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第4章「デュエル〜美少女姉妹コンビ 下」

 日光東照宮、陽明門の前で、そのデュエルは続いていた。

 戦況は圧倒的にアリとリベレントの美少女姉妹コンビが優位。

 ジンは既にHPバーの色が赤に染まっており、次に一撃でも喰らえば撃破されてしまう状態。

 オルキヌスはスキル《バトルヒーリング》とスキル《ラージセイバーガード》のおかげでなんとか耐えているものの、《ラージセイバーガード》がない状態で攻撃を受ければ、やはり撃破されてしまう可能性が高い状態。

 対するアリはノーダメージで、リベレントもほとんどダメージを負っていない状態。

 リベレントの守りを受けながら、アリが絶え間なく威力の高い魔弾を打ち込んでくる。

 ジンはオルキヌスの影に隠れるしか手がなく、オルキヌスもジンが撃破されてしまわないように、《ラージセイバーガード》を発動しつつ防御し続けるしかない状態。

 戦いは一見すると千日手だが、アリの火力の方がオルキヌスの《バトルヒーリング》を上回っており、少しずつオルキヌスが削られている状況。

「ジン、策があるって言うなら早くしろ! このままだとじわじわとすりつぶされるぞ!」

「いや、少し待ってくれ。隙はあるんだ、あとはそれを突く方策さえあれば……」

 ジンが見つけた隙、それは、アリが魔術で攻撃を敢行する直前のことだ。

 アリの射撃はリベレントの上を抜ける間接射撃ではなく、直線的な射撃。

 故に、リベレントはアリが射撃するその一瞬だけは、どうしてもアリを守れない。

「なるほど、そりゃ典型的な隙だな。だが、それも一瞬だけだぞ。どうやってそんな隙を突く?」

 ジンの説明をオルキヌスはアリの魔術を防ぎつつ返答する。

「あぁ、しかも、その一瞬で少なくともアリを落とさないと、反撃でこっちがやられる」

 もし隙を突くのに成功し、アリを攻撃することができたとしても、その隙は一瞬のこと。そこでアリを仕留めきれなかった場合、アリの反撃を受けてしまう可能性が高い。そうなれば当然、負けるのはこちらだ。

「だけど、アタッカーである俺の最大火力ライトニングピアッシングでも、アリを削りきれない可能性がある」

 ジンの《ライトニングソード》は攻撃力だけでなく魔力も威力計算に使われると言う、魔法剣士向きの片手剣だ。

 そのWSである《ライトニングピアッシング》は、一気に敵の元まで突進し、攻撃する技で、速力までもが威力計算に乗る。

 軽装のアリであれば一撃で削れる可能性もなくはないが、それでも、まだレベルが低く能力値が高いとは言えないジンでは不安が残る。

「となると、これしかないか……」

 悩んだ末、ジンは結論を出す。

「なんでもいいから早く言え、このままじゃあと数分後にはこっちの負けだ!」

「あぁ、作戦は……」

 その作戦はオルキヌスを驚かせたが、他に策もないオルキヌスはそれに従った。


「そろそろ向こうは降参かしらね? あの生意気な初心者ニュービーからやってやるわ」

 もちろん、それを庇うなら先に生意気なタンクから倒すけれど、とアリは右腕の魔法陣を回転させる。

「行くわよ!」

 アリの右腕が持ち上がり、リベレントが射線を開ける。

「行くぞ!」

 同時、アリとほぼ同じ意味の声をかけて、ジンが駆け出す。

 ジンはリベレントが退いた方向に向けて回り込むように移動を始める。

「お姉ちゃん、回り込ませないでよ!」

「わかってるよ」

 アリはジンを追いかけて右腕を追いかけていたが、射線上リベレントが入ったことで一度、その動きを止める。

(お姉ちゃんを大きく迂回して私を叩こうってわけ? 浅はかな行動ね、お姉ちゃんが《ハードパリング》したところをこいつで撃ち抜いてやる)

