五人が【
制御装置を取り付けた【あのものたち】は選りすぐりの上位個体ばかりだ。いくら増幅したところで【
【ナイトウォッチ】が捕獲した上位個体はどれも人類側との対話を求めてきたが、化け物のそんな言葉を聞き入れる義理は人類にはない。ただ、【タソガレ】という種族を知り、弱点を掴み、殲滅するための足掛かりにするだけだ。その一環で【タソガレ】を制御することができるのなら、人類側が流す血は最低限で済む、ということだ。
そう、思った徹流の目の前で【
と、その瞬間、光がひときわ強く光り輝いた。
「な——!?」
光の増幅が【
「まさか——南颯真!」
徹流が颯真の名を叫ぶ。
五人の中心で、颯真は誰よりも強い魂の光を輝かせていた。
——これが、可能性——。
颯真が【ナイトウォッチ】の中でも特別な存在であるということは資料で知っている。あの原型チップ二号を埋め込まれていることも、そしてプロジェクト【アンダーワールド】に欠かせない力を秘めていることも。
それでも、徹流は颯真を甘く見ていた。いくら【タソガレ】の力を埋め込まれたと言ってもたかが一人の人間、強い魂を持っているとはいえ、誤差の範囲であると思っていた。
だが、今、目の前で【
本来なら計測できないと言われている颯真の魂だが、今ならはっきり視認できる。
金色の光に包み込まれながらも【タソガレ】特有の影を同時に発動させ、魂の光そのものを増幅させている。そう、それはまるで【
そこまで魂技を使いこなしているのか、と徹流は驚愕した。【ナイトウォッチ】に入隊してまだ半年も経過していない。それなのに自在に魂技を使いこなしている颯真に徹流は見覚えがあった。
「……神谷……さん……」
もう一人の原型チップ導入者、誠一。【ナイトウォッチ】のエースとして誰よりも強く戦った男。
そんな誠一がもう一人いるかのような錯覚を覚える。
「うおおおおおおおお!!!!」
颯真が床を蹴った。
刀を抜き、拘束された【あのものたち】の首筋に付けられた制御装置に切っ先を引っ掛け、バンドを切り裂く。
床に落ちた制御装置を踏み潰し、颯真は刀の切っ先を徹流に向けた。
「降伏してください!」
颯真のその声に、【あのものたち】が向きを変え、徹流を睨みつける。
「ひ——っ!」
ほんの数秒の出来事だったが、徹流は自分の敗北を悟った。
【あのものたち】は全て制御装置を破壊され、自分の意志で颯真のそばに立っている。
その【あのものたち】が一斉に徹流に襲い掛かった。
「まずいぞ颯真君!」
【あのものたち】が徹流に襲い掛かったのを見て誠一が叫ぶ。
「大丈夫です、殺したりはしませんよね——アキトシさん」
落ち着き払った様子で颯真が【あのものたち】の一体に、声をかけた。
徹流に襲い掛かった【あのものたち】は徹流に刃を向けなかった。
その代わりのように、闇を固化したかのような紐を作り出し、徹流をがんじがらめに縛りあげる。
縛り上げた徹流を床に転がし、【あのものたち】は様々な形に姿を変え、交代で脅しにかかっている。
「……よっぽど恨みに思ってたんだ……」
苦笑しながら、颯真が徹流の脅しに参加していなかった【あのものたち】の隣に立った。
「そりゃあ、対話を求めて接触したのにこんな目に遭わされれば恨みもするよ」
そう答えた【あのものたち】が姿を変える。
「正直、最初の丁重な扱いから一点して制御装置なんてものを付けられたらわたしもトオルという奴を恨みはするよ」
再び人の姿をとったアキトシに、颯真は安心したように笑んでみせた。
「無事でよかったです。怪我とかありませんか?」
「きみがうまく制御装置だけ壊してくれたからね。怪我一つないよ」
