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第7章「レイド〜お台場ボスバトル 上」

 東京都特別区お台場。

 東京港埋立第13号の北部に位置する商業地であり、かつて江戸時代にペリー艦隊の来航に脅威を感じた幕府によって建造された洋上砲台として作られた経緯を持つ。

 今、ジン達『JOAR』がいるこの『VRO』においても、最初に『スペースコロニーワールド』の侵食を受け、メガコープ連合軍による迎撃部隊が展開された地域と言う設定を持ち、東京港埋立第13号南部は完全に『スペースコロニーワールド』の領域で、空には宇宙戦艦が浮かんでいるのが、お台場からでもよく見え、周囲にはその宇宙戦艦の艦砲射撃で出来た小規模なクレーターと現代式の砲台の残骸が見て取れる。

 そんなクレーターが出来つつも出来たお台場海浜公園にジン達『JOAR』はいた。

 理由は単純、レイドに参加するためだ。

 レイドは突発的に発生する超高難易度クエストであるが、レイドエリアが形成されてから、実際にレイドが始まるまでには6時間程度の余裕がある。

 これは設定上、異世界からの侵食が一瞬では完了せず、レイドの対象となる何かが出現するまでにそれだけの時間がかかる、と言う設定だが、現実的には本当に突然レイドを開始しても参加できるプレイヤーの数には限界があるからだろう。

 そんなわけで、ジン達『JOAR』のメンバーも6時間前にマイクロポストSNSにここでレイドエリアが発生したとの情報を得て、オルキヌスの車でここまでやってきた。

【このクエストに参加してHPが0になったキャラクターはデータが初期状態へとリセットされます】

 レイドエリアに入ると、そんな警告が出る。

「みんな、覚悟はいいわね?」

 アリが三人に声をかけると、三人は一斉に頷き、【Yes】のボタンをタップする。

【15秒前】

「ふぅ、なんとか間に合ったな」

 ずっと運転していたオルキヌスが肩を回しながら言う。

「あぁ、島根から東京まで強行軍だったからな」

 その言葉にジンが頷く。

【10秒前】

 そう、彼らは以前にイザナミを倒すために島根県に行ってそのままだったのだ。

 『VRO』は現実世界を舞台とした作品だが、流石にまるっきり現実と同じではなく、概ね半分以下の大きさにデフォルメされている。

【5】

 そのうちもっと移動を便利にする方法を考えた方が良さそうだな、と思いつつ、ジンは《ライトニングソード》を抜剣する。

【4】

「そう言えば、『キャメロット』の連中はいないのね、イリギスリージョンに帰ったのかしら?」

 アリが右腕に魔法陣を展開しつつ、周囲に参加するパーティを見渡しながら呟く。

【3】

「そんなことよりよう、クエストターゲットはどこだ?」

 オルキヌスが背中のフォトンラージソードを構え、青白い刃を出現させる。

【2】

「そう言えば見当たらないね……」

 リベレントも首を傾げながら、大楯を出現させる。

【1】

(周囲のクレーターが消えた以外に変化がないあたり、これは『ファンタジックアース』の侵食だが……。防衛系、侵攻系のレイドなら既にどこかにターゲットが出現してなければおかしい。ということは……、対人系のレイドかあるいは……)

 ジンが思考を巡らせる。

【RAID – BossBattle – Start】

「ボスバトルだ! 敵は地中か海中にいる、リベレント、警戒を!」

「うん!」

 ジンが叫んだ直後、蛇のような細長いシルエットの何かが海中から飛び出してくる。青い鱗に覆われ鮮やかな青色を纏うそれは、【KaiRyu】と言う表示と四本のHPゲージを持つ。

 そのまま、地上に向けて口から超収束超高速の水を吐きだした。

「みんな、私の後ろに!」

 薙ぎ払われるように放たれたその水圧カッターの如き攻撃をリベレントは受け止める。

 反応が遅れた——タンクの反応が遅れていたり、タンクは間に合ったのにそれにパーティメンバーが反応するのが遅れていたり、その場合は様々だ——パーティが派手に吹き飛ばされる中、『 JOAR 』はジンの警告の甲斐もあり、全員が水圧カッター攻撃の影響を逃れることに成功した。

「このまま突っ込みましょう!」

「おう!」

 アリの言葉に、オルキヌスが頷き、オルキヌス、リベレント、ジン、アリの順番に一気に敵に向けて突進する。

「トニートル・サジッタ・スルクールズ!」

主は天から雷をとどろかせたYahweh thundered from heaven.

