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第3章「デュエル〜美少女姉妹コンビ 上」

 栃木県日光市。

 有子の指定した集合場所、日光東照宮はそこにある。

 正式名称は単に「東照宮」であるが、日本全国に130社ある他の東照宮との区別のため地名を頭につけて「日光東照宮」と呼ばれるのが通例だ。

 その入り口たる陽明門は建物全体が極彩色の彫刻で覆われ、一日かけても見切れないともされ「日暮御門」とも呼ばれる。

 その陽明門から向こう側が全て、ヴィジョン「ファンタジックアース」に汚染されていた。

 とはいえ、ファンタジックアースは1990年代の地球であり、日光東照宮だけに関して言えば、むしろ今よりも美しく鮮やかになっている状況で、ともすれば、汚染と言う言葉は適当ではないかもしれない。

 その陽明門に、2人の女性プレイヤーが立っている。

「うお、あれ、最近話題の美少女コンビじゃねぇか」

 その二人を見てオルキヌスが呟く。

「知っているのか、オルキヌス?」

「あぁ、珍しい女性プレイヤーコンビでリアルでも姉妹らしい。で、その上、積極的にF.N.M.を狩ってるトッププレイヤー候補ってことで注目を浴びてるコンビだよ」

「なるほど。その話題性を横から掻っ攫われたもんだから、有子は怒ってるのか」

 ちょっと分からなくはないな、とジンは思った。

 話題になる、というのは他では味わえない幸福感がある。それに取り憑かれてしまうと、それを失った時にそれは呪いへと変わるのだろう。

「そんなことより、あの二人が有名なのを差し引いても、ギャラリー、多くないか?」

「確かに」

 ジンのいう通り、美少女コンビの周囲には多数のプレイヤーがひしめいていた。

「ちょっと周りのプレイヤーに事情を聞いてみるか……」

 と取り巻きのプレイヤーに近づくと。


「遅かったわね、ジン、オルキヌス」

 丁度そのタイミングで、有子と思われるプレイヤーに声をかけられた。

 なぜそちらが有子だと分かったかというと、もう片方は長身の女性だったからだ。『VRO』は体格を大きく変更できない。だから、小柄な有子は小型なアバターだと推測できる。

 その上、リアルと同じワンサイドアップの髪型をしていた。髪は腰に届くほどに長いという点と、鮮やかな赤い髪という点はリアルとは違うが。

「まだ10分も前だぞ」

 ジンが反論する。

「女の子は待たせた時点でアウトなのよ」

 ジンは一方的に呼びつけておいて理不尽な、と思ったが、ここで反論して更なる喧嘩をしてもいいことはないので、大人しく謝罪することにする。

「分かった。待たせてすまなかったな、……」

「待った、本名で呼ぼうとしたでしょ、今。私は、アリ。アリと呼びなさい」

「アリって……、ザンジュの乱の首謀者かよ」

「誰がアリ・イブン・ムハンマドよ。せめて、イドリース朝の4代目王って言いなさい。だいたいそれを言ったら、あんたなんか、アラブの精霊じゃないの」

 結局、ジンが自分で余計なことを言って喧嘩になった。

「なるほど、アラビアン・コンビだったのか、お前ら」

「あはは、ちょっと面白いですね」

 オルキヌスがほほう、と笑うと、それに釣られて、アリの相方も笑う。

「お姉ちゃん?」

 対してアリが相方に強めの口調で声をかけると。

「あ、ご、ごめんね、アリちゃん」

「あ、紹介しとくわ、こっちはリベレント。私の姉よ」

「よ、よろしくね」

 アリと同じ赤髪をボブカットにした長身の女性がそう言って挨拶する。

「さ、デュエルしましょ」

「それはいいが……、ギャラリー多くないか?」

「そりゃそうでしょ。あんたらが負けるところを出来るだけ多くの人に見てもらわないと、話題性を潰せないもの。色んなSNSでこのデュエルの情報をばら撒いておいたわ」

 当たり前でしょ、とアリは髪を靡かせながらそう言った。

「そこまでするか」

 と、言っていると、デュアルの申し込みが飛んでくる。

 これ以上話を引き延ばしても仕方ないので、ジンがそれをオッケーする。


【DUEL -  Ali・Reverent VS Jin・Orcinus -】

 デュエル開始を告げる表示が出現し、両者の位置が強制的に離される。見ればデュエルのエリアはレイドエリアのようなエリアに隔離され、他のプレイヤーもその外側に引き離されているようだ。

