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第12章「日常〜リーダー決定記念パーティ」

「せっかくリーダーが決まったんだし、お祝いをしましょう」

 放課後なんとはなしに帰り道の駅までの道で一緒になるJOARの高校二年生組三人。そこで、有子が提案する。

「ちょうど今、うちは両親出張中なのよね、うちでやりましょう。今、お姉ちゃんに通話繋ぐわね」

 そう言って、有子が流れるように恭子に通話を繋ぐと、並んで歩く三人にあわせて恭子の姿がAR表示される。

「うん、今日は講義が午前中だけだったから、先に家で準備しておくね」

 事情を聞いた恭子が頷く。

「ちょ、ちょっと待て。両親のいない女の子の家なんて、危険だろ、うちは専業主婦で親もいるからうちでやった方がいい」

 思わぬ方向に話が進みそうなのを見て、慌てて仁が止めに入る。

「何言ってるのよ。親なんていたらのんびり羽を伸ばせないじゃない」

「そうだぜ、仁。せっかくのお祝いに親とか部外者が割り込んでくるなんて台無しだぜ」

 だが、有子とそして重明がその意見に反発する。

 仁は、重明まで……、と思うが、そういえば重明は親とあまり折り合いがよくなく、高校進学にあたって一人暮らしを始めたんだった、と思い出す。

「まだ短い付き合いだけど、私、あんた達が家にあげたからって変なことするやつだなんて思ってないわよ」

 勝った相手にわざわざ頭下げるくらいなんだから、と続ける有子。

「いや、だが……」

「さぁ、どうするの、リーダーさん。早速パーティ内の意見が割れてるよ」

 困惑する仁に恭子が声をかけてくる。

 その視線が告げている。あなたがリーダーでしょ、あなたがちゃんと決めるんだよ、と。

「そうね、仁がリーダー。あんたがどうしても反対だって言うなら辞めるわ。どうするの?」

 恭子の言葉に有子が仁の方を見つめながら頷く。重明もまた仁へと視線を向ける。

「……」


 見波姉妹の言葉を受けて、仁は黙り込み、悩む。

 ここで自分は反対だ、だから辞めよう、と言ってしまうのは簡単だ。有子も恭子も重明も、自分がリーダーだと認めてくれたし、辞めろと言うなら辞めると言っている。おそらく本当にそうなるだろう。

 自分はリーダーでみんながそれに従う、ならば、高圧的に意見を押し付けても問題はないのだろう。

 だが、それは正しいリーダー像なんだろうか、と仁は思った。

 自分がなりたいリーダーとはどんなリーダーだろうか、と考えた時、思うのは自分はそもそも自分は100%祝福されたリーダーではない、ということだった。

 有子と恭子は自分を推してくれたが、それは自分がデュエルで負けて仲間になった側だと言う意思があったからだ。有子の性格ならきっとリーダーをしたがったはずだ。

 重明に関しては言うに及ばずだろう。彼は最初リーダーをしたくて自分にデュエルを挑んできた。なんとかデュエルに勝ったから、今でこそリーダーと認めてくれているが、デュエルの中で言っていた重明の不満は本当だろう。デュエルで勝った程度でそういった完全に不満が解消されているとは思えない。

