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第11章「デュエル〜オルキヌス」

 お台場のプレイヤーメイドの喫茶店でデュエル開始ボタンを押すと同時、二人はプレイヤーメイドの喫茶店の外に自動転送された。

【DUEL -  Jin VS Orcinus -】

 周囲の一定範囲に障害物がない広場でないとデュエルは開始出来ず、それ以外の場所で開始しようとすると、自動的に近くの条件を満たす場所に飛ばされる仕様になっているのである。

 カウントダウンが進み、そして終わる。

【DUEL Start】

「さぁ、やるぜ、ジン。本気で行くから一撃でやられるなよ! 《カラミティストライク》!」

 跳躍からの大上段の斬り下ろしがジンに迫る。

 ジンは強力だが隙の大きいその一撃を後方に飛び下がって回避する。

 それでも鋭いフォトンラージソードの一撃は鋭い風圧を呼び、その鋭い風はジンにまで届く。

 当然、ダメージはないが、その鋭い風はもしぶつかれば自分の命はないと感じさせるだけの凄みがある。

「ルックス・サジッタ・スルクールズ」

 ジンはオルキヌスがWS使用後の硬直時間に陥っている隙を逃さず、後方に距離をとりつつ、魔法を詠唱し、《マジックミサイル》で攻撃する。

「はん、レベルの低いそんな攻撃じゃ、俺の《バトルヒーリング》の回復量は上回れないぜ!」

 そう、オルキヌスには一秒ごとに一定量のHPを回復する自動発動パッシブスキルである《バトルヒーリング》スキルを習得している。

 故に、まだまだレベルの低いジンのしかも《マジックミサイル》では、オルキヌスのHPを削るには当たらない。

「くそ、ただでさえ防御力もヒットポイントも高いってのに」

 視界左上に表示されているオルキヌスのHPゲージがたちまち最大まで回復するのをみて、思わず愚痴るジン。

 オルキヌスはジンが『VRO』に参加してくるまでずっとソロで戦ってきたプレイヤーだ。

 攻撃力はアタッカー並みに育っている上に、防御力も一人で戦うのに遜色ないレベルに育っている。

 防御力に関しては、アリとリベレントとに合流するより前の一週間、オルキヌスが一人でタンクを務められていた事からも分かるだろう。

 ジンの首元を横薙ぎのWS《スライドクリーヴ》によるフォトンラージソードが掠めていく。

 僅かに皮膚に触れたようで、ジンのHPゲージが減少する。

「掠っただけでこんなに減るのか!?」

 もっと距離を取らないとまずい、とジンは後方に飛び下がりつつ、魔法を詠唱していく。焼石に水だと分かっていても、無抵抗ではいられない。

 これには理由があり、デュエルのルールに起因する。

 一方が逃げ続ける試合にならないよう、あるいは明らかに一方が嬲られつつ蹴る試合にならないよう、一方が一方に一定時間攻撃が加わっていない場合、その時点のHPに減り具合で判定され、決着がついてしまうのだ。

「どうした、ジン! 自慢のレア武器は使わないのか?」

 オルキヌスが挑発してくる。

 冗談を言え、とジンは思う。もしここで近接攻撃を仕掛ければ、その隙を逃さず、オルキヌスはWSで大ダメージを狙ってくるだろう。

 見え見えのWSならオルキヌスは《ラージセイバーガード》スキルで防げてしまうし、残念ながら人の持つ《ライトニングソード》のWSはどちらも比較的シンプルな軌道を取るWSであり、簡単に受け止められてしまう可能性が高い。

(いや、待てよ。WSで攻撃してくる、だって?)

 今、オルキヌスが使ったWSは《スライドクリーヴ》。

 なら、次に使うのはきっと《カラミティストライク》のはずだ。

 ならば、とジンは閃いた。

「なら望みに従ってやってやるよ!」

 ジンは、柄を拗らずに、WS《ライトニングピアッシング》の構えを取り、そのまま地面を蹴って、一気にオルキヌスへと肉薄する。

 単純なオルキヌスはこれを《ライトニングピアッシング》と思い込み、《ラージセイバーガード》で受け止める。

「はっ、残念だったなぁ! だいたい、俺は『JOAR』って名前からして気に入ってなかったんだよ」

  WS《カラミティストライク》が起動する。オルキヌスが飛び上がり、フォトンラージソードを掲げる。

「ちゃっかり自分の名前を先頭にしやがって!」

(今だ!)