「昭俊!」
まさか、お前も捕まっていたとは、と誠一が駆け寄ってくる。
「ああ、セイイチ、きみも助けに来てくれたのか」
ほっとしたようなアキトシの声。
当たり前だろう、と誠一は頷いた。
「いくら【タソガレ】の殲滅を企んでいるのが一握りとはいえ、その一握りが力を持っていると面倒なことになる。というわけで俺たちはプロジェクト【アンダーワールド】を阻止することにした」
「ああ、人類が夜を取り戻すというあれ。そこに隠された思惑があったということか」
そうだ、と誠一が頷く。
「とりあえず詳しい説明は移動しながらする。昭俊、お前も来るか?」
徹流を脅していた【あのものたち】も満足したのかそれぞれ人の姿に変わり、アキトシの背後に立っている。
それをちら、と振り返って確認し、アキトシは勿論、と頷いた。
「われわれの最終的な目的はミツキの計画を止めることだが、そこに人間側にも問題が発生しているのならそれに対処するのがきみたちとわれわれの役割だ。喜んで協力しよう」
「酷い目に遭わされたが、わたしたちは人間を信じている。わたしたちを殺せばもっと簡単に制圧できただろうに、それをせずにわたしたちを救ってくれた人間を憎むなど、わたしにはできないことだからね」
アキトシに付き従う別の【タソガレ】もそう言い、そうだそうだと頷きあう。
そして、床に転がされ、怯えている徹流を見た。
「こいつはどうすればいい? このままでは計画を再開するぞ」
「ああ、それは俺たちに任せてくれ」
淳史の声が廊下に響く。
「鏑木隊長!」
颯真が振り返ると、そこに数人の隊員を連れた淳史がいた。
「こっちはあらかた終わったぞ。説得したらほとんどが叢雲新司令の言葉に疑問を持っていたから寝返ってくれたよ」
「……マジか、人望ねえな、叢雲新司令……」
まー、だから【あのものたち】の制御とか考えたんですかねえ、などと呟きながら卓実は憐みの目で徹流を見た。
「とにかく、あとは井上総理だけだ。流石にSATやら自衛隊やらを動かすには時間がかかるし、【ナイトウォッチ】の敵じゃねえ。お前らだけで行けるな?」
淳史に言われ、颯真は自分に付いてきてくれた面々を見た。
そうだ、自分たちには力がある、もう誰にも負けない、という思いで颯真が視線を巡らせると、四人は力強く頷いてみせる。
「行こうぜ。とりあえず、
卓実の言葉に、颯真も小さく頷く。
そうだ、人類側のごたごたも【タソガレ】に対するごたごたも両方同時に対処することは難しい。まず解決すべき方を選択し、一つずつ確実に解決していかなければ話はこじれる。そう考えた上で、優先度が高いのは人類側の問題だと颯真は判断していた。人類側の問題——【タソガレ】を滅ぼして、裏の世界の資源を独占するには大規模な戦闘は避けられない。この問題を放置すれば【タソガレ】に関する問題は自動的にクリアされるかもしれないが、そんな人類の欲にまみれた結末は颯真の心が許さない。
行こう、と颯真は徹流に駆け寄る淳史を尻目に歩き出した。
冬希たち四人も颯真に続いて歩き始める。
「鏑木隊長——あとは任せました」
徹流に対する問題で、自分にできるのはここまでだと颯真は全てを淳史に託した。
淳史が任せろ、と笑い、徹流を引き起こす。
兵員輸送車に戻り、五人と【タソガレ】たちが車に乗り込む。
それを止める本部の隊員はいなかった。ただ遠巻きに眺め、一部の隊員が「頑張れよ」とばかりに手を振っている。
バックモニター越しにそれを確認し、運転席に座った誠一が「いいか?」と確認した。
「大丈夫です、出してください」
颯真が頷き、それを見た誠一はアクセルを踏み込んだ。