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第6章「日常〜レイド決起集会」

 外食チェーン特化型メガコープ「スカイライク」。日本限定のメガコープではあるが、外食チェーンを10以上展開している中規模程度のメガコープだ。

 そのスカイライク傘下のファミリーレストラン「デレクト」にて、『JOAR』の四人が集まっていた。

「それでは、『JOAR』のレイド参加決起集会を開始します!」

 重明が大きな声で宣言する。

 三人がそれに「おー」と声をあげて、ドリンクバーで取ってきた各々好みのドリンクで乾杯する。

 カランとグラス同士がぶつかり合い、小気味の良い音を立てる。

 重明の声はかなり大きかったが、まだ誰も『JOAR』の名前を知らないため、周りからはやかましい高校生グループ以上の目では見られていない。

 とはいえ。

「おい、重明。声がデカすぎだ。周りからめっちゃ迷惑そうな視線が」

 仁が重明を嗜める。

「いいじゃないか、せっかくのお祝いなんだから」

 やっとレイドに挑めるんだぜ、とテンション高くコーラを飲む重明にはその言葉は届かない。

「やれやれ」

 と言っていると、最初に恭子の注文したサラダメニューが届く。

「あれ、恭子さん、それだけでいいんですか?」

 サラダだけ注文していたのは知っていたものの、思ったよりその量が少なかったことに違和感を覚えた仁が尋ねる。

 恭子はすぐには返事せず、アイスティーをすすって時間を測って、有子がドリンクバーに向かったタイミングでアイスティーを机に置いて。

「うん、こう言う時、だいたい有子ちゃんが調子に乗って注文しすぎて食べきれなくて余らせちゃうから」

 と説明する。

「なるほど」

「あと、私のことは呼び捨てでタメ口でいいよ。『VRO』ではそうしてるでしょ?」

「私のことも有子、でいいわよ」

 そこへコーラを持ってきた有子が戻ってきて、恭子の言葉に同意する。

「分かった。じゃあよろしく、恭子、有子」

「うん、よろしくね」

「ん」

 そこに重明のポテトが届く。

「お、来た来た」

「重明は明らかに安いサイドメニューだけ頼んでるよな。また金欠か? 『VRO』をやりながら他のゲームもしてんのか?」

 重明はゲーマーで昔から小遣いのほとんどをゲームに費やしていた。幼馴染としてその様子をよく知っている仁はそう言って問いかけた。

「いんや、『VRO』始めてからゲーム代は浮き出したんだが、その分、ガジェットに色々金を出しちまってな」

「なるほど、『VRO』のQoLをあげようってわけか」

「キューオー……?」

「あぁ、まぁ、『VRO』での体験をよくしようとしてるってことだな、ってことだよ」

「おぉ、そういうことだ」

 そんなわけで重明は必死にコーラの炭酸で腹を膨らませつつ、サイドメニューのポテトをつまむのだった。

「しっかし、『キャメロット』の奴らすごかったよなー、スポンサーがついてるんだぜ、勝利したらその企業の宣伝をするって条件でさ。しかも、イギリスじゃ『キャメロット』が出演するCMも流れてるらしい」

「へぇ、そりゃすごいな」

「だろー? 俺達も有名になってがっぽりスポンサー料もらったりしたいよなぁ」

 そんな話を重明としていると、何枚かの大皿料理がやってくる。

「俺が注文した分だ。みんなで食べようかと思って注文したんだけど……」

 仁が最初に注文したのだが、その後、有子が「個々で注文してそれぞれ自分で払うべきでしょ」と言って個別注文方式と相なったため、自分一人で食べるには少し多い大皿料理が並ぶこととなった。

 なお、有子の名誉のために補足しておくと、最も高額な注文をしているのは有子であり、割り勘にすると自分が得してしまう、と言う思惑があったらしいことを仁は理解している。