【5】

 カウントダウンがはじまる。

【4】

 ジンが腰から《ライトニングソード》を抜く。

【3】

 オルキヌスがフォトンラージソードを背中から抜き、起動する。

【2】

 リベレントが身の丈ほどもある巨大な大楯を手元に出現させる。

【1】

接続セット

 アリの右手首に魔法陣が出現し、そのままもう一つ魔法陣が出現、肘の位置まで移動し、その道中に二つ等間隔で魔法陣を出現させる。

【DUEL Start】

塵は塵にDust to Dust灰は灰にAsh to Ash!」

 アリの四つの魔法陣が高速で回転しつつ、突き出した右掌から青白い魔弾が放たれる。その狙いはジン。

「危ねぇ!」

 オルキヌスがその間に割り込みスキル《ラージセイバーガード》で防御する。

「くっ、重いぞ、これ」

 オルキヌスが鈍い声を上げる。

「サンキュー、オルキヌス!」

 だが、強力な魔術は連射が効きにくいはず。

 ならば、今こそが隙。ジンは《ライトニングソード》を構えて一気に突撃する。

「いくぞ!」

 ジンが《ライトニングソード》の柄を捻り、WSを発動する。

 体が勝手に強く強く地面を蹴り、一気にアリへ向けて跳躍する。

「させないよ!」

 そのジンのWS《ライトニングピアッシング》は真っ直ぐにアリに向けて突き立てられ、なかった。

 それより早く、リベレントが間に割り込みその大楯で《ライトニングピアッシング》を防いだのだ。

 鋭く雷と剣が大楯に打ち込まれ、大楯と剣の間で稲光と火花が激しく散るが、大楯はびくともしなかった。

「ごめんね」

 リベレントのWS《ハードパリング》が発動し、ジンの剣が大きく打ち上げられる。

「しまっ」

放てファイア!」

 そこにアリの一撃が飛んでくる。

 それは牽制程度に過ぎない弱目の魔術だが、軽装のジンには無視できないダメージとなる。

「おら!」

 そこに、オルキヌスが大きく飛び上がっての大上段の一撃、WS《カラミティストライク》を放つ。

 リベレントはその一撃に大楯を合わせて防ぐ。

「今度こそ今だ、ジン!」

「あぁ、ルックス・サジッタ・スルクールズ!」

 ジンの左手から青白い魔法の矢が出現し、アリに向けて放たれる。

 リベレントはオルキヌスの一撃を防いでいるし、《ハードパリング》はクールタイムで使えないはず。

 《マジックミサイル》は威力の高い魔法ではないが、相手もジンと同じ軽装。無視出来ないダメージが入るはず。

「ルックス・ムーラス・クストーディオ」

 だが、リベレントの魔法により、アリの周囲に光の障壁が出現。アリへの光の矢は防がれてしまう。

塵は塵にDust to Dust灰は灰にAsh to Ash!」

 直後、リベレントが僅かにズレ、そこをアリの魔弾が通過し、オルキヌスに迫る。

「——しまっ!?」

 オルキヌスに魔弾がヒットし、激しく炎上する。

「おい、ジン。俺たちゃHPが赤ゾーンだ。向こうは阿吽の呼吸。隙一つない」

「いや、今の動きで分かった。相手の阿吽の呼吸にこそ、付けいる隙がある」

 オルキヌスは距離をとりながら悲鳴を上げるが、ジンはそれに対し、策はある、と呟くのだった。

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