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第102話「よるをあつめる」

 分身が真とアキトシに向け、無数の球体を展開する。


「そっちか!」


 アキトシが両手を広げ、分身と同じように周囲に球体を展開する。


「行け!」


 その言葉に、真は床を蹴った。

 双方から飛び交う漆黒の球体を掻い潜り、分身に急接近する。


「! させるか!」


 真に気付いた分身が棘を射出する。


「それは想定の範囲内だ!」


 真には一本も当てさせない、とアキトシは球体の数を増やし、棘に向けて射出した。

 棘が物理的に刺突を目的として射出されるものに対し、球体は接触し、爆発することで範囲的な攻撃を行なう、という役割を負っている。分身が棘を射出したならそれをまとめて無力化するのに球体は有効。


 この二つの遠隔攻撃を使い分けることで相手を翻弄するのが【タソガレ】としての攻撃スタイルだったが、【タソガレ】同士がぶつかるとそれはいかに相手にダメージを与えるか、そしていかに周辺への被害を最低限に抑えるか、のせめぎあいになる。


 実際、棘の攻撃は点攻撃であるため周辺への影響は最低限で済むが球体は爆発という面攻撃なので外せば周辺環境に影響が出る。分身が初めに展開した球体をアキトシが球体で応じたのは「球体同士はぶつかると相殺される」という特性があるからに他ならない。


 アキトシが真に向けられて放たれた棘を棘で撃ち落とすのではなく球体で迎撃したのは「より確実に真を守る」という意志の表れだった。爆発で壁や床が破損するかもしれないが、それでも棘で相手の棘を撃ち漏らす可能性を考えれば球体を使った方がいい。それに今は周辺の被害を抑えるという綺麗ごとを言っている場合ではない。目の前の分身を倒し、全ての元凶であるミツキを倒さなければいけないのだ。


「うおおおおおおおおっ!!」


 棘に接触して爆発した球体の爆炎を突き破り、真が分身に突進する。


「く——!」


 爆炎で一瞬視界を失っていた分身が咄嗟に刃を展開するが、【増幅Amplification】で増幅された真の拳はそれよりも迅かった。

 分身が繰り出した刃が真を掠め、戦闘服を切り裂く。

 しかし、それに怯むことなく真は分身に拳を叩き込んだ。


「はぁっ!」


 腹の底から吐き出された息と共に、真の拳が分身の胴体を撃ち抜く。


「な——!」


 まさか、ニンゲン如きが、と驚愕する分身から真が拳を引き抜くと、その両横から無数の棘が分身に襲い掛かり、分身を貫き、引き裂いていく。


「くそ——!」


 いくら遠隔操作で再生も自在とは言えども一気にズタズタにされれば再生もままならない。

 分身が再生を試みるが、それすら許さずアキトシはさらに棘と球体を展開し、分身を完膚なきまでに打ち砕いた。


「あんた、やるな」


 霧散した分身を確認し、真が振り返ってアキトシを見る。


「はは……ちょっと全力を出しすぎたよ……」


 体力、あるいは【タソガレ】の攻撃力の源である感情を出し尽くしたか、アキトシがその場に膝をついて力なく笑う。


「とりあえずわたしにできることはここまでだ。あとは彼らに——」


 そう言い、アキトシは他の分身と戦う面々に視線を投げた。



「はぁっ!」


 誠一は単身、分身と激しく斬り合っていた。

 分身は真たちが戦っていた個体と同じように棘や球体を展開しようとするが、誠一はその隙すら許さず打ち込み、分身を防戦一方に追い込んでいる。先程までは誠一も【雷撃Lightning】を展開するなどして距離を取りつつ戦っていたが、距離を取って戦うよりも近接戦闘の方が有利に立ち回れると判断した結果、戦況は誠一有利に傾きつつあった。


「くそ——ニンゲン如きが!」


 真たちと違って誠一は一人、それなら数で圧倒すれば瞬殺なのにそれが許されない状況に持ち込まれて分身が忌々しく声を上げる。


「私はこれ以上誰も喪いたくない! ミツキ、聞こえているなら今のうちに言っておく! お前は必ず倒す! 私が倒せなくとも颯真君や冬希君が——」

「そんな甘い考えでワタシを倒せると思うなよ!」


 分身が誠一を貫かんと刃を突き出す。


「その程度——ッ!」


 わずかに身をひねり、誠一は突き出された刃を回避した——ところでその刃を抱え込むように腕を回した。


「なにッ!?」


 刃を抱え込まれ、分身が驚きの声を上げる。

 密接した状態になり、咄嗟に刃を引いて離れようとするが誠一は【防御Protection】を盾として展開するのではなく、刃を絡めとるように展開して分身の動きを封じる。


