東京都渋谷区スクランブル交差点。
東京都屈指の繁華街である渋谷、その最も人が多く行き交う場所と言われ、世界で最も有名な交差点とさえ言われるその場所が、半分、緑と火炎に覆われていた。
その交差点の中央には赤い鱗に覆われ、巨大な翼を持つトカゲ、いわゆる所のドラゴンがその首をもたげていた。
そんなこの世のものとは思えない光景は、事実、この世のものではない。
現実世界をそのまま舞台にした世界有数のメタバースVRMMO『
「おい、今回も来てるぜ、『
「あいつらに最優秀報酬とラストアタックを奪わせるわけにはいかねぇ。要マークだな」
そしてその周囲に集まっているのはそのドラゴンを討伐に集まった無数のパーティであった。
その中でも一際注目を集めているのが、『JOAR』と呼ばれた四人組。
「注目されてるぜ、ジン」
攻撃的な視線に晒されながらも巨大な棒のようなものを背負った緑髪オールバック青年が嬉しそうに呟く。
「あぁ、けど俺たちはこれよりもっと先をいくんだ。これくらいではしゃいではいられない」
ジンと呼ばれた右手に片手剣を持ち、左手に腕輪をはめた小柄な黒髪ウルフカットの少年が頷く。
「ほんっと、オルキヌスっていつもよくそこまではしゃげるわよね」
そんな二人の様子を見ながら、一見するとなんの武器も持っていないように見える小柄な赤髪ワンサイドアップ少女が呆れたように呟く。
「でも、アリちゃん。あれだけの攻撃的な視線を帯びて、あれだけ笑えられるのは大物だと思うよ。私、未だに慣れないもん……」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんではやく慣れないとね」
身の丈ほどもある巨大な盾を構えた長身の赤髪ボブカット女性が盾に身を隠しながら呟く。
対して、アリと呼ばれた小柄な少女は呆れたようにため息を吐くのだった。
この場にいる全員の視界にカウントダウンが出現する。
【15秒前】
「まもなく、レイド開始時間だ。行けるな? 特にリベレント」
「え? だ、大丈夫だよ、ジン君。緊張はしてるけど、役目はいつも通り果たすから心配しないで」
ジンの言葉にリベレントと呼ばれた長身の女性が頷く。
【10秒前】
一斉に彼らは各々の武器を構える。
中には今回が初めての人間もいるのか、緊張して武器を何度も握り直す者や、生唾を飲み込む動作をする者達もいる。
【5】
そんな緊張感溢れる状況で、『JOAR』と呼ばれた四人はそう緊張した様子でもなく、自然体に見える。
【4】
「共闘ボスタイプのレイドなんて今更子供騙しだぜ」
オルキヌスが背中に背負っていた棒を構えると、その周囲に青い光が出現し、大剣の姿を取る。
【3】
「巻き込まれないでよ。
アリの右手首に魔法陣が出現し、そのままもう一つ魔法陣が出現、肘の位置まで移動し、その道中に二つ等間隔で魔法陣を出現させる。
【2】
「うん、私も最初から全力で叫ぶよ」
リベレントが身の丈ほどもある盾を持ち上げる。
【1】
「よし、『JOAR』、作戦開始だ」
ジンが右手に構えた片手剣の切先をドラゴンへと向ける。
【RAID – BossBattle – Start】
ドラゴンが顔を上空に向け、その口に炎を蓄える。
そのドラゴンの真上に【
同時、『JOAR』に近接していたプレイヤーが一斉に『JOAR』へ向き直り、武器を振り被る。
「
だが、その動きを読み切っていたアリが『JOAR』に襲いかかったプレイヤー達に向け、的確に青白い魔弾を発射する。
直後、ドラゴンが顔を下へ向け、その炎を放とうとする。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
リベレントが勢いよく大楯を地面に突き立て、叫ぶ。スキル《ウォークライ》が発動し、リベレントの能力が一時上昇するのに合わせ、周囲の敵MOB——今回はファイアドラゴンしかいない——の
ファイアドラゴンはもっとも高いヘイトを持つリベレントに向け、その口に溜めた火炎を放つ。
『JOAR』の面々は一斉にリベレントの盾の影へと隠れ、炎を凌ぐが、それが出来ない『JOAR』狙いのパーティはそのまま焼き尽くされる。あるいはそれに耐えたプレイヤーは慌てて、炎の影響範囲外まで逃げ出す。
「進路クリア! 行ってきなさい、あんたたち!」
炎攻撃が終了するまでの間になにやら長い呪文を詠唱していたアリの魔術が発動、ジンとオルキヌスに
「いくぞ!」
「おう!」
ジンとオルキヌスがファイアドラゴンに向かって突撃する。
全てのパーティが『JOAR』を狙っていたわけではないため、火炎攻撃の間も他のパーティが攻撃を加えており、既にファイアドラゴンの HPゲージは一つ目が削り切られている。
「いくぜ!」
オルキヌスが青白い大剣の柄を捻ると、そのまま大きく飛び上がり、大上段に敵を斬り下ろす。
オルキヌスの武器が持つ
「ウォータル・アダレレ・グラディウス」
一方、それにやや遅れてドラゴンに接敵せんとするジンが呪文を唱える。
左腕の腕輪に円形の魔法陣が浮かび上がり、複数の単語がリングメニューのように魔法陣に表示されている。
表示された魔法陣に表示されている一単語を読み上げるごとに、魔法陣が回転し、外円に新たな魔法陣が出現していく。
三の単語を読み切ったと同時、魔法陣が青白く輝き、右手の剣に水が纏わりつく。
「行け、ジン!」
《カラミティストライク》を喰らって怯んだファイアドラゴンに対し、ジンが肉薄する。
その間にはオルキヌスがおり、青白い刀身を消した長い棒を構えている。
ジンがその長い棒を踏みつけ、オルキヌスが一気にその筋力を活かして、ジンごと長い棒を跳ね上げる。
同時、ジンが跳躍し、ドラゴンに共通する弱点、頭部に対し、水属性の斬撃がクリーンヒットする。
二人の連携攻撃で一気に一ゲージが削り取られ、ファイアドラゴンがダウンする。
そこに他のパーティが殺到する。
さらに一ゲージが削れたところで、ファイアドラゴンが体を持ち上げ、尻尾を振り回す。
「危ない!」
避け損ねたオルキヌスをリベレントがその大楯で庇う。
尻尾とリベレントの大楯がぶつかり合い、激しく火花を散らす。
「すまん、助かった」
「大丈夫です」
リベレントがWS《ハードパリング》で尻尾を弾き返すと、それを逃さず、オルキヌスが再び、《カラミティストライク》で尻尾を攻撃、その尻尾を切断する。
尻尾を切断され、ファイアドラゴンが悲鳴を上げる。
その隙を逃さず、さらなる詠唱で攻撃力を大幅に上昇させた、ジンのWS《レインピアッシング》が発動、無数の突きが空から降り注ぎ、ついにファイアドラゴンを絶命せしめたのであった。
【RAID Complete】
【Most Best Party : JOAR】
【Last Attack : Jin】
かくして、此度のレイドは『JOAR』の圧倒的な功績で終わった。
戦いが終わり、もはや結果が覆せなくなった以上、戦いに参加したパーティ達も『JOAR』を讃える。
『JOAR』のメンバーはその大きな歓声を浴びながら、戦場を後にするのだった。