 ニヤリ、と笑ってアリは再びジンに向け右腕の魔法陣を回転させる。

 リベレントが一気にジンに肉薄し、大楯を振りかぶる。

「来た!」

 狙い通りの動き。

 アリとリベレントはジンとオルキヌス以上にアタッカーとタンクという役割ロールに縛られている。

 だから、ジンというアタッカーがアリを狙い始めたら、リベレントというタンクがそれを守りに出るのは極めて自然なこと。

 そこに付け入る隙がある、とジンは考えたのだ。

 だから、ジンはそこで WSを発動する。これまでずっと使わずにいた《ライトニングソード》のもう一つの WSという切り札を。

 《ライトニングソード》が鞭のようにしなり、電撃を纏ったまま、リベレントの大楯に絡みつく。

「があっ!?」

 突然、リベレントの体が痙攣し、その動きを止める。

 これこそ、近接範囲の相手を強制的に麻痺にする《ライトニングソード》のWS《パラライズウィップ》だ。

「お姉ちゃん!?」

「今だな!」

 その隙を逃さず、オルキヌスが一気にアリに迫る。

「そんな、アタッカーがタンクを惹きつけてタンクが攻勢に出てくるなんて!?」 驚愕する。

「けど、タンクの火力では……!」

 自分は落とせないだろう、と。だが、アリは知らない。オルキヌスはそもそもコンビの必要性に応じてタンク役を演じていただけで、そもそもは単独での戦闘を主体としたビルドであり、アタッカーでもあるのだ、と言う事を。

「喰らえ! 《カラミティストライク》!」

 オルキヌスはスキル《チャージ》で、威力を高めた上で、WS《カラミティストライク》を放つ。

 鋭いオルキヌスの一撃がアリに向けて突き刺さる。

「うそ……!?」

 そのままHPがなくなり、アリは消滅した。

「アリちゃん!?」

 慌ててリベレントが大楯を翻してアリに駆けつけようとするが、その動きは、ジンに隙を晒すだけである。

 ジンは駆け出すリベレントの背中にWS《ライトニングピアッシング》を発動。一気に地面を蹴って、リベレントにその剣を突き刺す。

 相手は防御力特化のリベレント、それだけでは勝負は決さない。

「よくもアリちゃんを!」

 リベレントは攻撃をしてきたジンに向き直り、大楯を振るうが、その大ぶりな攻撃は予測がそう難しくはなく、ジンは後方に飛び下がる事で攻撃を回避する。

 しかし、そうすると今度はオルキヌスの側が隙となるわけで、オルキヌスの WS《カラミティストライク》がその背中に突き刺さる。

 いかに防御力に優れたリベレントと言えども、左右から挟撃を受ければ、その両方に対処することは難しい。

 結果、一分も経たずに、リベレントは敗北することとなった。

【DUEL Finished】

【Winner : Jin・Orcinus】

 デュエルで敗北したプレイヤーはデュエルが終わると同時にデュエルの開始地点にリポップする。

「ま、負けた……、私が……」

 敗北を受け入れられないアリがわなわなと体を震わせる。リベレントはその隣で、ごめんねぇ、と言いながらその背中をさすっている。

 周囲の野次馬達は最初の苦戦を覆してのジンとオルキヌスの勝利に大いに湧いており、二人の噂がより広まることは明らかであった。

「アリ……」

 どうしたものか、散々迷った末、ジンはアリへと声をかける。

「! ふ、ふん、えぇ、あんたらの勝ちよ。よくやったわ」

 アリはその言葉で状況を思い出したのか、あるいはリポップしていることに気付いたのか、そう言って勝者を讃える。

「さぁ、何が望み? 私が勝ったら私はあんたからレアアイテムを取り上げるつもりだった。あんたらも、勝ったからには何か言いなさい」

 ジンはオルキヌスに視線を投げ、任せるよ、という肩すくめをもらうと、アリに向き直り、言った。

「じゃあ、明日の学校帰り、学校の駅前にある『ファースト・オーダー』で会おう」

 ジンはある事を思いつき、そんな言葉をアリに投げるのだった。

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