 そう考えると、自分には高圧的に意見を押し付ける権利などないように思える。

 自分がなるべきは、全員の意思を尊重出来るリーダーであるべきだろう。

 そこまで考えたことで、仁がどうするべきか分かった。

 今回の件では自分以外の三人が賛同しているのだ。それを自分一人の意見でぶち壊すのは全員の意見を尊重するリーダーとして望ましい行動ではないだろう。


「分かった。お祝いは有子と恭子の家でやろう。じゃあ俺達はこのまま買い出しか?」

 仁がそう言うと、ふっと場の空気が和らぐのを感じた。

 そう感じたと言うことはそれまで場の空気が少し緊張していたと言うことで、仁は少し申し訳ない気持ちになった。

「よっし! 行こうぜ、買い出し!」

「待って、こっちで買い物してから電車に乗ってたら大変よ。私達の家の近くにスーパーがあるからそこで買い物しましょ」

 重明がやる気を示すのを、有子が止める。

 おぉ、確かに。じゃあそうするか、と重明が頷き、駅へ向かって歩き始める。


 そうして電車で有子以外にとっては初めて降りる駅で三人は電車を降りる。

「スーパーはこっちよ」

 有子の案内でスーパーに向かう。

「アニオン系列か、さすが日本のスーパー最大手。どこにでもあるな」

 と仁が感心したように呟く。アニオンは日本のスーパーマーケットの最大手メガコープだ。

 じゃあ冷凍食品を適当に買い漁るか、と重明は冷凍食品のコーナーに向かおうとする。

「あ、待って。多分、お姉ちゃんは料理作りたがると思う。今、通話繋ぐわね」

 そこで、有子が電車に乗る時に通話を切っていた恭子との通話を繋ぐ。

「もしもーし、そっちはそろそろスーパーについたところかな? 私は今、部屋を掃除してるところだよ」

 そう言って恭子のAR表示が出現する。

「お姉ちゃん、食事はお姉ちゃんが作るわよね?」

「え? うん。出来ればそのつもりだったよ」

「おぉ、恭子さんの手料理ですか!」

 恭子の回答に重明が盛り上がる。

「重明君は何に食べたい?」

「うーん、やっぱりお祝いといえば、鶏肉ですかねぇ」

「じゃあ鶏もも肉のローストにでもしようかな」

「分かりました。じゃあ鶏もも肉買いますね。あとは……」

 重明が素早く手元で指をスワイプさせる。

「じゃがいもににんにく、ローリエにローズマリー、パセリに白ワインくらいでしょうか? オリーブオイルやサラダ油はありますか?」

 すると恭子はにんにく、白ワイン、パセリ、オリーブオイル、サラダ油はあるから、それ以外を、返事をする。

「分かりました」

 重明は慣れた様子でスーパーを進んでいく。

 あまりに慣れた様子に、仁は重明にここ来たことあったのか? と尋ねる。

「いや、初めてだ。けど、アニオン系列のスーパーなんてだいたい構造は同じだからな」

 有子ではなく重明が先導する様子にやや困惑しつつ仁が尋ねると、重明が自信満々に答える。

 一方の有子は、それは助かった。自分はお菓子コーナーとアイスコーナーくらいしか知らないから、なんて言う。

「さっきの食材もすらすら出てきたよね、重明君、料理出来るの?」

 片付けをしながら通話を繋いだままにしている恭子が重明に問いかける。

「いや、食材はあの場で調べただけっすけどね。一応一人暮らししてるんで、食べたいものがある時とかは自炊する時もあるんで」

 恭子の問いかけに少し照れたように重明が答える。

「骨付きもも肉も売ってるけど、骨なしの方が安いな。恭子さん、骨なしでもいいですか?」

 恭子のAR表示が頷く。

「じゃ、骨なしで。安いから多めに買っておこう。俺、唐揚げ作りましょうか?」

「重明君、揚げ物出来るんだ? じゃあ任せちゃおっかな」

「任せてくださいよ」

 重明の意外な側面に驚く料理ができない有子と仁であった。

「あ、揚げ物するならついでにフライドポテトも食べたいな。シューストリングポテトも買っていいか?」

「いいわね、フライドポテト。買いましょ、いいわよね、リーダー」

 重明の言葉に有子が頷く。その様子に仁は「俺は構わないよ」と頷くしかできない。

「あとはサラダ系も何か欲しいかな」

「なら、俺、サラダパスタでも作りますよ。パスタとマヨネーズ、醤油、それに牛乳はありますか?」

 恭子の提案に重明が答える。

「うん、あるよ。じゃあお願い出来る?」

 恭子の言葉に重明は任せてくださいよ、と答え、重明主導で買い出しは続いていく。

「こんなところかな」

 と重明が買い出しを終え、会計に向かうところで。

「待て、飲み物はどうする? 乾杯とかするだろ」

「お、リーダーいいこと言うじゃねーか! コーラをでかいの買ってくか」