 ジンとアリが同時に雷属性の魔術を発動し、青紫の稲光が走り、海龍にダメージを与える。

「よし、怯んだな!」

 そこを一気にオルキヌスが突っ込み、大きく飛び上がり、そのまま大上段に海龍を切り下ろす。WS《カラミティストライク》だ。

 大きなダメージを受け、ヘイトが動いたのだろう。海龍がオルキヌスに向き、一気に水圧カッター攻撃を敢行してくる。

 素早くリベレントがその間に割り込み、大楯でその水圧カッターを防御する。

 恐ろしい水圧カッターの勢いに、リベレントの足が滑り、後退する。

 そこにアリが近寄り、右腕をリベレントの背中に当てて、防御力上昇のバフを展開する。

「トニートル・アダレレ・グラディウス!」

 そして、海龍がリベレントにかかりきりになっている隙に、ジンはWS《ライトニングピアッシング》を発動、一気に地面を蹴って、海龍に肉薄、その体を突き刺す。

 当然、そのままで終わらず、ジンはそこからさらに、連続攻撃を叩き込んでいく。

 雷の魔法剣によってさらに雷属性の力が高められた《ライトニングソード》は確実に海龍のHPゲージを削っていく。

 周囲のプレイヤーも必死で攻撃を敢行しており、既にHPゲージのうち一本が削れていた。

 海龍が激しく怒り、空に向けて水圧カッターを放つ。

 すると、激しい水の雨が降り注ぎ始める。

「この雨、HPを削ってくるぞ!」

 オルキヌスが叫ぶ。

「アリちゃん!」

「分かってるわよ!」

 リベレントが名前を呼ぶと、それだけで意図を理解したアリが魔術を発動、パーティーメンバーに継続回復リジェネ効果がかかる。

「この雨が長引くとしたらまずい、一気にいくぞ!」

「えぇ、こいつとあんたの武器は相性抜群、行ってきなさい」

 そう言うと、アリはジンにバフをかける。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 リベレントが《ウォークライ》でヘイトを稼ぎ、海龍の水纏い突進攻撃を真正面から受け止める。

「トニートル・ムーラス・クストーディオ」

 リベレントは雷の壁を展開して防御力を上昇させ、アリからの支援効果も受けるが、それでも完全にノーダメージとはいかず、継続してダメージを受け続け、足が後ろへ下がっていく。

 ジンはその間に、その胴体を輪切りにしてやるという程の勢いで海龍に連続でその雷属性を帯びた斬撃を浴びせていく。

 と、攻撃にかかりきりになりすぎたジンへのヘイトがリベレントのそれを上回ったか、海龍の尻尾が煌めき、ジンに襲いかかる。

「ぐっ」

 串刺しにされ、ジンの体に鋭い鈍い衝撃が走る。『VRO』をはじめとするVRMMOでは痛みという概念はない。わざわざ娯楽の中で苦痛を味わいたくはないからだ。

 とはいえ、全く無痛というのも違和感を呼び、脳に負担をかけるため、強い痛みが発生するはずの場面では、痒みや衝撃が走るようになっている。

「くっそう」

 そのまま、一気に遠方まで放り投げられたジンはアリから遠隔の回復魔術を受けつつ、自分でも回復アイテム《ヴァイタルポーション》を飲みながら、再びWS《ライトニングピアッシング》で敵に突っ込む。

 直後、そこに割り込む影がある。

 他の騎士プレイヤーがその左手で構えた盾で《ライトニングソード》による突きを受け止めたのだ。

「えっ!?」

 WS《パリング》が発動し、ジンが無防備になる。

 躊躇なく、騎士プレイヤーの攻撃が迫る。

「ルックス・ムーラス・クストーディオ」

 リベレントの詠唱が間に合い、騎士プレイヤーの右手の剣は光の壁に守られる。

 そのわずかな隙の間にリベレントが騎士プレイヤーとジンの間に割り込む。

 直後、リベレントがいなくなって無防備となったアリに向けて複数の方向から『スペースコロニーワールド』世界の銃、ブラスターによる赤い熱線が飛来する。

「あぶねぇ!」

 慌てて、オルキヌスがカバーに入る。

「どういうこと!? どうして、味方が攻撃してくるの?」

 あり得ない事態にアリが叫ぶ。それが、突然他のプレイヤーから攻撃を受けた『JOAR』の気持ちの代弁であった。

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