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第13回

 隼人の言葉に3人全員、絶句するほど驚く。


 一番最初に衝撃から復帰したのは、やはり田中だった。

「どういうことだよ!?」

「そ、そうだよ! 一緒に帰るんじゃないのか!?」

「あー、うるせえ。俺だって帰りたくないわけじゃねえ。けど、あいつらに協力するって約束しちまったの、おまえらだって知ってるだろ」


 あ……、と3人も、あのファミレスでのやりとりを思いだす。

「そっ、か」

「じゃあ俺も残る」

「憂喜は塾があるんだろ」

「う……」

「部活に顔を出すのは水曜だ。俺なら、あと2日くらいは残って手伝える」

「俺も、今夜のバイトは休むって電話して――」

「だめだ、おまえら3人とも帰れ」

「なんでだよ!」

 そこから先は、隼人対3人の押し問答だった。特に田中と憂喜が徹底抗戦で、ほとんど激怒に近い口調で自分たちにも手伝わせろと押し切ろうとしたが、今回ばかりは隼人は一歩も退かなかった。おまえたちは帰れの一点張りである。

 結局、バス停まで送ってくれる安藤が迎えにきたと菜摘が知らせにきて、タイムアップとなった。


 車に荷物を積み込んでも、まだ田中は納得できないらしく、車に乗ろうとしない。

 憂喜も納得いっていない顔で口を引き結んで隼人をにらみつけていた。

 斉藤は無表情だが、この展開が不満なのは伝わってくる。


 そんな3人を、隼人は不思議な思いで見ていた。

 ほんの1カ月と少し前まで、彼らはほとんど口もきいたことのない、名前しか知らないただのクラスメイトでしかなかったのに。

 それは向こうだって同じだろう。なのに、今は本気で隼人のことを心配し、彼を残して自分たちだけ帰ることに怒っている。あまつさえ、殺人事件の起きているここに残って、彼を手伝うと言っている。


 ふっと笑みが口をつく。

 ズボンのポケットに手を突っ込み、

「おまえら、俺がどうなると思ってんだ? これまでもさんざんああいった手合いとはやり合ってきてるんだぜ?

 石の地蔵ごとき、俺の敵じゃねえよ」

 ふつふつと湧いてくる感情とみなぎる力にあかせて、隼人は傲然と言い放った。


 隼人がこれまでどれほどの敵と渡り合い、どんな経験をしてきたのか、憂喜たちは知らない。けれども自信に満ちたその姿、言葉を聞いては、何も言えなかった。


「さっさと済ませて帰ってきて、戻ったらすぐ電話入れるんだぞ!」


 そう言い残して去る彼らを見送って、宿に戻ろうとしたところで、隼人は玄関先に立つ綾乃と未来に気付いた。

 いつの間に、と思ったが、宿は防音ではない。あれだけ騒いでいれば、隣の部屋の彼女たちも気付いて当たり前だ。

 無視して部屋に戻ろうと前を通り過ぎたところで、綾乃が呼び止めた。

「来て。今夜の作戦を話すから」


◆◆◆


 部屋にはアレスタもいて、折りたたまれた紙を座卓に広げていた。


「いらっしゃい、隼人くん。3人は帰したのね、いい判断だわ。殺人の条件が判明していない以上、彼らはここから遠ざけておくほうが安全でしょう」

「地蔵単体で起きた事なら、よそ者が標的の可能性もある」

 伝承では首切り地蔵が刈った相手は、村を襲撃した盗賊だった。

 もちろんアレスタも分かっている。


「昨日の被害者の2人も村の外の人間だった。次に彼らが狙われる可能性は低いとは言えないでしょうね。

 さあ、座って。この村の簡単な地図よ。今夜必要になると思うから、頭に入れておいてちょうだい」

 座卓について、言れたとおり目をとおしている間、アレスタから警察とのやりとりについて説明が入った。


 被害者は佐々木 健太41歳。ここから2時間ほど車を走らせた先の市で、父親が経営する中規模の骨董品店で働いていた。彼の仕事は主に営業だ。父親が築いたコネを使って地方を回って商品を仕入れたり、その土地の有力者に売り込みをかけたりしていた。最近のお気に入りで連れていた家出少女・葛木 裕子17歳を見れば一目瞭然だが、私生活は派手で、若いころから傲慢・身勝手・無責任と三拍子そろった、絵に描いたような放蕩息子だったという。