「人類を——舐めるなよッ!」


 まずい、と刃から手を放そうとする分身に、誠一は【拘束Bind】も展開して分身を拘束する。

 完全に動きを封じられたところで誠一は密着したまま次のコマンドワード——【雷撃Lightning】を解放した。

 誠一の全身から赤い稲妻が解き放たれ、分身に突き刺さる。


「これが——ニンゲンの、魂……」


 稲妻に身を削られながら、分身が、分身を操っているミツキが呟いた。

 人間の魂は途轍もないエネルギーを秘めている。それを極限まで燃やせば【タソガレ】を上回るのか。

 以前から下位の【タソガレ】と【ナイトウォッチ】の戦いは見ていたが、ここまで激しく魂を燃やした人間はいなかった。

 たとえ自分を犠牲にしてでも守るべきものは守る、その強い意志に離れた場所から戦いを見ていたミツキは思わず身震いする。


「これで——終わりだ!」


 誠一の声に呼応するように全身から放たれる稲妻が光を増す。

 その光に灼かれ、誠一と対峙していた分身も跡形もなく霧散した。



「冬希、どう思う」


 分身が放つ球体を棘の射出で無力化しながら颯真が尋ねる。


「コアがないだけで普通の【タソガレ】と大差ない気がする」


 冬希も【雷撃Lightning】で応戦しながら自分なりに分析した見解を口にした。


「だね。むしろコアがない分弱点が少ないからやりづらいな」


 そうは言ったものの、颯真の中ではある程度の作戦は組みあがっていた。

 卓実からはバーサーカーだのなんだの言われてはいるが、颯真も冬希もそこまで考えなしではない。「見敵必殺サーチアンドデストロイ」の考えは変わりないが、そのためにどのような攻撃を行なえばより効果的にダメージを与えることができるかくらいは二人は考えることができる。


 普通の【タソガレ】ならコアを砕けばそれで終わる。しかし目の前にいる分身にはコアがないことを考えると倒すにはそれ以外の方法——通常の【タソガレ】同様全身を再生不可能なまでに打ち砕けばいい。


 ただ、厄介なのはこの分身の再生能力が通常の【タソガレ】に比べて非常に高い、ということである。ただ絶え間なく切り刻んでは切り刻んだしりから再生される。そうならないようにするには——。


「冬希、いける?」


 颯真がそう言ったのはただの確認だった。

 どちらかと言うとタイミングを合わせるための時刻合わせタイムハックみたいなもの。

 具体的に何をするか言わずとも、冬希は颯真がどのような手を打つかのシミュレーションを終わらせていた。


「大丈夫、行ける」


 わずかな言葉で二人の意思が完全にリンクする。


「何をする気か分からんが——」


 ここから先にはいかせない、と分身が球体を展開した。

 周囲に撒き散らされた球体が包囲を狭めるように二人に迫る。


「【雷撃Lightning】! 【拡散Diffusion】!」


 冬希がコマンドワードを解放する。

 冬希を中心として広がった蒼白い稲妻が二人を取り囲む球体に突き刺さり、爆発させる。


「馬鹿め、その程度でワタシを倒せるものか!」

ならね!」


 爆炎の中から颯真の声が響く。

 ——と、今度は颯真の側から無数の球体が出現し、分身の周りを取り囲む。


「はっ、浅知恵で真似をしたか!」


 そんなもの、相殺すれば意味がない、と分身が再度球体を展開しようとした瞬間、


「【雷撃Lightning】! 【拡散Diffusion】!」


 再び冬希がコマンドワードを解放した。

 今度は颯真が展開した球体に無数の稲妻が突き刺さっていく。

 稲妻は颯真が展開したものだけでなく分身が遅れて展開した球体にも突き刺さり、周囲を爆炎が包み込んだ。


「目くらましのつもりか!」


 そんなもの、ここで展開したところでオマエたちも何も見えないだろう、と両手に刃を展開し、爆炎を切り裂く分身。

 切り裂かれ、晴れていく爆炎。

 だが、そこに颯真の姿も冬希の姿もなかった。


「——!?」


 バカな、と分身が声を上げる。

 この爆炎で、二人も視界を奪われていたはずだ。

 視界を奪われた状態で動くなど自殺行為にもほどがある。

 それなのに二人は動き、分身の視界を逃れ——。

 分身の死角、背後の両脇から刀を突き立てていた。


「な——」


 爆炎はかなりの範囲をカバーしていたはず。こんな正確に敵の位置を把握して位置取りできるはずがない。ましてや二人は何の言葉も交わしていない。それなのに二人は正確に自分たちの立ち位置を把握し、死角に回り込んでいた。


 とはいえ、二人は分身に刀を突き立てただけ。刀を抜けば即座に再生すればいい。

 そう考えた分身だったが、それは颯真も冬希も想定済み。


『【雷撃Lightning】!』


 刀を突き立てたまま、二人は同時にコマンドワードを解放した。

 金色の稲妻と蒼白い稲妻が絡み合い、刀を通じて内側から分身を灼いていく。


「く——!」


 身体を構築する闇が稲妻によって分解され、霧散していく。


「クソ、まさかここまで——」


 一人ひとりの力は大したことないと侮っていたからか。

 分身の身体が完全に霧散し、その場に静寂が訪れる。


「みんな、大丈夫!?」


 振り返り、颯真は誠一たちに声をかけた。

 誠一も真たちも分身を打ち砕き、大丈夫だと拳を上げる。


「俺も完全回復してるぜ! 死ぬかと思ったがめっちゃ効いたわ」


 卓実も立ち上がり、ガッツポーズをとる。


「行こう、ミツキはこの奥にいるはずだ」


 アキトシが少々辛そうにしつつも廊下の奥を指さした。


「うん、今度こそミツキを止める」


 颯真が頷き、奥に向かって歩き出した。

 その隣に冬希が、後ろに誠一たちが続く。

 廊下を抜けたその先の扉を、颯真は臆することなく開け放った。


「ミツキ!」


 そこはホールのように広い執務室だった。

 部屋の奥にはデスクが据えられ、そこに一体の【タソガレ】が座っている。

 その【タソガレ】に付き従うように、


「——来たか」


 両手に刃を携えたミツキが立っていた。

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