徒歩で帰宿した隼人たちは、ちょうど門から出てきた田中たちと出くわした。
「あれ? もう帰ってきたのか? もっとかかるかと思ってた」
隼人たちに気付いた田中がぱっと笑顔になる。
「って、おまえら車で行ってなかったっけ。それに、アレスタさんは?」
「アレスタは安藤と一緒に残るって」綾乃が答える。「警察が来るまでは一緒に帰る気だったみたいだけど、来たのが嫌なオッサンっていうか。そいつがアレスタのかちんとくること口にして。
ほら、霊障だの怨霊だのって事件に発展しやすいから、わりと警察と現場でかち合うことが多いんだよね、TUKUYOMIって国際機関だけど、べつに捜査権限あるわけじゃないし。
だから
今度のオッサンは特にそれが強い人でさ。「見世物じゃねぇんだ、女子どもを現場に近寄らせんな!」って安藤を叱責して。それでアレスタは、ド田舎の刑事ごときがナメてんじゃないわよ、って半ギレたわけ」
「あー、なんか想像つくわ」
田中、斉藤、憂喜がそろってうんうんとうなずく前で、未来が小首をかしげる。
「え? 「わたしは彼らと打ち合わせがあるから、あなたたちは先に宿へ戻ってなさい」ってしか言ってなかったけど?」
「言ってなくても分かりきってるじゃん。あの人のことだから、あの氷の微笑で今ごろさんざんやり込めてんじゃない?」
アレスタが負ける姿が想像できなかった未来は「……そうね」と無難につぶやいた。
「じゃあやっぱり、おまえら首切り地蔵へ行ってたんだな。隼人だけ呼ばれたから、そうじゃないかと思ってたけど」
警察がいたということは、すなわち人が死んだということだ。そうと知りながら「おまえらだけずるい」と言う田中ではない。むしろ隼人と顔を合わせて「大丈夫か?」と気遣った。
隼人は、何のことについて気遣われているかよく分からなかったが、とりあえずうなずいて見せる。
「そっか。じゃーよかった」
にっかり笑った。
「それで、あんたたちは? どっか行こうとしてるみたいだけど」
綾乃が訊いた直後。
「お待たせしました、ごめんなさい。なかなか鍵が見つからなくて」
門から菜摘が出てきた。手には大きな風呂敷包みを提げている。縦長で、重箱のようだと形から推察できる物だ。
綾乃と目が合った菜摘が「皆さん、お戻りになったんですね」と言う。
綾乃の質問に答えたのは憂喜だった。
「隼人がいつ戻ってくるか分からなかったから、暇つぶしついでにこの辺見て回ろうかって話になったんだ」
そうして部屋を出たら、玄関で菜摘と鉢合わせた。
玄関には菜摘のほかに菜摘の父で民宿の板前をしている父親がいて、風呂敷に包まれた荷物を彼女に渡しているところだった。
「あたし、毎日西森のおじさんのとこへ食事を持っていってるんです。おじさん、1人暮らしだから」
これがそうだというように、両手で持った風呂敷包みを軽く持ち上げて見せる。
「お知り合いなんですか」
「親戚……ってことはないか」
「父が同級生なんです。小学生のときからの親友とか。母から聞いた話だと父のほうが少し年上で、よく面倒を見ていたみたいです」
人口の少ない村だから、全員が同朋意識を持ち、助け合いの共同生活を送っている。昨日、安藤もそのようなことを言っていた。いわゆる村社会というものだ。
西森家はそこへ入り込んだよそ者だったわけだが、スエのおかげでうまく村の大人たちに受け入れられることができた。その大人を見て育つ子どもが大人に
今もその延長で、菜摘の父が独りになってしまった彼をほうっておけずに面倒を見ているというのも分からない話ではなかった。
「んで、俺らも目的があったわけじゃないし、それなら一緒に行こうかなってしてたとこ」
さらりと言うが、大方『西森』の名を聞いて昨日の話を思いだし、興味が湧いただけに違いない。
3人が気付いていることを察した憂喜は、やじ馬的考えを見透かされたことを恥じ入るように視線をそらしたが、田中は臆面もない。そして隼人たちに言った。
「おまえら食事途中で出てったろ。女将さんがおにぎりにしてくれてるから、それ食べて休んでろよ。すぐ戻ってくるから」
田中の言葉に、どうする? と綾乃と未来は顔を見合わせた。西森と聞いて、行きたい気持ちはあるが、疲れてもいた。それにアレスタの帰りを待って、安藤の前では話せなかったことを話し、これからどうするか計画も立てたい。
すると、隼人が道中の自動販売機で購入した牛乳パックをズコーっと吸って、綾乃たちから離れて田中たちのほうへ移った。
「
「ちょっと! なんであんたが指図すんのよ!」
途端綾乃が不満の声を上げたが、隼人は当然無視だ。
そうして隼人たち4人は菜摘の案内で西森家へと向かったのだった。