 ジンは右手に持つ《ライトニングソード》を左手で短くタップする。

 直後、《ライトニングソード》が光に包まれ右腕の中に収束し、《ショートソード》へと形を変える。

「それは、《タップエクスチェンジ》!?」

 空中でその動作に驚愕するオルキヌス。

 前にアリにお勧めされたスキルを、ジンはオルキヌスの知らない間に習得していた。

 発動するWSは《リポスト》。

 ジンはWSに由来する超反応で、落下してくるオルキヌスのフォトンラージソードを回避し、その一撃を見舞う。

「そうだったか。咄嗟に考えた名前だったけど、それは悪かったな!」

 そのままジンはもう一度、《タップエクスチェンジ》で武器を持ち替え、《ライトニングピアッシング》でオルキヌスを攻撃する。

 《ライトニングピアッシング》からの連続攻撃が、一気にオルキヌスのHPを削る。

「まだだぁ!」

 オルキヌスが WSではないシンプルな大振りの攻撃で、ジンに攻撃を仕掛ける。

 ジンはそれを受けて、一気に後方に飛び退く。

 そのままオルキヌスもまた後方に飛び込む。

「!」

「どうした、ジン。攻めてこないのか? じゃないとこっちが回復しちまうぜ?」

 オルキヌスはそう言って挑発する。

(しまった、そう来たか)

 そう、オルキヌスには《バトルヒーリング》スキルがある。

  彼我のHP残量の割合では依然、ジンの側が不利。

 つまり、このまま攻めなければジンが負けるのが決まってしまう。

(だったら……)

「ファイア・スプレッド……」

 ジンが詠唱を始める。

(長時間詠唱で決めるつもりか? だったら……!)

 魔法は途中で中断出来ない。厳密には出来るが、中断すればファンブルし、魔法が自身に跳ね返ってしまう。

 つまり、今こそ攻撃の好機。オルキヌスは一気に突進する。

 だが、駆け出すと同時、ジンがニヤリと笑う。

 ジンの詠唱が留まり、《ライトニングソード》の柄が捻られる。

 地面を蹴ったジンの鋭い電撃を纏った突きが、オルキヌスへと突き刺さる。

「おまっ、なんで、詠唱キャンセル出来て……」

 《ライトニングピアッシング》は筋力と魔力の他、その時の加速力も威力に乗る。ジン自身の速力は勿論のこと、オルキヌスも自身の全力の速力を発揮しており、その威力は大幅に上がっていた。

 そこからさらに連続攻撃が放たれる。

「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 オルキヌスのHPゲージが大幅に減少していく。

「まだだ! 《カラミティストライク》!」

 頭に血が上ったオルキヌスは咄嗟に最も威力の高い WSを発動する。

「そっちを選んでくれて助かったよ」

 ジンは冷静に《タップエクスチェンジ》からのWS《リポスト》を発動。

 実はオルキヌスは威力が高いWSを選ぶ必要はなかった。彼の攻撃力なら、《スライドクリーヴ》でも十分にジンのHPを削り切れたのだ。

 そして、そちらの場合、「側面に避ける」効果を持つ《リポスト》では避けられなかった。

 オルキヌスの無防備な背中に《ショートソード》の一撃が振り下ろされる。

「くそう!!」

 それがデュエル中、オルキヌスが発した最後の言葉となったのだった。

【DUEL Finished】

【Winner : Jin】

「約束だからな、これで俺がリーダーだ」

 尻餅をつくような形で座り込んだオルキヌスにジンが告げる。

「なぁ、一つ教えてくれよ。なんでお前、詠唱をキャンセル出来たんだ……?」

 そんなテクニックは聞いたことない、とオルキヌスが言う。

「あぁ? あんなのそんな大したテクニックじゃないぞ。単に出鱈目な英単語を並べて詠唱したふりをしただけだ。お前がもし魔法に詳しければ騙されなかったよ。けど、お前は知らないだろうと思ってな」

「そこまで考えてたってのか……。分かった。俺の負けだよ」

 オルキヌスが降参だ、とばかりに両手を上げる。

「お疲れ様、ジン。ナイスファイトよ」

 アリが近づいてきて、ジンを讃える。

「うん、これで正式にジンがリーダーだね。おめでとう」

 リベレントもまた、ジンを讃える。

「あぁ、オルキヌス、アリ、リベレント……。これから、よろしく頼む」

「おう、こうなったらお前に従うよ、下手な指示するんじゃねぇぞ」

「えぇ、まともな指示を頼むわよ。よろしく、リーダー」

「うん、よろしくね、リーダー」

 こうして、ジンは『JOAR』のリーダーとなったのであった。

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