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第14話「よるをはかる」

「じゃあ、僕は……僕も神谷さんみたいに」


 恐る恐る、颯真が尋ねる。

 もしかして、自分も誠一と同じようにいつまでも若いままで生きることになるのだろうか。


 冬希は大丈夫、という言葉を考えると冬希に埋め込まれたチップは量産品、誠一の言う「原型チップ」に比べて出力等は制限されている分人体に対する影響も極限まで抑えられているのだろう。しかし、颯真に埋め込まれたチップが誠一と同じ「原型チップ」であるとすれば。

 誠一のように、多くの仲間を見送る立場に立ってしまうのだろうか。


「まぁ、どうだろうな、とは言ったものの私の『原型チップ一号』と君に埋め込まれた『原型チップ二号』は違う。開発されてから君に埋め込まれるまでにかなりの期間、調整も行われていただろうし、私のような弊害がある、とは言い切れない。勿論、ない、とも言い切れないがな」


 それでも、君は「希望」なんだよ、と誠一が颯真に告げる。


「僕が、希望……」


 いくらそう言われても実感は沸かない。生まれた時に「原型チップ二号」を埋め込まれたと言われても、その根拠が魂の強さとか希望とか言われてもよく分からない。


「それじゃ、話を戻そうか。ちょうど【ナイトウォッチ】にも関わる話だからな」


 誠一が、そう言ってスクリーンの映像を切り替える。


「【ナイトウォッチ】は【あのものたち】の手から街の人々を守るための組織だが、その隊員はどうやって集めていると思う?」


 突然の質問に、颯真が首をかしげる。

 普通、こういった組織なら入隊希望者を募り、しかるべき試験を受け、合格者が晴れて一員となる、という認識が颯真にはあった。


 しかし、このような質問をしてくるということは、恐らくは何かしら特殊な採用方法を採択しているのだろう。それは、一体。


「【ナイトウォッチ】のメンバーは、それぞれがリクルーターなんだ。隊員が素質のある人間を見つけ出し、本部に連絡してスカウトする」


 何となく予想できた採用方法だった。少なくとも、颯真も冬希によってスカウトされたのだから納得できる話である。

 しかし、「素質のある人間」をどうやって見分けるのだろうか。


 そのあたりの話がチップに関係するから誠一は話を戻したのだろうが、それでも疑問は残る。

 自分のように【ナイトウォッチ】の目の前で魂技ちからを発現すれば一目で分かるだろうが、そもそもの話、チップを埋め込まれていなければそんなことはできないはず。


 だとすれば一体、どうやって。

 颯真が疑問に想っていることはすぐに誠一も気づいていた。

 だから、もったいぶることなく説明する。


「チップを埋め込まれた人間には、魂を測定することができるんだよ」

「魂を、測定?」


 颯真の声に、誠一がああ、と頷く。


「試しに力を開放するような感じで、私を見て【測定Measure】とコマンドを口にしてみろ」


 【測定Measure】? と、颯真が半信半疑で意識を集中させる。


「ああ、ちなみに慣れたら息をするようにコマンドは発動できるようになる。その練習も兼ねてになるな」


 分かりました、と颯真が一つ息を吐き、誠一を視界に収めてコマンドワードを開放する。


「【測定Measure】」


 その瞬間、颯真の視界が揺らいだ。

 ぐにゃり、と視界が歪んだような錯覚を覚えるが、それは一瞬のことで、すぐに元の視界に戻る。


 ただ一つの変化を除いて。


「っ!?」


 目の前の、誠一の姿が燃えるような赤い光に包まれている。

 それは昨日、魂技を解放した際の光のようだが、よく考えれば誠一は一言も解放の言葉コマンドワードを口にしていないし、魂技を開放しているときのような荒々しさも感じない。