「私はさっき言った事情で遠慮しておくね」

 恭子が遠慮する。

「俺は食うぜ、仁。一緒に食おうぜ」

 そして、サイドメニューで我慢していた重明が嬉しそうに大皿料理をとりわけ用の小皿によそい始める。

「仁が良いって言うのなら、私のやつがまだだし、私もちょっともらおうかな」

「あぁ、俺一人じゃ多すぎるからな、食べられるなら食べてくれ」

 仁は先ほど恭子から聞いた話を思い出して、大丈夫か? と心配に思いながらも、食べてくれると言うなら拒む理由はないので、了承する。

 すると、有子は早速自分の小皿に大皿の料理をとりわけ始めた。

「三人がかりならなんとか食べ切れるかな」

 と呟きつつ、仁も自分の分をとりわけ始める。


「そういえば、有子。魔術は魔法とどう違うんだ?」

 これから共闘する上で知りたくて、と仁が尋ねる。

「あぁ、そういえば、仁はまだ初心者でその辺詳しくないものね」

 有子は口に含んでいたものを飲み込んでから、仁の方に向き直る。

「魔法は発動体装備する必要があるけど、そこは魔術も似たような感じ。右腕にマインドサーキットって言う刻印を埋め込むと、それが魔法における発動体の代わりになるの」

「あぁ、いつも右腕に魔法陣が浮かび上がってるもんな」

「そ、けどそこからが違ってね。マインドサーキットは体の一部だから、自分の体を動かす要領で動かせるの」

「って、『VRO』にはないけど、翼を動かすみたいな?」

 『VRO』のアバターには翼はないが、VRゲームには肩甲骨の先から生えた翼や羽根を自分の意思で動かせるゲームがある。

「そ、結構コツがいるけど、慣れてくると簡単よ。で、四つの魔法陣を特定の方向、特定の速度で回転させると、魔術が発動するの」

「じゃあ詠唱は?」

「あぁ、魔術ごとに呪文コマンドワードが決まっていて、調整時にそれを唱えると、その状態に固定しやすくなるの」

 と言って、いくつかの呪文を披露してくれる。

「なるほど。ってことは、MPさえあれば強い魔術も撃ちたい放題なのか?」

「それがそうもいかなくて、魔術ごとにクールタイムがあるのよ」

「なるほど、そこはWSに近い方式なのか」

「そう言うこと。《スナップ》くらい軽い魔術だと連射効くんだけど、このまえオルキヌスを燃やしてた《イグニッション》はなかなかクールタイムが長くて連射が効かないのよ」

「なるほどなぁ」

 と言っていると、有子の注文した料理が三皿届く。

 ハンバーグ、若鶏ステーキ、ラムステーキと三品。

 お、思ってた以上に重いな、そんな小柄な体に全部入るのか? と仁は思ったが、実際に口に出すと、有子に怒られそうなので口を噤む。


 それぞれが食事に夢中になって、会話が途切れて静かな時間が訪れる。

「ねぇ、聞いた? 『VRO』の新しいパーティの噂」

 そんな中、店にいる他の客、そのうちある一組のグループがそんな話題を切り出した。

「聞いた聞いた。レアアイテム初心者とあの美少女コンビがパーティを組んだって噂でしょ?」

 四人が思わず驚きで固まる。

「でも本当なのかな? まだレイドに出たって話も聞かないし」

「案外、最初のレイドであっさり負けて全員初期化されてたりして」

 残念ながら、まだ断片的でしかないその噂から派生したその会話は、四人にとって愉快なものではなかった。

 けれど、確実に自分達の噂は広まっている、と感じる四人。

「次のレイド、絶対に成功させて、あんな声、見返してやろう」

 仁がそう言うと、三人は一斉に力強く頷いた。


「ふぅ、お腹いっぱい」

 そう言って食べることをやめたのは有子。

 最初に仁が注文した大皿料理も食べ、肉を三種類も食べたものだから、本当に満足そうだ。

「うん、じゃあ残った分は私がもらうね」

 そう言って、食べ残した肉類を恭子が貰い受ける。

 なんだか歪な気もするが、良い姉妹愛と言えば良い姉妹愛だ、と仁は思った。

「じゃあ、今晩はいよいよ」

「あぁ、レイドだ!」

 四人は拳をぶつけ合わせ、今晩、その全力を発揮することを誓ったのだった。

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