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エピローグ

「来週から夏休みだけど、おまえらどーすんの? 予定決まってるか?」


 異界駅から戻って数日後。隼人、憂喜、田中、斉藤の4人が高校の食堂で昼飯を食べていたときのことだった。

 テーブルに備えつけの割り箸ケースから取った割り箸を2つに割りながら、田中が話しだす。このメンバーでいるとき、雑談的話題を持ち出すのは決まって田中だった。


「塾の夏期講習と短期合宿」

 汁物をかき混ぜて飲もうとしていた憂喜が手を止めて答える。

 ちなみに今日は、憂喜がA(白身魚の香味揚げ)定食、田中がB(豚の生姜焼き)定食、斉藤はしょうゆラーメンだ。アサリのあっさりうどんは期間限定終了した。

「部活の後輩たちの練習相手」

 斉藤は、剣道バカらしい、くそ真面目な返答だった。彼らは受験生で進学コースの生徒だ。普通なら憂喜のように半年前には部活は引退して受験勉強に専念するのが当然だったが、斉藤は昼休みや放課後などを使って、試合前の後輩の練習を見ていたりしていた。

 ちなみに隼人は無言だ。黙々とカレーうどんをすすっている。


「なんだそれ。おまえらつまんねえ」

 田中は眉をしかめて2人の答えを一蹴した。

「悪かったな。おまえこそ受験生の自覚あるのか?」

「俺、推薦取れるもん」

 意外にも、この中で一番勉強ができるのは田中だった。田中は常に学年10位に入っている。普段の何かとヤンチャな素行で風紀担当の松田先生(松セン)に目をつけられてはいるが、生来の憎めない無邪気な性格に助けられ(?)大目に見てもらっていた。(東大、京大どちらも合格圏内というので彼の進学が学校の評価につながることも関係しているのかもしれない)

 トップ50に入りたくて中の上をうろうろしている憂喜からは、うらやましい限りである。


「それで?」少々むくれ気味に憂喜が訊き返す。「おまえは何がしたいわけ?」

「俺?」

「何か俺たちを巻き込みたいことがあるから予定を訊いてきたんだろ」

「あー、そーそー。

 あのな、首切り地蔵って知ってるか?」

 田中は誰にとは言わなかったが、明確に、正面に座っている隼人を見て、話を切り出していた。

 隼人は食べ終えたカレーうどんの丼を脇に寄せ、アロエ牛乳のパックにストローを刺す。

「どれのことを言ってる。首切り地蔵は日本各地にあるぞ」

 そう返しながらも、彼に興味がないのは声の調子で知れた。

 しかし田中は目を輝かせ、うれしそうに答える。

「4体の首なし地蔵とセットのやつ」

「あれか」

 隼人はすぐにぴんときたようだが憂喜と斉藤が分かっていない様子なのを見て、田中は説明を始めた。

 それはこういうことだった。


 とある山寺の道ばたに5体の石の地蔵が並んでいる。左の端が飛び抜けて大きく、残りの4体を従えているように見える。そして他の4体が経年劣化などで首が落ちると、左端の地蔵が新たな首を求めて夜な夜な徘徊し、山の生き物の首を狩って4体の首に乗せてやるのだそうだ。

 4体目の首が落ちないと地蔵は動きださないことから、付近の村の住人たちは4体目の首が落ちないように見張っているとのこと。

 そして今現在、3体目まで首が落ちて、4体目がもうすぐ落ちそうな状態になっているらしい。


「……いや、それ、残り1体になる前にちゃんと補修してやればすむ話じゃないか?」

 石の地蔵が動いて首を狩って回るなんてそんなばかなことあるか、と一笑に付さないあたり、斉藤も結構オカルトに毒されてきてると言えよう。

「第一おまえ、急になんだ。そういう話、今までしたことなかっただろう」

「いやだってああいうとこ行ってあんなの見ちまったら、考えないか? そういう世界がほんとにあるんだなーって。

 そうしたらなんか、今まで何とも思ってなかった分、むくむくと興味が湧いてきたっつーか」

「やめろ、ばか。へたに首を突っ込めば、痛い目をみるのはこっちのほうだ」

「首を突っ込めば切られるってか? 首切り地蔵だけに」

 うひゃひゃひゃひゃ。

「だからやめろって。笑いごとじゃないだろ」


 斉藤と田中が話しているのを横目に憂喜は隣の隼人へと身を寄せて、こそっと訊く。

「で?」

「……何が」

「ほんとのとこ、どう? これってやばいヤツ?」

 隼人は、なんでそれを俺に訊く? という表情をしたものの、牛乳を離して答えた。

「さあな。だが、こういった話のいちいち全部が全部ってことはないだろ。でなきゃ、日本はとっくに怨霊大国だ」

 アレスタが聞いたら大爆笑しかねないことをさらりとうそぶく隼人の横顔に、憂喜も「それもそうか」と納得する。

「じゃないと、ホラースポット巡りしてるやつらってみんな、あの世へ行ってかねないよな」

 はははと笑っていると。

「そうそれ! ホラースポット巡り!」

 言葉の一端をとらえた田中が突然大声を上げて、びしっと隼人を指さした。


「おりしも今は夏真っ盛り! 夏っていったらホラーだよな! ホラースポット巡りしよーぜ! !」


 頭をがりがりっとかいて、「みじんも興味ねえ」と口にしかけた隼人だったが。最後の言葉にぴたりと止まった。

 もちろん憂喜も斉藤も気付いている。固唾をのんで、じーっと隼人の反応をうかがっている。

「なっ、いいだろ? おまえいないと始まんねーし!」

 田中のさらなる要求に、隼人はしばらく沈黙したのち。


「………………ま、まあ、付き合ってやらなくもない、な。……暇だったら」


「やったーー!! 決まり!! あとでLINEで日時アンケ取るから、ちゃんと返信しろよ、おまえら!」

 隼人の前髪で隠れた目元がほんのり赤くなっていることに、諸手を上げて喜んでいる田中が気付いた様子はない。

 憂喜と斉藤は互いにアイコンタクトをとり、秘すれば花と、うんうんうなずき合ったのだった。








【第2話・惨像 了】

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