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第32話「よるはそうだんする」

 もはや颯真の第二の家となりつつある誠一の家こと【ナイトウォッチ】新人チームの宿舎にて。


「……やっぱさ、そう思うよな」

「ああ、俺もそう思う」


 卓実・真ペアと、他のペアが数組、談話室で話し込んでいた。

 テーブルを囲んで話す一同の中央にはタブレット端末が置かれ、そこには「南と瀬名にバディを組ませる方法」と議題が書かれている。


「やっぱさ、俺的にはあの二人はバディを組むべきだと思ってる」


 この議論の中心となって話をまとめているのは卓実。

 以前から——颯真が【ナイトウォッチ】に入隊してから、繰り返し議論されてきた議題ではあったが、約一ヵ月が経過した今も明確な答えは出ていない。


 卓実の言う通り、颯真と冬希がバディを組むべきである、という結論はとうの昔に出し尽くされたものである。しかし、結論が出ているにもかかわらず、この二人はバディを組んでいない。

 その理由というものが。


「いやいくら何でも南君、自己評価低すぎでしょ」


 憮然として朱美が言う。そうだそうだと周りが頷く。


「いや、冬希も冬希だろ。『私にはバディは必要ない』ってスマしてるけどあいつ、いざという時に抜けてるよな」


 朱美の相方もそう発言し、周りがそうだそうだと首がもげそうな勢いで頷く。


「そもそも、颯真を見つけた日は『【夜禁法】を破ったクラスメイトがいるらしい』からの単独行動だろ? それで颯真が覚醒してなければ冬希も死んでたっつの」

『それはそう』


 卓実たちの声が重なる。


「なぁ、率直に言っていいか?」


 真剣な面持ちで、真が言う。


「どうぞどうぞ」


 メンバーの中では比較的無口な方の真がそんなことを言い出したので、卓実が促す。

 うん、と一つ頷いて、真が口を開く。


「あの二人、付き合えば万事解決じゃないのか?」

「それを!!」

「どうするか!!」

「話し合ってるの!!」


 真の言葉に、卓実、朱美の相方、そして朱美が次々とツッコんだ。


「いやマジであの二人付き合えよ! 見てるこっちがハラハラするっての!」


 だん、とテーブルに手を付いて鼻息荒く声を上げる卓実に、朱美もそうそう、と何度も頷く。


「あの二人、なんて言うか分かる? 『両片想い』よ!」

「それは強調しなくても分かってるって」


 朱美の相方が冷静にツッコむ。デスヨネー、と朱美も再度頷く。

 新人チームの目下の悩み。それが颯真と冬希の関係である。

 本人たちは「戦う仲間としては信頼しているが、込み入った関係になるつもりはない」という態度を見せているつもりだが、周りからすればどこからどう見ても完全に信頼しきった共存関係。

 依存、ではない。何も言わずとも互いを信じ、それぞれの邪魔にならないように行動し、的確に【あのものたち】を屠っていく様は明らかにバディと呼んでも差し支えないものだった。

 それなのに。


 颯真と冬希は頑なに互いを受け入れようとしない。互いに互いを「自分にはもったいない人間だ」や「自分には必要ない」と首を振り、バディを組もうとしない。

 そう言いながらも二人は常に互いを目で追っている。戦闘中でも注意を怠らないから必要な時に必要な連携が阿吽の呼吸で展開される。

 これを両片想いと言わずして何と言えばいいのか、と朱美はため息を吐いた。


「なんか、二人を組ませるいい方法、ないかしら」


 そもそも誠一が命じてしまえば解決の気がしないでもないが、それは以前、冬希が断っている。誠一が「颯真君との息があっているからバディを組んでみては」と打診した瞬間、「必要ありません」と一蹴したのだ。

 基本的に、誠一は隊員一人一人の意思を尊重する。この時ばかりは「なんで命令しなかったんですか」と朱美も詰め寄りたくなったものだ。


 しかし、いつまでも二人を宙ぶらりんな状態にしておくわけにはいかない。

 何としてもこの二人を正式に組ませる、と新人たちを集めた朱美は、他のメンバーと共にああでもないこうでもない、と話し合った。

 二人が組めば【ナイトウォッチ】も安泰になる、誰もがそう信じて。



◆◇◆  ◆◇◆



「アルテミスから二日後の予測が出た」


 誠一が執務室に颯真と冬希を呼び出し、そう切り出したのは夏休みも終盤に入った八月の後半のことだった。


「二日後の予測、ですか」


 怪訝そうに颯真が訊ねる。

 今まで、アルテミスの予測がこんなにも早く伝えられることはなかった。基本的に任務当日のブリーフィングで【あのものたち】の侵攻予想ルートが伝えられ、隊長から各ペアの動きの指示が出されている。


