこれからの方針を尋ねる。

「あぁ、まず前提として、俺は俺の意見だけを押し付ける気はないから、やりたいことがあったら言ってくれていい」

 その上で、今日は提案がある、とジンが続ける。

「今俺達の移動手段はオルキヌスの車に依存しているわけだが、あれはあくまで車で、この日本リージョンを横断するだけでも結構時間がかかる。俺達は学生だから、なかなかこんなに時間は取れないのが現状だ」

 そうね、とアリがジンの言葉に頷く。

 だから、レイドが発生しても場所とタイミング次第では行くのが難しい現実がある。

「あぁ、それで、オルキヌスとちょっと喋ってたんだが、みんなでオルキヌスの車を強化しないか?」

 へぇ、とアリがするとどうなるの、と尋ねる。

「あぁ、飛べるようになるし、最大強化すれば音速飛行も可能になるらしい」

「へぇ、それはいいじゃない! やりましょうよ」

 アリは目を輝かせて立ち上がった。

「ね、お姉ちゃん」

「うん、私も賛成、さっそくやろう? まずは素材集めとかかな?」

「あぁ、それも勿論頼みたいんだが、その前に飛行を解放するクエストがあるらしくてな、それは一人でクリアするのが難しいらしいんだ」

「なるほど、ダンジョンアタックかしら? やりましょう!」

「よっし、じゃあ早速向かおうぜ、名古屋へ!」


 名古屋。

 日本の中枢中核都市であり、名古屋を中心とする中京圏は東京を中心とする首都圏、大阪を中心とする近畿圏に並ぶ日本の三大都市圏の一つでもある。

 そんな名古屋市と東海市、知多市、弥富市などにまたがる日本最大級の港湾が、名古屋港である。

 その規模は臨港地区の面積は日本最大というほどで、それゆえなのか、『VRO』内においては、日本リージョンにおける『スペースコロニーワールド』の本拠地となっており、無数の宇宙戦艦が停泊する宇宙港としての側面を持つ。

 極彩色に光る黒いビルディングの立ち並ぶ『スペースコロニーワールド』の街並みを、オルキヌスの車が走っていく。

 やがて一つの建物の前で止まる。

「周囲の立派な建物と比べると、なんだか、こう、プレハブみたいな建物ね」

 車を降りながら、その建物を評するのはアリだ。

「あぁ、町工場って感じだよな」

 車から降りてオルキヌスが先頭を進む。

「おぉ、星外技術で作られた車のドライバーさんか。いらっしゃい」

「おう、邪魔するぜ」

 出迎えるように初老少し手前くらいのおじいさんが、顔を出す。

「うちは名古屋港に身を置いてはいるが、現代人でね、星外技術の車の整備は……」

「そうなのか? なんか独自に開発した技術を持ってるって聞いたぜ」

 おじいさんの言葉を遮りオルキヌスが言葉を続ける。

「おや、誰からか聞いてきたのか。そう、私はね……」

 ここからおじいさんの自分語りが始まった。

 簡単に言うとかつて車工場を営んでいた彼は、『スペースコロニーワールド』からの侵食が始まって、彼らの車を目にして思ったらしい、あれに触れてみたい、と。

 そこで彼らの本拠地たる名古屋港に居を移してみたものの、彼らはなかなかよそ者には技術を教えてくれなかった。

 それでも地道に努力を続け、彼は『スペースコロニーワールド』の車と飛行機を折衷したような技術を独自に開発したのだと言う。

「勿論、きちんと動く保証などない。それでも、欲しいかい?」

 おじいさんの問いかけにオルキヌスが当然、と答えると、視界の右上に「空飛ぶ車」のクエスト表示が出現する。

「なら、まずは必要なジェネレータを見つけてきて欲しい。宇宙戦艦に使われているジェネレータだ。最近、群馬県にある高天原山に宇宙戦艦が墜落したと聞く、そこからなら回収出来るかもしれない。行ってきてもらえるかな?」