 どちらかと言うと、スピリチュアルな人間がよく口にする「オーラ」が可視化されるならこのようなものなのか、と思わせるものだった。


「これは……」


 目の前の光景が信じられず、颯真が困惑したように誠一を見る。


「ああ、終了コマンドは【完了Complete】だ」

「……【完了Complete】」


 訳が分からないまま、颯真が誠一の言葉通りに終了コマンドを呟く。

 すると再び視界が揺らぎ、誠一の周りに見えた赤い光が消えた。


「……何ですか、今の」


 何の説明もなく言われたままに流されたが、説明くらいは欲しい。

 今までの話の流れから、これが「魂の測定」ということは何となく理解したが、これの何がどう何を決定づけるのかを教えてもらいたい。


 誠一がうむ、と頷いて見せる。


「今のがチップの機能の一つ、魂の測定だ。人間の魂にはその人間を決定づける色とエネルギーがある。私のはどうだった?」

「……赤くて、力強く燃え盛るような光でした」


 率直に、颯真が見たままの印象を伝える。

 だろう? と頷き、誠一は説明を再開した。


「そう、チップを埋め込んだ人間は他の人間の魂をこうやって測定することができる。その光り方が一定レベルを超えているなら、【ナイトウォッチ】は隊員にならないか、とスカウトするんだ」


 なるほど、と颯真が頷く。

 颯真が見た誠一の魂は力強くも優しさを帯びた炎だった。冬希をはじめとした、【ナイトウォッチ】の面々を見守ってきたのも頷ける力強さ。


 ふと、颯真は冬希の魂はどういうものだろう、と考えた。

 あのショッピングモールで見たままであるなら、氷のように冷たく、鋭い蒼白い光なのか。


 そんなことを考えていると、冬希もトレーニングを終えたのかコフィンから出て、スポーツドリンクを手にこちらに歩いてくる。


「【測定Measure】」


 颯真が、口の中でそっと呟く。

 視界が揺らぎ、冬希の魂が可視化される。


「……」


 颯真の予想通り、冬希の魂は冷たく、鋭い蒼白い光だった。

 ただ、その冷たさが何故か拒絶の冷たさに感じない。

 まるで縁日のかき氷のような、儚さを秘めた、どことなく暖かさを感じる冷たさだった。


 実は、冬希は優しい人間なのではないか、と颯真はふと思った。

 いや、ここに来るまで、ここに来てからも突き放すような冷たさはなかったが、それ以上に熱に苦しむ人間を優しく包むような冷たさを感じる。


「……? 南、どうした?」


 怪訝そうな冬希の声に、颯真は慌てて口の中で「【完了Complete】」と呟き、測定を追える。


「い、いや、なんでも」


 しどろもどろに答える颯真に、頭上にクエスチョンマークを浮かべながらも、冬希は休憩スペースの別のベンチに座った。


「何を教えていたんですか?」

「ああ、【ナイトウォッチ】についてあれこれ説明するついでに魂の測定をな」


 誠一が冬希の質問に答えると、何故か颯真がびくりと身を竦ませる。


「……はぁ」


 その一言で全てを察したのだろう、冬希は気の抜けた返事をし、颯真をちらりと見た。


「私の魂を測定して、楽しいか?」

「え、あの、その……」


 バレていた。


「チ、チップの使い方教えてもらったから試しただけ!」

「ふぅん……」


 意味ありげに頷き、冬希が颯真を見る。


「【測定Measure】」


 冬希がコマンドを口にする。

 数秒の沈黙、終了コマンドを口にし、冬希は誠一を見た。


「……神谷さん、どうして南の魂はんですか?」

「え?」


 冬希の質問に、颯真が声を上げる。

 自分の魂が見えない? そんなことがあるのか?

 あの時、自分を包み込んだ金色の光、それが自分の魂ではないのか。


 冬希と同じように疑問に思った颯真が誠一を見る。


「ああ、それは……私にもよく分からないが、竜一は『特別な存在だから』と言っていた」


 そう言い、誠一が懐かしそうに颯真を見る。


「竜一は私に何度も言っていたよ。『颯真は希望だから』と。『特別な魂を持っているから、悪用されないようにチップの力をもってしても見えないよう自衛しているのだろう』とな」

「僕が、特別……」


 誠一から何度も言われた言葉。

 一体、自分の何が特別なんだろうか。何が希望だというのだろうか。


 自分に埋め込まれた「原型チップ二号」という特別なチップ。希望だと言う誠一の言葉。

 竜一が死に、様々な家庭を渡り歩いたのにも理由があるのだろうか、と思い、颯真は誠一の言う「可能性」とは何だろう、と考えた。

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