 勿論、颯真もアルテミスがそんな直前まで予測できない欠陥機ではないということは理解している。隊長からもたらされる指示が的確であることを考えると、その数日前から予測は出ていて、作戦立案を担当する部署が綿密に計画しているということは想像できた。

 だが、今こうやって二日後の予測が伝えられるとなると、今回の【あのものたち】の侵攻は特に厳しいものになるということか。

 カレンダーを見れば、確かに新月目前。【あのものたち】が活発に活動する時期である。


「超大型、もしくは上位クラスが出現するのですか」


 緊張した面持ちで冬希がそう尋ねると、誠一ははは、と笑って首を横に振る。


「確かに新月が近いが、アルテミスの予測では大侵攻の時期ではないとなっている。ただ、少し現地調査の必要が出てね。今回は君たちに現地調査を依頼したい、という次第だ」


 誠一の説明に、颯真がえっ、と声を上げる。

 現地調査、それも理解できる。作戦立案のために予測日の数日前に出現予定地の周辺を調査し、【あのものたち】の出現兆候を探る、というものである。この調査の結果、事前に排除可能と判断されれば原因の除去を行い、アルテミスに再計算をさせる。そうやって、【ナイトウォッチ】もほんの少しではあるが【あのものたち】に対して先手を取ることができるようになっていた。


 しかし、颯真たちに現地調査とは不可解な話だ。普段なら調査のための部署が調査を行い、データ収集を行うはずだ。そのための機材も知識も颯真たちにはない。

 一体どういう風の吹き回しで、と首をかしげる颯真に、誠一は苦笑して二人の前にホログラムスクリーンを展開した。


「大侵攻の時期ではない、とは言ったが、新月目前で調査部門もてんてこまいでね。戦闘部門もある程度事前に調査できれば今後の【あのものたち】対策になるかもしれない、と依頼されたわけだよ」

「……はぁ」


 釈然としない顔で颯真が頷く。

 調査部門の言い分も分からないではない。戦闘部門も調査の心得があれば今後に役立てるかもしれない、ということは分かる。分かるが、何故自分たちなのか、と颯真は疑問だった。

 調査、分析なら卓実が最も得意とするところである。周りからはバーサーカー扱いされがちな颯真と冬希が選抜される理由が分からない。

 それを尋ねると、誠一は「あー」とわざとらしく声を発した。


「他のペアも別の任務を頼んでいてね。君たちにしか頼めないんだ」

「……はぁ」


 今度は冬希が声を上げる。

 冬希も釈然としない顔で颯真を見て、それから誠一を見た。


「私と南の二人で、ですか」

「ああそうだ」


 誠一が大きく頷く。


「まぁ、調査と言っても数時間もあればできる簡単なものだからな。そう気負わず行けばいい」


 ホログラムスクリーンに現地の地図や直近のイベントカレンダーなどが表示される。


「調査は明日の昼間、ちょうど土曜日で現地は夏祭りが開催されるらしい」

『なっ』


 颯真と冬希の声が重なった。

 地図を見る限り、調査を行うのはとあるアーケード商店街。夏祭りが行われる、ということは人通りも多く、下手に動けば目立つかもしれない。

 同時に二人は悟った。

 対象の夏祭りは土日にかけて開催される。この二日間で人の気配が濃厚になり、新月が間近だからアルテミスも危険だと判断したのだ、と。


 それなら夏祭り自体を中止してしまえばいいのに、と颯真は思ったが、商店街にも小規模な政治的なものがあるのだから、その都合で中止することができないのだろう、と考え直す。


「……分かりました。調査します」


 颯真が頷き、冬希を見る。


「いいよね? 冬希さん」

「いいも何も……やるしかないだろう」


 一応は任務である。個人の感情で拒否などできない。

 渋々ではあったが、冬希も頷いた。


「引き受けてくれて助かるよ。ああ、当日は夏祭りなんだからそれ相応の準備はしていってもらう」

「準備?」


 そう尋ねてから、颯真はああそうか、と納得する。

 現地調査だから調査機器などの準備があるということか、と自分に言い聞かせ、「分かりました」と言い直す。


「ああ、調査機器の準備ももちろんあるが、それ以外にもやることがあるだろう」


 そう言い、誠一はにやりと笑った。


「勿論、夏祭りなんだから二人には浴衣で現地に行ってもらう。ああ、調査が終わったら遊んできてもいいぞ」

『……は?』


 再び、颯真と冬希の声が重なる。


『はあああああああっ!?』


 執務室に、二人の絶叫が響き渡った。

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