 オルキヌスが任せな、と答えると同時、クエストが更新され、クエスト目標が「高天原山の墜落した宇宙戦艦の攻略」へと変化する。


 こうして一行は二時間程度かけて高天原山へ向かった。

 馬県多野郡上野村の高天原山。群馬県と長野県の県境にある山である。

 日本神話における神の国たる高天原の名前を冠しているだけはあり、山全体が『ファンタジックアース』に侵食されていて、神々しい見た目の敵が数多く出てくる。

 つまり、ダンジョンに辿り着くまでの登山がまず一苦労である。

 そんな山の尾根の途中に、その宇宙戦艦は墜落していた。

「やっと辿り着いたわね」

「あぁ、疲れたぜ」

 アリの言葉に、ジンがマジックポイントMPを回復する回復薬ポーションを飲みながら頷く。

「だが本番はここからだぜ」

 とオルキヌス。

 その視線の先にあるのは露骨に開かれた宇宙戦艦の入り口。

 なにやら青い光の破線が敷かれている。

「あの青い線は?」

「あれはインスタンスエリアへの入り口を示すマークね」

 ジンの疑問にアリが答える。

「インスタンスエリア?」

 アリが簡単にインスタンスエリアについて説明する。インスタンスエリアとはクエストごとに用意される独立した空間の事である。例えばこのダンジョンに2組のパーティーが同時に挑んだ場合も、この入り口をくぐった時点で、それぞれ同じ構造の別々のダンジョンに入ることになる。