「待って、お姉ちゃんは炭酸飲めないから、小さい紅茶も買っていきましょ」

 こうして三人は購入物をまとめて、カゴに入れ、有子がそれを預かって、無人レジを通過する。

 無人レジは今や駅の改札のような形をしており、中を通過するだけで《オーギュメントグラス》のウォレットから支払われる仕組みだ。


「じゃ、うちに行きましょ」

 買い出しが終わり、スーパーを出ると、再び有子が道を先導し始める。

 しばらく歩くとマンションが見えてきて、有子が空中で指を走らせ、自動ドアを開ける。

「今日一日あんた達をゲスト登録しておいたから、あんた達の眼鏡オーギュメントグラスでも開くはずよ」

 そう言いながら有子が自動ドアをくぐり、二人もそれに続く。

 エレベータに乗って五階に移動し、有子に促されるまま、扉をくぐる。

「あ、おかえりー、そして、いらっしゃい」

 エプロンを身につけた恭子が三人を出迎える。

「今ちょうどバットに下味をつけるための準備をしていたところなの。香草と鶏肉をちょうだい」

「はい」

 恭子に促され、重明が袋からローズマリ、ローリエ、鶏もも肉を差し出す。

「ありがとう。重明君も手伝ってくれるんだよね?」

「はい、よろしくお願いします」

「じゃあついてきて」

 恭子が背中を向けて歩き出し、重明がそれに続く。

「俺達も手伝うよ」

 それに仁も続くが。

「仁君は料理出来るの?」

「いや、母親に任せっきりだけど」

「なら、料理は二人いればいいから、仁君は有子ちゃんと一緒にダイニングの飾り付けでもしておいてよ」

 飾り付けに使えそうなものは出しておいたから、と恭子。


「重明君は揚げ焼きにする派なんだ」

「そうっすね。たっぷり油使うとちょっと勿体無い気がして……」

「あ、そうだ。私、鶏肉に下味つけている間、時間あるから、サラダ用の野菜切っておくよ」

「あ、ありがとうございます」

 料理出来ない組の二人が部屋の飾り付けをしているとキッチンから楽しげな料理組二人の会話が聞こえてくる。

「重明が料理出来るとは以外だったな。てっきりプリントフードで満足してるクチかと」

 近年はフードプリンタのラインナップも充実しており、一人暮らしと言えば専らフードプリンタ製の食事と言う人間も珍しくない。

 重明がフードプリンタ製の食事やコンビニ飯ではなく、自炊していると言う事実は、仁にとっては少し意外であった。

「今時は家族でもプリントフードで満足してるって人も多いし、お姉ちゃんや重明みたいなタイプは今後どんどん減っていくでしょうね」

 そう言われてキッチンに視線をやった有子の視線を追いかけると、そこには家族層向けの大型フードプリンタが置かれていた。どうやら見波家もフードプリンタで満足しているクチらしく、見波家の中でも恭子は珍しい方のようだ。

 いつも母親が料理を作ってくれる自分の家は恵まれている方なのかもしれない、と仁は思った。


 やがて食事が運ばれてくる。

 鶏もも肉のロースト、鶏の唐揚げ、サラダパスタ、フライドポテト、それにいつに間に用意していたのかポップコーンもある。

 最後の料理を持ってきた重明が嬉しそうにお祝いの開始を宣言すると、誰からともなく「いえー」と叫び声が上がる。

「じゃあ、ジンのリーダー就任を祝って、乾杯!!」

 重明が全員にコーラと紅茶を透明なグラスに注ぎ、乾杯の音頭を取る。

「ちょっと、音頭はリーダーの仕事でしょ」

「いや、いいよ、自分の祝いを自分で音頭取るのも変だし」

 有子が重明の音頭にケチをつけるが、仁がフォローする。

 若干ぐだぐだした開始となったが、お祝いが始まる。

 早速有子が鶏もも肉のローストにかぶりつき、その味を賞賛する。

 ナイフとフォークで頂こうとしていた仁は、え、直接かぶりついた? と驚く。

 見れば重明もローストにかぶりついている。

「あ、重明君の作ったサラダパスタ美味しいね。後でレシピ送ってよ」

 恭子はサラダパスタを味わっており、重明に賞賛を贈る。

「いいっすよ。ってか今送りますよ」

 重明が素早く指を空中にスワイプさせ、恭子にデータを送信する。

 恭子は空中に指をスワイプさせ、それを受け取った内容をメモアプリに転送しつつ、お礼を言う。

「へぇ、確かにこの唐揚げも美味しいじゃない」

 その言葉を受けて有子も唐揚げを口に運んで、感心したように頷く。

「口にあってよかったぜ」

 嬉しそうに重明が返事する。


 四人は終電の時間まで食べ、飲み、そして『VRO』の話題に花を咲かせ、一日を楽しんだのであった。

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