 おかげで敵も多く、相当な数の恨みつらみを買っているのがうかがえることから警察は怨恨の線でこの事件を追うようだった。


『伝承になぞらえたとはいえ、ああしてさらし首にする辺り、相当憎まれてたんだろうぜ。殺してやりたいだのよく言うが、大抵は口ばっかりで実行するのは数十分の1人だ。その上であの残忍な殺しようは、よっぽどイカレたやつでなきゃできねえな』


 犯行現場が事故を起こした車の付近だったこともあり、町から数人の警官が派遣されてしばらく村に駐在することになったが、アレスタたち機関の者がこの事件に関して独自の考えで動く許可は下りたとのことだった。


『いいか? 勝手に動き回って現場を荒らして、うちの者に迷惑かけんじゃねえぞ!』

 指をつきつけ、上から威圧してくる刑事の態度を、『許可?』とアレスタは鼻で笑い飛ばした。

『うちの調律者アジャスターがとっくに総監から許可を得ているわ、あなたの許可など結構よ。

 あなたが個人的な偏見で浅はかな言動を連発して、組織を困った立場に追いやっているだけでしょう』

 なんならあなたの上司に確認させてもらいましょうか、とスマホを手に詰め寄ると、刑事は苦虫をかみつぶしたような顔で無言で立ち去った。

 部下たちの前で面子をつぶした――ほどではないにせよ、ひっかき傷はついただろうから、おそらくアレスタが立ち去るまで村へは戻ってこないに違いない。


 話を聞いていた綾乃が、ほらね? と言いたげに未来を見る。


 さらにアレスタは、死体が履いていた靴と草の上に落ちていた地蔵の頭部に残っていた靴跡が一致し、4体目の地蔵の頭部を蹴って落としたのは佐々木だと判明したことを話し、椅子の上で足を組み換えると――畳用の椅子のために高さが足りず、足の長い彼女は座りにくそうだった――それで、と隼人に話を向けた。


「あなたは西森家に行っていたのでしょう? どうだった?」

「……本人とも会った」

「あら。じゃあ?」

「どちらとも術の痕跡は感じ取れなかった。術士は別の者か、あるいはごまかし方を心得ているかだ」

 それと、と隼人は西森が菜摘に言ったことを話す。


「は? あの子が戻ってくる? 8年も前に死んでるんでしょ? どうやってよ?」

 綾乃がうさんくさそうなものを見る視線を向けてきた。

「言ったのは俺じゃねえよ」

「まーね。

 でも、あの地蔵の伝承に死に戻りなんかなかったと思うけど。

 ねえ? 未来」

「うん……」未来は少し考え、ためらいがちに言った。「もしかして、生け贄とか?」

「でもそれならあの地蔵を使う意味なくない?」

 首切り地蔵は4体の地蔵の落ちた首の代替品として人の首を求め、狩り、持ち帰って乗せる。その行為と、8年前に死んだ子どもの反魂につながりがあるようには思えなかった。


「やっぱり4体目の首を落とされたことでスイッチが入った首切り地蔵による、無差別殺人じゃないかなぁ」


「今のところそれが一番有力な説ね。西森は精神的にいささか問題のある人物のようだし、その言葉を重視し過ぎてこの事件と結びつけて考えるのは早計かもしれないから、いったん保留にしておきましょう。隼人くんが痕跡を感じ取れなかったというなら、術士は他の者かもしれない。

 いずれにしても、今夜も地蔵が動くのは間違いないわ。あなたたち自身がその目で直接見定めなさい」


 首切り地蔵は夜動くと伝承にある。それまでおのおの休んで待機、ということで話し合いは終わった。


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