「つまり、これから挑むダンジョンには俺達『JOAR』だけで攻略しなきゃならなくて、他のパーティの乱入は起きないし、期待しちゃいけないってことか」

「簡単に言えばそう言うこと」

 ジンの理解にアリが頷く。

「なるほど、ありがとう、アリ。じゃあ行くか」

 オルキヌスとリベレントを先頭に一行が宇宙戦艦の入り口へと進んでいく。


 青い破線を通り抜けると、一瞬視界が真っ暗になったのち、すぐに視界いっぱいに宇宙戦艦の内部が出現する。

「廊下か、結構広いな、側面から敵が飛び出してきたりするのに警戒しつつ進もう」

 そうジンが警告しつつ、オルキヌスとリベレントに前へ進むように促す。

 直後、左右の小さな隙間から神々しい見た目のモンスターが飛び出してくる。

「外にいた連中が入り込んでるのか!」

「『スペースコロニーワールド』的な景観に『ファンタジックアース』の敵がいるのは少し新鮮ね」

 リベレントの《ウォークライ》が注目を集めた瞬間、ジンとアリの魔法魔術が発動し、一斉に敵を攻撃する。

 さらにオルキヌスのWS《スライドクリーヴ》が二人の魔法魔術で動きを止めた連中を一閃する。

 それがトドメとなり、敵が消滅していく。

「外ほど無尽蔵じゃないぞ。やれる!」

「あぁ、この調子で進もう」

 オルキヌスがそう言うと、ジンも頷き、タンク二人が再び前へと進み始める。

 そこから先は順調に進む。

 何せ道は一本道で敵も基本的に一方向にしか現れないため、十分にレベルの高いタンク二人の前には障害にならない。


 そこから道を進むと、今度はこの宇宙戦艦の警備マシーンらしき敵が飛び出すようになってくる。

「ビービー! 侵入者の侵入を検知! 排除せよ! 排除せよ!」

「お、『スペースコロニーワールド』らしくなってきたじゃねぇか!」

「見たところ、火器を装備しているぞ、気をつけろ」

「相手になるかよ!」

 ところが、ここで予想外のことが起きた。

 警備マシーンの射撃が天井を破壊し、突出したタンク二名とその後方にいた二人を分断するように瓦礫の壁を作り出してしまったのだ。

「なっ!」

 慌ててジンが破壊された瓦礫の壁に近寄る。

「マキシーメ・エト・マキシーメ・マンニョム・イグニス・スパエラ・シェリング・スルクールズ・シコッティルデ・ソリッズ!」

 ジンの魔法による生じた巨大な炎の球体が瓦礫に衝突するが、瓦礫には傷一つつく様子はない。

「破壊不能オブジェクトね。こう言うイベントと割り切るしかないわ。前衛と後衛を分断するなんて随分趣味の悪いイベントだけど」

「けど、ここからどうするんだ?」

 アリの冷静な分析に、ジンが問いかける。

「少し手前に分かれ道があったでしょう? さっきはゲートが閉じてたけど、もしかしたら今は空いてるかもしれないわ、見に行きましょう」

「分かった」

 まだ充分にゲーム慣れしているとは言い難いジンに代わり、アリがテキパキと状況判断を下す。

 ジンはそれに助けられつつ、慌てないように、と自省しながら、来た道を戻っていく。

 オルキヌスとリベレントがいない今、前衛を務められるのは曲がりなりにも魔法〝剣士〟である自分だけだ、とジンが先頭を務めながら。


 果たして、アリの推測通り、そのゲートは何かによって破壊されていて、先に進めるようになっていた。傾斜の緩やかな下り道だ。

「何がこのゲートを壊したんだ? 嫌な予感がするな、どうする?」

「どうするもなにも、タンク二人は戻ってこられないようになっている可能性が高いから、進むしかないでしょう」

 この辺りの判断はゲーム勘に優れたアリに従った方が良さそうだ、と判断し、ジンは行こう、と声をかける。


 なんとか防御バフをガン積みしたジンが前衛、アリが後衛を務める事で、雑魚敵を倒していく二人。

「まずいな、そろそろMPポーションが切れそうだ」

 だが、限界は近い。魔法と魔術でなんとか継戦出来ている二人なので、MP切れはそのまま敗北を意味する可能性が高い。

「無理にポーションで行軍するのは限界だわ。ちょっと休憩にしましょう。MPは自然回復が出来るでしょ」

 ジンは画面右上に見える現実世界の時計を一瞬睨んでから、まだ余裕はある、と判断し、アリに従う。


「そういえば、アリはなんで有名になりたいんだ?」

 宇宙戦艦の廊下に腰を下ろし、ふと思った疑問をジンが口にする。

「そうね、シンプルに有名なのは気分がいいから、というのもあるけど……」

 アリは一瞬、逡巡し、そして口を開く。

「まぁ、あんたにならいいか。うちの両親共働きでなかなか家にいないのよ。だから、『キャメロット』とかみたいにスポンサーがついたりしたら、両親の助けになれるかな、って」

「そっか。アリは親想いなんだな」

「あくまでメインは自分が有名になりたいからだから」

 ジンの言葉にアリは照れたようにそっぽを向く。

 ジンはその様子にふっと笑ってから、MPゲージを見た。

 二人の時間はしばらく続きそうだった。


 それからしばらくして、二人の移動は再開され、おそらく二人のために用意されたであろう難関と出会った。

「あのゲートを破壊したのはこいつか」

 それは白い光に覆われた虎。【ByaKko Child】という名前を冠したそれは、広々としたホールで二人を待ち受けていた。

「トニートル・アダレレ・グラディウス」

 《魔法剣・雷》で《ライトニングソード》を強化し、そのまま《ライトニングピアッシング》で一気に攻撃を仕掛ける。自身にヘイトを惹きつけるのが狙いだ。

 その背後から、アリが魔弾を放ち、子白虎を攻撃する。

「ルックス・ムーラス・クストーディオ」

 子白虎の鋭い反撃を、ジンはなんとか光の壁で受け止める。

 だが、その鋭い一撃は、あっさりと光の障壁を破壊し、ジンに迫る。

「ぐっ」

 強烈な一撃がジンのHPを一気に削る。

(明らかに後衛だけで相手にさせるには強すぎる……どこかに何か手があるはず……)

 ジンのHPを魔術で回復しつつアリは周囲を見渡す。

「ジン! 上よ!」

 そして気付いた。

「マキシーメ・エト・マキシーメ・マンニョム・イグニス・スパエラ・シェリング・スルクールズ・シコッティルデ・ソリッズ!」

 視線を上に向け、ジンもその意図を理解する。

 発動した火球は子白虎に向かわず、天井の飛び出したガラスを砕いた。その向こうにいたのは。

「おら、《カラミティストライク》!」

「遅いから心配しちゃったよ」

 オルキヌスとリベレントだ。

 いつもの四人が揃った今、子白虎など敵ではない。

 あっという間に、一行は子白虎を撃破することに成功した。

「よし、行こうぜ。マーカー的に目的地はすぐ先のはずだ」

 そうオルキヌスが促す。


 そして、その広場にそれはいた。

 青色に輝く盾と大剣を構え、肩に多連装のミサイルランチャーを装備した5mサイズのロボット。

「今度こそこいつが大ボスってわけか」

 一同が武器を構える。目的を果たすため、ボス戦の始まりだ。

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